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髪長姫は最後に笑う。第三章(8)

第三章 「茅と荒野」(8)

 制服のお披露目が済むと、茅と荒野の二人は早々に狩野家からに戻り、一旦マンションに戻って制服を脱いでしまいこみ、普段着に着替えてから、再び駐輪車に向かった。
 当初の予定より、なんだかんだで二時間くらい遅れたが、この日は、お節料理の材料と、それに、クリスマス・プレゼントを買うため、商店街より少し遠くなるが品揃えの良い、国道沿いのショッピング・センターに行く予定だった。
 三島から和食の基本をたたき込まれた茅は、「自分の腕を試すために、お節料理に挑戦したい」、と少し前から言いだしていた。お節を材料から作るのには時間も手間もかかるが、和食の基本的な調理方法を全て網羅している、という点では、いい試験材料でもあった。
「あれは、和食の技法を一通りマスターしていないと作れないからな」の三島のなにげない一言に、茅が触発されたらしい。正月まではまだ少し日数があったが、実験やら練習やらも含めて余裕をみると、時期的にもちょうどいいように思えた。
「茅がやる気になっているのなら……」と、荒野も荷物持ちを買ってでた。荒野は、運転自体は問題なくできるが、日本の法律では免許を取得できる年齢に達しておらす、自動的に、自前の足は徒歩か自転車に限定される。書類上は、荒野の妹ということになっている茅も事情は同様で、大量の重い食材を茅一人に運ばせるのは、少し気の毒に思えた。
「クリスマス・プレゼント」はそのついでのようなもので、実は、茅には、まだ買うということさえ、告げていない。

 冷たい風を切るようにして自転車をこぎ、国道に出る。国道沿いに十分ほど延々と自転車をこぐと、この近辺では一番商品が揃っている大型ショッピング・センターにようやくたどり着く。車がないと不便な立地だが、各種店舗が内部にひしめき合い、ここができてから、駅前の商店街の客足がめっきり落ち込んだという。とはいっても、似たような情景は、現在の日本各地で散見されるのだろう。日本に限らず、モータリゼーションが行き着くところまで行き着いた地域なら、世界中どこでも似たようなものなのではないのか、と、荒野は思う。
 予定よりも出発するのが遅くなったので、「たまには、夕食を外食で済ますのもいいな」、と、荒野は思いはじめている。
 普段、自炊することが多いのは、荒野自身が一食につき、人の三倍くらいを平らげる大食漢であることと、マンションの近所にろくな飲食店がないからだった。このショッピングセンター内には、当然のことながら、小綺麗な飲食店も多く軒を並べている。

 あらかじめ茅が用意していたメモに従って、乾物や豆を中心に食材を買っていくと、あっという間に荷物は膨れ上がった。大きなポリ袋を三つ、四つ抱えた時点で、荒野は「今日はこの辺で」と、茅をとどめた。
 重量的には、この数倍は楽に持てるのだが、人通りの多い場所で、あまり大きな荷物を抱えて目立つつもりもなかった。
「足りない分は、また今度、な。
 それより……」
 荒野は、たまたま目についた、少しマニアックな雰囲気の店舗を指さした。
「……あそこで、茅へのクリスマス・プレゼントを買わせてよ」
 その店舗に、毎週日曜日の朝、茅が熱心に視聴している「奉仕戦隊メイドール3」の玩具らしきもの、が、ディスプレイされているのが、たまたま目に入ったのだ。

 荒野の目には「少しマニアックな」くらいにしか写らなかったが、その店は「少し」どころではなく、かなりディープな店だった。
 商品も、マニア向けのフィギュアやトイ・モデル、トレーディングカードなどで占められており、要するに「子供向けの玩具屋」というよりは「大きなお友達向けのショップ」で、商品の一つ一つがハイ・クオリティにできている代わりに、単価も、相応に高かった。
 そんな店に入ってきた若い男女……茅と荒野は、は、いろいろな意味で「場違い」だった。
 ニット帽を被った男のほうが、食材の入った白い大きなポリ袋を多数抱えていたこと(そのような生活臭さは、このような趣味的な店には、まったくもって不釣り合いだ)、男女ともに若く、そして美形だったこと(そもそも、カップルで入る客などほとんどいない店だ。ましてや、「若い、美男美女のカップル」など、皆無といってもいい)、など……。

 もっとも違和感を覚えさせたものは、その会話だった。
「なあ。これなんかどうだ、茅? こんなロボットが、好きなんだろ?」
「これ、最強審神ジャスジャッジスなの。メイドールの前の番組に出てきたやつなの」
「……うーん。そういわれてもなぁ……おれには見分けがつかないし……。
 じゃあ、茅。この店のなかので、なんか欲しいものあるか?」
「この中で欲しいもの……だと、これになるの」
 カップルのうち、長髪の女が指さした商品を確認して、男のほうが、目を見開いてて、驚愕の表情を形作った。

 カップルのうち、男よりも女の方がその手の情報に詳しい、というのは、まあ、いいだろう。少数派ではあるが、確かに、ごくまれには、そういう組み合わせのお客もいる。それ以前の前提として、「カップル客」自体が、極端に少ないのだが。

 しかし、それにしても、そういう彼女の趣味にあまり理解を示さない男というのは、果たしてどういうもんだろうか……。

 彼らの対応にでた店員は、この店に来る多くのお客たちと同様、「彼女」どころか「女性」そのものに縁がないタイプだったので、やっかみ半分、内心で、そう思わないわけにはいかなかった。

 ……それも、こんな可愛い彼女が、自分から「こんな服を買ってくれ」なんていいだすことは、滅多にない。あるわけがない。現実には、あってほしくない。
 そんなことが実際に起こるのは、それこそ、エロゲの中くらいなもののはずだ……。

 そう思いつつも、その店員は、商売用の愛想笑いを浮かべて、それはもう丁寧に、「奉仕戦隊メイドール3 スーパー・ウルトラ・コンプリートになりきりよ(はぁと) ご奉仕セット」をラッピングした。

『……こんな可愛い彼女が、みずからこれを着て、ご奉仕してくれるなんて!』
 という嫉心は、極力心に秘める。ビジネスはビジネスである。

 その表情を見る限り、どうにも、そのカップル、特に男の方は、「かなり本格的な裁縫のメイド服一式」の価値を、まるで理解していないように思えた。

 翌日、飯島舞花と栗田精一は、昨日教えられた部屋に、加納兄弟を訪ねていった。
「……うーん……遊びに来るのは構わないけど、結構留守にすること多いし、居るかどうかまでは保証できないよ」
 といいながらも、昨日、加納の兄は、部屋番号を教えてくれた。
 なに、二人にしてみれば、留守なら留守で飯島舞花の部屋でいちゃつくだけのことなのだ。今までの試験休み期間中、ほとんどそうしてきたように。
 飯島舞花の保護者である父親は長距離トラックの運転手をしており、不在がちだったし、二人の関係は公認のものだったので、仮に父親がいても、あまり問題にはならなかった。

 だが、彼らが訪問したその時、加納兄弟は、たまたま在宅していた。
 しかし、出迎えてきた茅の恰好をみて、二人は絶句することになる。
「いらっしゃいませ、ご主人様……なの」
 メイドだった。
 まごうことなき、「あの」メイドだった。
 世界の趣都、アキハバラにいけば、ダース単位で生息していてチラシを配っていたりする、「あの」メイドだった。

 茅に即され、フローリングの廊下を通ってダイニングに行くと、加納荒野がむすっとした顔をして、ソファに座っていた。
「……お兄さん、いい趣味しているなぁ……」
 飯島舞花がいった。
「いや、おれの趣味じゃないって。てか、お前、わかっててわざといっているだろ? あの服、茅の趣味。昨日あれから、買い物がてらに、クリスマス・プレゼントなにがいいかって聞いたら、茅があれ選んだの。よほど気に入ったのか、昨日からずっと着ている。あのまま外にいこうとするのを、ようやく止めたところだ……」
 加納荒野は、人生の苦渋を一息で表すような、深い深いため息をついた。

 それから茅がいれて、振る舞ってくれた紅茶は、かなり高級な茶葉を使用しているのか、たしかに香り高く、そして旨かった。

 さすがは、メイドさん。

[つづく]
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