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髪長姫は最後に笑う。第三章(7)

第三章 「茅と荒野」(7)

 その日から荒野は、外出する時はニット帽を深くかぶり、髪の毛を隠すようになった。目立つ髪さえ隠せば、「ちょっとハーフっぽい顔立ちの少年」で通る。国籍不明な外見が変わるはずもなかったが、「マンドゴドラの猫耳少年」として目立つよりは、はるかにましに思えた。
 ……今更、ではあるが。

 前後して、茅のほうにも変化があった。
 同人誌の制作を体験して以来、マンガに興味をもったらしく、最初は図書館や三島百合香の蔵書を漁り、それらを読み尽くすと、今度は狩野家に頻繁に訪問し、羽生譲の蔵書を読みふけるようになった。もともとそういう趣味を持ち、長年この家に住んでいる羽生譲は、数千冊単位の膨大なマンガ本を所有していた。
 羽生譲は、
「そうかそうか。茅ちゃんもこういうの好きか」
 といっただけで、茅が好きなように読み漁ることを許容した。
「うちのこーちゃんは、こーゆーのあんま興味ないみたいでねー。張り合いなかったから、同好の志が増えてくれてうれしいぜ。ま、好きに読んでってくれ」
 単純にその頃、彼女が茅に構ってやれるほど暇ではなかったから、かも知れないが、そういって気軽に放置してくれた。
 この日から茅は、狩野家に気軽に出入りすることになる。
 ……まあ、それまでもあんまり遠慮しているようにも思えなかったが。

 羽生譲が多忙なのは、商店街が主催するクリスマス・ショーのイベントが、明日から始まるためでもあった。明日からの三日間、駅前に特設されたステージで、サンタとトナカイの恰好をした才賀孫子と松島楓が跳んだり跳ねたりする、という予定で、その日も、午前中に、二人と軽く打ち合わせをし、歌や振り付けを教えた後、軽く食事を済ませ、さっさと外に出ていった。
 聞けば、何日も徹夜を続けた直後で、流石に、作業終了後、一日だけは起きてこれなかったらしいが、それでも今ではこうして飛び回っている……。
 細く見えるのに、結構タフな人だな、と、荒野は思った。

 狩野真理に是非にと引き留められ、茅とともに狩野家の人々と昼食を取ってから、二人は狩野家を後にした。この日は午後から、二人で買い物にいく予定だった。
 一旦、マンションの駐輪場に戻り、そこで二台の自転車を取り出しているところで、
「あ。ほら、セイッチ。あの二人だ! やぱりそうだよ!」
 という声が聞こえてきた。
 振り返ると、自分らとさして変わらない歳恰好の少年と少女がこっちに近づいてくる。
「や、や。どうもどうも。はじめまして。
 えーとぉ……このマンションに住んでいる、飯島舞花。それと、こっちは、栗田精一。
 っていっても、こっちのほうは結構、お二人さんのこと、みかけているけどね。一方的に……。お二人さん、目立つから……。
 きみら、商店街の外れにあるケーキ屋さんのCMに出演してたでしょ? で、さらにいうと、こっちのお兄さんは……」
 しなやかに手をひらめかせ、荒野の頭から、ニット帽を取る。
「ほら! この色!
 ちょっと前、ゴスロリとニンジャが戦いながらマンションの前、ばーっと、通っていった時、カメラ持って凄い勢いで追っていったお兄さん、この人だよ!」
 こうして間近に対面してみると、飯島舞花は荒野よりも背が高かった。均整がとれた体つきをしているので、少し距離をとると、あまり大きくは見えないのだが。
 そして、連れの栗田精一という丸顔の少年は、茅よりも背が低かった。

「ってことは、あれだよ。やっぱ最近お隣りに住み始めた美人さんが、あの、サンタとゴスロリの人だよ! 顔、そっくりだし!」
 荒野がどうやってごまかそうかと思案しているうちに、飯島舞花と名乗った少女は、荒野と茅をそっちのけで、連れの少年に自説をまくし立てている。
「あとあと、あの、まるっこいトナカイさんのほうも怪しいと思うね。やっぱりいつの間にかお隣りに住んでいるし、顔はわからないけど、体つきなんかはあの時のニンジャとそっくりだし!」
 ……これは、適当にごまかし切れるレベルではないな、と、判断した荒野は、観念して、二人を出てきたばかりの狩野家へと案内した。
 まだ、松島楓と才賀孫子の二人は、食後のお茶をしているはずだ。

「……というわけで……」
『……なんでおれがこんなことしなければならないんだ……』
 そんなことを思いながらも、荒野は飯島舞花と栗田精一の二人を、松島楓と才賀孫子の二人に引き合わせた。
「こちらが、トナカイと、同時にニンジャでもある、松島楓。
 で、こっちが、ゴスロリで、同時にサンタな、才賀孫子。
 もうごまかせないと思ったから紹介したけど、どうしてああいう恰好していたのか、とか、なんであんな動きができるのか、とか、そういうことは問いつめないでくれ。こっちもいろいろ、深い事情があるわけだし……」
「ん。わかった」
 飯島舞花という少女は、自分の推測が正しかったことが証明されただけで満足したようで、あっさりと頷いてくれた。
「で、お兄さんとその子は? 正体なんてどうでもいいから、名前。
 なんて呼べばいい?」
「加納荒野と、加納茅。一応、兄弟」
「一応? ……わけあり、なんだ?」
「うん。わけあり。これ以上は聞かれても、答えられない」
「……ひょっとして……三島先生と仲いいのも、そっち関係の事情?」
 同じマンションに住んでいるのなら、一緒にいるところを目撃されていてもおかしくはない。
「……まあね。やっぱり、詳しくはいえないけど……」
「……そっかぁ……。
 あの先生の知り合いだから、って、今まで敬遠して声かけなかったけど……なんかお兄さん、マトモそうなんで、安心した……」

 ……生徒にどういう目で見られているのだろろうか、あの先生は……。いや、なんかわかるような気もするけど……。

 そんな経緯で軽い自己紹介大会になり、そうこうしているうちに、この家の主婦、狩野真理が顔を出した。
「あら。だれかのお友達?
 ちょうどよかった。今、楓ちゃんと孫子ちゃんの制服が届いてね。ちょっと試着して、みんなにも見てもらいましょう。楓ちゃん、こーちゃんも呼んできなさい。そうね。制服着てから顔だして、驚かせてあげなさい。
 荒野君や茅ちゃんの所にも、今頃、荷物届いているんじゃないかしら……」
 茅が炬燵から這い出して、すくっと立ち上がり、
「茅、とってくるの……」
 と、足早に、玄関のほうへ向かった。

 こうして、即席の制服ファッションショーがはじまった。
「へぇ? みんなうちの学校に転入してくるの? 来年から?
 ふーん……別嬪さんの転入生、団体様でお着き、だなあ……。
 新学期になったら、学校のやつら、騒ぐぞー」
「えへへ……」と、まともに照れ笑いを浮かべる、制服姿の楓。
「わたし、学校って、はじめて行くんですよー」
 などということを、不用心に言いはじめる。
「事情があるんだ! 彼女には!」
 かぶせるように大声を出す荒野も、制服。わかったわかった、と、追求しないことをジェスチャーで強調する飯島舞花。
「……って、そういや、おれも向こうの初等教育くらいか……学校と呼べるようなもんに通ったのって……」
「……これだから、加納の野蛮人は……」
 優雅に眉をひそめる、という高等技能をさり気なく披露する才賀孫子も、制服。
「……って、なんであなたが、わたくしと同じ学年ですの?」
 彼らが通う学校では、学年毎にネクタイの色を変える。孫子と荒野は、同じ水色のネクタイを締めていた。
「……わたくし、あなたのこと、もっと年上だと思っていました……」
「……おれも……」
「わはは。わたしもだ。
 しっかし、こうも老けてみえるのばっかが二年生に集中するとはなぁ」
 栗田精一以外の全員が、「え?」と飯島舞花のほうに振り返る。

 加納荒野と、才賀孫子は、その大人びた態度と雰囲気故に、実年齢よりもかなり上に見られる。
 飯島舞花は、成熟しきった体故に、実年齢相応に見られることが、少ない。
 しかし、彼らは、この場にはいない樋口明日樹と同じく、全員「二年生」だった。
 ちなみに、松島楓と加納茅は、香也や栗田精一、それに、この場にはいない柏あんなと同じ、「一年生」になる。

 彼らの新しい学園生活は、着々と、近づきつつあった。

[つづく]
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