第三話 激闘! 年末年始!!(11)
今年のイブとクリスマスは週末にかかっており、二十三日の祝日と合わせれば、三連休になる。その三連休をあてこんだイベントだった。
「目指せ! 歌って踊れるくノ一とゴスロリ!」
翌日の朝も、羽生譲はいつもと変わらないようにみえた。
「というわけで、今日から特訓だぁ! って、もう本番、明日の夕方だし!」
早いもので、もう二十二日になっていた。
「忍装束で出歩くことは、しばらく禁止されてます」
「わたくしのあのファッションも、同じく」
よーするに、「揉み消すのにも手間がかかりすぎるから、あまり目立つことするな」と、ようやくお咎めがあったのだ。
「……と、ゆーわけでー……」
念のために、監視にきた荒野はいった。
「……くれぐれも、やりすぎないように。
特にアクションは、一般人にも可能なレベルに押さえて……押さえてくれ……頼むから……頼むよぉ……」
この土地に住むようになってから、なんだかどんどん自分が信じてきたものがガラガラと音をたてて崩壊しているような気がしてならない、今日この頃の加納荒野だった。
「そんなことは、このお馬鹿なくノ一にいってほしいものですわ。この子、加減ってものを知らないから……」
「……その言葉、そのままお返ししますのです……」
「まー。練習する時間もないから、軽く打ち合わせくらいはしておこうか。
まずねー、予算もないし、司会はわたしが適当にやるから、そのナレーション通りにやってください。
いちおー、
子供たちへのプレゼントを、欲に駆られたトナカイが持ち逃げ!
トナカイを追いつめるぜサンタ!
勃発するバトル!
勝利するサンタ!
改心するトナカイ!
っていう、大雑把なシナリオはあるんだけど、ぶっちゃけ、いわゆる人集めのネタなショーなわけだから、そんなもん、形だけ……あんま真剣に受け止めないように。
ふっふっふ。
所詮、お客が欲しいのは、ど派手で人外魔境なアクションだぁー!」
「って、だから、そこまでやっちゃ駄目だって、羽生さん!」
「……もー。カッコいいこーちゃんってばイケズぅ……。
まあ、いいや。
そういうことで、二人とも、そこそこはみ出さない程度に、派手に立ち回ること……。
って、今更この二人に、アクションでわたしが指導することってないよなー……」
「……それなら、なんで朝からわたくしたちを集めましたの?」
「そりゃあ、きみぃ……最初にいったじゃないかぁ!」
羽生譲は、ずずずず、と、湯飲みのお茶を啜った。
「歌って踊るのさ!
せっかく二人揃ったんだ。エンディングでど派手にピンクレディーかますのよ! 昭和歌謡曲の馬鹿馬鹿しさを無知な大衆どもに教えてやれぇいっ!」
狩野家の居間で、炬燵に手足をつっこんでいた、羽生譲以外の人間は、揃って深いため息をついた。
「……おれたち、その時代に生まれていません……」
「……わたしも、かろうじて端っこに引っかかってるだけのクチだけどな……」
派手で受けそうなことには変わらないので、二人は、
『なぜ、サンタとトナカイが、ピンクレディーのメドレーをやるのか?』
という根本的な疑問をさしおいて、一応、小一時間ほど、練習をすることになった。
すぐに昼になり、今日も夕方からバイトが控えている二人を休養させるためにも、食事前にさっと解散。食事をとってから、羽生譲は、庭にまわる。
「おー。やっているねー。こーちゃん。どうだい、調子は?」
狩野香也がベニヤにペンキを塗りたくっている最中だった。
「……んー。ペンキは、さすがにやったことなかったから、こんなんでいいのかなーって……」
「上出来上出来。舞台美術は、遠くからみるわけだから、荒くてもいいのよ。細かく書き込んでもみえやしないから、てきとーにざっくり塗るていどでいいよ……」
「……んー……じゃあ、もう、こんなもんかなー。手直しするところあったら、早めにチェックしておいて……」
「うん。大丈夫。これで十分だと思うよ。乾かす時間もほしいからさ、もう引き上げちゃっていいや。今年はばたばたと仕事増やして悪かったねー」
「……んー……」
羽生譲は、愛車のスーパーカブに乗って、駅前に向かった。
駅前広場では、盆踊りの時に使用する鉄パイプを借りて即席の舞台が組まれている最中のはずであり、実際の広さなどの感覚を、本番前に自分の目でみて、広さなどの感覚を掴んでおきたかった。
比較的小さな設備だったので、羽生譲が到着した時には、土台はほぼ組あがっており、舞台の床になる三十センチ幅の板材を、その上に敷いている最中だった。
「あ。来た来た。今回のいいだしっぺ」
めざとく羽生譲の姿を認めた商店街の人々が、駆け寄ってくる。羽生譲と同じように、舞台の設置を見物にきた人が、何人か固まっていたのだ。
「軽くはじめたつもりが、なんか、すごいことになってきているな。
この年末、ここいらみんな、ここ数年で一番の売り上げだよ。
みんな、あんたたちのお陰だよ」
「そういうことは、頑張ってくれたサンタとかトナカイにいってやってください。
わたしゃあ、けしかけてやっただけなもんで……。
できたら、あの二人になんぼかでも包んでいただけると、嬉しいっすねぇ……ほんの気持ち程度にでも……」
「うん。まあ、そうだなあ。そんくらい、するべきだよなあ。ほとんどあの子らのおかげだもんなあ……よし、こっちでもカンパって形で、声かけてこっそり集めてみるよ」
「そうっすね。彼女ら、本当は働けない年齢のはずなんで……その辺は、なにとぞよしなに……」
帰りに銀行に寄って、いくらかお金をおろし、二つの封筒に分けていれる。柏姉妹の家に行き、インターホンを押すと、姉のほうがでてきた。
「ども」
「あ。ゆず先輩」
「とりあえず、今日は二人の分け前の仮払いってこって。妹さん、クリスマスのプレゼント買うっていってたろ? その分いくらかでも、先に、ね。残りは、本が売れてから、来年にでも」
「いつもすいませんねー。先輩。今度もうまく売れてくれるといいですねー」
「んー。どうだろうねー。一応、売れ線研究したりしているんだけど、結構はやり廃りも激しいし世界だし、一種の水物だからなー……。
実は毎回、結果が出るまで冷や汗ものだったり……」
「そうですねー。でも、もうやるだけやったから、後は売り子さんたちの奮戦にまかせます」
「そうっすね。年末、頑張ります」
「ふひぃー」
夕方に帰宅した羽生譲は、流石に疲弊していた。
「明日からイベント三連ちゃんかー……今夜は、早めに寝るかなー……どれ、ちょっと早いけど、ご飯前に、お風呂かシャワーにでも……ん?」
風呂場には、先客がいた。
[
つづく]
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