2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第三話 (21)

第三話 激闘! 年末年始!!(21)

「わたしずっと山奥にいたから、こんなに人をイッパイ見るのも初めてですし……」
 帰る道すがら、松島楓は、屈託のない笑みを浮かべて、同行した二人にそう語る。彼女にとっては、「トナカイの着ぐるみを着る」ということは、屈辱的であるよりは、むしろ些末な、なんでもないことらしい。
「商店街の人たちやお客さんたちに喜ばれると、素直に嬉しくなるんです。わたしでも、なにか人の役に立てるんだなあ、って……」
 そういう松島楓は、狩野香也や樋口明日樹と同じくらいの年格好の少女に見える。
 が、一月……いや、もう二月近く前になるか、狩野香也の上に、文字通り、降って湧いてきた少女、であり……その現場を、樋口明日樹も目撃している。
「わたし、大人になったら、見ず知らずの他人に、いろいろ酷いことをしなければいれない……そう言い聞かせられながら、育てられてきました。
 だから、今の平和な生活が、すっごく楽しいんです……年明けからは、本当に、学校に通わせて貰えるっていうし……」
 外見上は自分たちと同じようで、言葉も通じるけど……松島楓と自分とでは、育った環境があまりにも違いすぎる……と、樋口明日樹は、感じる。
 松島楓は、帰宅した狩野香也にべったりと張り付いていつ、というようなことを、羽生譲は、以前から、それとなく、樋口明日樹の耳に入れている。たぶん、羽生譲なりの配慮、なのだろう……。
 ……でも、これは……松島楓が狩野香也を頼りにする気持ちは、いわゆる色恋沙汰的なものとは、少し種類が違うのではないか? 樋口明日樹は、そう思わざるを得ない。
 自分の狩野香也に対する気持ちも、また……羽生譲がそうだと言い切るほどには、樋口明日樹自身は……狩野香也に恋愛をしている、という自覚が持てないでいる。
 たしかに、狩野香也という存在は、今では、樋口明日樹にとってかなり大きな存在だ……。しかし、それは、世間一般的にいうところの「恋心」ないしは、いわゆる「異性への関心」なのかどうか……恋愛経験のない樋口明日樹には、イマイチ、断定できない。
 そもそも、下手をすると、香也本人よりも、香也の絵のほうが好きなような気もするし……。
 だから樋口明日樹は、松島楓にも、敵愾心や競争意識は持てないでいる。例えばこれが、同じ狩野家の同居人でも、才賀孫子が香也に接近してきたたとしたら、かなり心穏やかでいられなかった気もするが……。
 現在のところ、樋口明日樹と松島楓との関係は、極めて良好である。

 松島楓は、無邪気に、この日あったことのあれこれを、遂一報告するように同行する二人に話しかける。樋口明日樹は、松島楓の話しに丁寧に耳を傾け、ひとつひとつに相づちをうつ。狩野香也は、松島楓の話しをきいているのかいないのかよく分からない。例によって、ぼーっとした表情をして、歩いている。
 年の瀬が押し迫ってきたその日、夕刻の帰路、三人の様子は、そんな感じだった。

 狩野家に着くと、狩野真理が三人を出迎えた。
「あら、樋口さんも一緒? よかったら晩ご飯、樋口さんもこっちで食べちゃいなさい」
 樋口明日樹の家は兄弟が多い。故に昔から、外で食事をする機会があったら、逃さないようにする癖がついてしまっている。明日樹だけではなく、他の家族も、だいたい、同じような癖がついている。食い扶持が減れば、それだけ、他の家族におかずが余分に回るからだ。これは幼い頃からの習性、みたいなもので、現在では、明日樹の姉は、勤務時間が不規則な職場に就いているし、弟は不良化というより、半ば野生化しているので、夕食の時刻になっても帰らないことが多い。故に、もはや明日樹が外食の機会を好機とすべき理由はないのだが……狩野家のお誘いに限り、明日樹は、だいたい受けることにしている。
 真理の料理の腕が確かだったことと、他の住人や常連の話しが、面白かったからだ。以前は、年上の女性……といっても、姉とは全くタイプが違う羽生譲がいるだけだった。が、現在では、松島楓がいる。才賀孫子がいる。それに、時々、加納兄弟が混ざる。
 ここ最近の狩野家は、以前と比べても、すっかり賑やかになってしまった。

 明日樹たちから少し遅れて、才賀孫子も、加納兄弟と、それに、何故か、飯島舞花とその付属物一名を伴って帰宅してきた。真理が、明日樹にしたのと同じように、夕食を勧める。これほど大勢の人間を招待して、果たして大丈夫なのか、心配になってきたが、真理曰く、「明日からしばらく留守にするから、その分、総菜の作り置きを余分にしていた」ということだった。
「あれ? 樋口? なんでこここに……あ。狩野……そうか、狩野って、ここの狩野、だったのか……すぐ近くなのに、今まで気づかなかった」
 どやどや入ってきた一団の中で、すでに炬燵に入っていた樋口明日樹をみつけた飯島舞花がなにかいいかけたが、すぐに、同じ炬燵に入ってスケッチブックを広げていた狩野香也の存在に気づき、一人で納得して、うんうん、と頷く。
「どうだ。そっちはうまくやってるか?」
 飯島舞花は、樋口明日樹の隣に潜り込み、大きな背を丸めて、炬燵に両腕を突っ込む……振りをして、肘で明日樹の腕を軽く小突きながら、明日樹だけに聞こえるような小声で、囁く。
「そっちほどは、うまくいってないわよ。バカップル」
 明日樹も、飯島舞花に、小さい声で囁き返す。飯島舞花と栗田精一が付き合っていることは、校内でも有名だった。
 身長差がありすぎる、ということと、女性の方が背も高いし、学年が上だし、美人だし……という点で、それなりに目立つ組み合わせ、でもあった。
 栗田との付き合いをカミングアウトするまでは、舞花も結構猫を被っていて、スタイルの良さとか顔とか、外見的な面ばかりが注目されていたが……今では、舞花の、気さく、かつ、ダイナミックな性格のほうも、周知のものになりつつある。

 そうこうするうちに、羽生譲も帰宅し、大人数での賑やかな食事となった。
「ああ。そうか。真理さん、明日からでしたっけ? 先生の個展」
「そう。留守中お願いね」
「うす。って、まあわたしは、あんまやることないけど……」
「料理は交代で、ということで……」
「あ。こーちゃんは止めておいたほうがいい。この間やらせてみたら、指切りそうになったし……」
「そういや、楓は料理できるのか?」
「野戦食や、サバイバルなものなら習っていますけど……」
「茅が作ってもいいの」
「あー。そうだな。普段、お世話になっているし、最近は腕も上がってきているし……その代わり、おせちばっかりだけど……」
「ああ、それから……。
 こーちゃん。今年はわたし、いけないけど、いつものプレゼントもちゃんと用意していたから、明日か明後日あたり、お願いね……」
「……んー……わかった……明日、行く」
「なんですか、それ?」
「孤児院。ぼくのルーツ。毎年、ぼくと真理さんとで、行くことになっているんだ。クリスマスの時期に……」
「え?」
「あれ? いってなかったっけ? ぼく、養子。この家の、もらわれっこ」

[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび

【PR】 ランキング上位者に、賞金最高10万円! 有名ブログランキング

twon_honey.jpg
↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのに]
熱湯 ALL ADULT GUIDE Hサーチ アダルトガイド Link od Link 大人のナイトメディア「アダルトタイムズ」 アダルトサーチYasamsam アダルトトレイン ちょらりんく18禁 週刊!ブログランキングくつろぐ


Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ