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第三話 激闘! 年末年始!!(20)
『……あ!』
樋口明日樹は、香也が指先を浮かせて、なにかを描く動作をしているのに気づいた。
これは、香也がインスピレーションを受けた時の癖で、頭の中でラフ・スケッチかなにかを描いているつもりでも、無意識裡に腕や指先が動いている。イメージ・トレーニングの絵画版、といったところだろうか。
『……でも、人物画のモチーフで、ここまで狩野君が乗り気になったことって、今まではなかったんだけどなぁ……』
樋口明日樹は複雑な心境で、無意識に腕を動かす香也をみている。
明日樹にみられている香也は、ステージの上で、何十年も前のチープな歌謡曲を歌って踊っている三人の娘に注がれている。だが、三人の顔や体、動きなどの外見よりも、もっと別のなにかを、三人の姿から探ろうとしているようにも、みえる。
香也は、網膜に映る具体的な事物ではなく、脳内のイメージを模索しているような、どこか焦点のあっていないような目つきをしていた。さまよい歩く夢遊病者のような目つき、とでもいえばいいのだろうか。
とろん、としていて……心ここにあらず……といった雰囲気を、香也の体全体が放っていた。
……少なくとも、ステージ上の彼女らに、女性的な魅力を感じているわけではないのだ……。
と、明日樹は、そう、思おうとした。
「……おーい……狩野くーん……起きてるぅ?」
冗談めかして、香也の目の前で手のひらを振ってみる。
「あ、先輩。ごめん。ちょっと考えごとしてた」
意外なことに、香也はすぐに反応した。しかし、視線は、ステージの上に釘付けになったままだ。
「ひょっとして、新しいモチーフみつけた?」
「モチーフ……って、わけではないけど……」
香也は、意外にはきはきと答える。でも、その歯切れの良さが、なんか、いつもぼーっとした印象のある香也らしくなかった。
「あれ、ぼくも、そろそろ模写や技法の練習ばかりではなくて、自分にしか書けない絵を描きはじめる時期なんじゃないかな、って、たった今、思い始めたところ……」
「……あの……この、あの子たちの歌とか踊り、そんなに、いい?」
才賀孫子の歌唱力とか、松島楓の動きのキレのよさとかは認めるものの……総体的にみると、明日樹には、素人芸の域を出ていないように思えるのだが……。
「……いや、うまい下手、っていう問題じゃなくて……なんていうかな……」
香也は、しばらく黙り込んだ。
明日樹に説明するのに適した言葉を、探しあぐねているようだ。もともと、弁の立つ少年ではない。
「なにかを、したり、作ったりすることで……それは、歌でも踊りでも、絵でもいいんだけど……それを目にした人を、動かす……感動、とはいかないまでも……なにか、感じさせる……ことに、ぼくは、今までためらいがあった……」
ひとつひとつ言葉を探りながら、香也は、自分の考えを、ゆっくりと明確化していく。
樋口明日樹も、それを真剣に聞く。
「少し前、ある人がぼくの絵をみて、空っぽだね、といって、ぼくも反射的に、空っぽだよ、って答えたんだけど、でも、その人は、空っぽだけど、でも、ぼくの絵にはなんかあるっていってくれて……ぼくは、自分の中になにもない、と、今までずっと思っていて、それを埋めるために絵を描いて、描き初めて、書き続けてきて……でも、空っぽだけど、なんかありそうだていってくれた人がいて……もし、その人がいうように、ぼくの中になんかあったとしたら、ぼくにはもう絵を描き続ける理由がないってことで……ああ。そうじゃないな……」
香也は、頭を掻きむしる。これほど多弁な香也も、樋口明日樹は、初めてみる。
「……理由があろうがなかろうが、ぼくは絵を描くのが好きなわけで、好きでやっていることに理由をつける必要もない、わけで……でも、最近は、なんかいろいろあったせいか、自分の絵をいろいろな人にみて貰いたい、とか、ぼくの絵から、なんか受け取って貰いたいって気持ち……欲、が、強くなってきて……うん。それだ」
香也は、ステージの上で歌い続ける三人の少女を指さした。
「……ぼくも、彼女たちがやったみたいに、いつか、自分の絵で、いろいろな人に、なにかを与えたい。
だから、これからは、人真似ではなくて、ぼくにしか描けない絵を描くための練習を、はじめようと思う」
「……うん」
契機はいろいろと……それこそ、最近香也が体験した、大小様々な出来事が影響しているのだとは思うけど……香也は、最近、変わった……ように、見える。あるいは、変わりつつある。
樋口明日樹が出会った半年くらい前の香也と今の香也は違うし、半年くらい後の香也と今の香也も、おそらく同じくらいに違うだろう。
でも……。
「……いいと思う。それで。
狩野君は、絵に、もっと自分を出すべきだよ」
数年先、数十年先まで……とは、いはない。
……せめて、あと何年かは、香也の側にいて、香也の変化を見届けてみたい……樋口明日樹は、相変わらずステージを見続けている香也の横顔をみながら、そんなことを考えていた。
……なにせ樋口明日樹は、狩野家の関係者以外で、初めて香也の絵に価値を見いだした人間なのだから……。
盛況のうちにクリスマス・ショーが終わるのを見計らって、樋口明日樹は、香也の腕をとり、ステージの脇の楽屋まで、半ば無理矢理、香也を引っ張っていく。
珍しく、香也がやる気を出したのだ。そのきっかけとなった人物たちと、改めて対面させれば、もっといい刺激を受けるかも知れない……。
樋口明日樹は、そう思った。
当然のことながら、明日樹は、昨夜、狩野家の風呂場で起こった騒動を知らない。だから、なぜ顔見知りの人々に挨拶にいくのを、香也がいやがっているのか、その理由も察することが出来ない。
二人が顔を見せるとほぼ同時に、すでに私服に着替えていた才賀孫子が「用事があるから」と出て行った。メイド服で乱入した加納茅は、すでに姿を消していた。羽生譲も、表面上はいつもと同じように振る舞おうとしていたが、どことなく、上の空っぽい空気が周囲にまとわりついていて、不自然に顔を反らせて香也の顔をまともにみようとしなかった。
やはりトナカイの着ぐるみを脱いで私服になっていた松下楓だけが、いつも通りの様子で「一緒に帰りましょう」といってくれた。
[
つづく]
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