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彼女はくノ一! 第三話 (27)

第三話 激闘! 年末年始!!(27)

 駅前のステージのほうに行くに従って人口密度が増していくのは昨日、一昨日と同じだった。が、ショー最終日の今日は、以前にも増して人が多くなっている。少しステージから距離を取ると少しは余裕が出来るのだが、ステージが視界に入る位置に来ると、途端に人がみっしりとつまっている状態になって、交通整理にかり出された警備員の誘導の声も虚しく、立ち止まってショーの開始を待つ人々が多かった。
 やがて、最後のショーがはじまり、羽生譲の司会によっていつもと同じ通りの進行を繰り返す。挨拶。才賀孫子の賛美歌。松島楓のトナカイの逃走。才賀孫子の歌はどうせ商店街の放送で離れた所でも聞けるのではないか、と、狩野香也は思っていたが、一昨日に聞いたときよりずっと近い場所に陣取ってじっくりと聞いた今日、「やはり、迫力が違うな」と認識を改めた。商店街の放送システムは所詮必要最低限の設備であり、細かな息づかいまで含めて歌声を再現するほどの精度は持ち合わせていない。ライブでみるのと機械を通して間接的に触れるのとでは、やはり違う……と、音楽に詳しくない香也でさえ、認めざるを得なかった。才賀孫子の歌が終わると、いつものように戯けた動作をみせつけて楓のトナカイがステージから客席に降り、すぐに姿を消す。それを追う孫子のサンタに道を造りながら、観客たちは声援を送っている。ハプニングのインパクト、という点では、はやり、なにをやり出すのか予想がつかなかった初日には及ばないだろうが、トナカイの出現場所をメールで受け付け、それを実況中継することで、この様相劇の間は、商店街全域を舞台にした参加型のイベントになってしまっている。トナカイとそれを追跡するサンタは、一回の逃走劇毎に商店街を万遍なく回っているような感じなので、その時商店街に居さえすれば、必ず、どこかで姿をみることができる。普段通りに買い物をしている客がたまたま逃走劇をリアルに目撃する、ということも起こりうるわけで、……その場にいる人々に共通体験を作ることで、緩やかな連帯意識を作る作用がある。ステージの側に来れない人々へのサービスにもなるし、羽生譲がトナカイが出没した付近の店名を連呼することで、商店街の一店舗一店舗のアピールにもなっている……。
 どこまでが羽生譲の、あるいは、出演者である松島楓と才賀孫子のアイデアなのかわからなかったが……商店街の活性化として行われるイベントとしては、実によくできている……と、香也は思った。
 最後に一時間弱、トナカイとサンタが大昔のポップ・ソングのナンセンスな歌詞を歌って踊る。その歌が流行った当時、香也たちは産まれていないし、耳慣れないその曲が、当時、どれほどメジャーなものだったのか、という知識もないわけだが、滅茶苦茶な運動量の、激しい振り付けを続けざまに行って息を乱す様子もない二人のスタミナは、確かに一見の価値があると思った。今日も、当然のように途中から猫耳メイド服姿の加納茅が乱入し、二人と全く同じ振り付けをこなして、歌って踊る。マンドゴドラの店頭でも常時放映されている茅の顔はそれなりに知られているようだが、それでも茅の名前まで知られていない。茅が乱入すると、観客たちは「待ってました」と声をかけたり、拍手したり、「またでたよあのメイド」と囁きあったりしていた。
 三人娘が一通り歌い終わると、羽生譲の司会が一段落するのを見計らって、茅は、ずい、と、一歩前に進み出て、唐突に、
「わたしたち、普通の女の子に戻ります!」
 とマイク越しに宣言をする。予定とか打ち合わせをしていなかったらしく(常時乱入の茅に、そんなものがあるわけもないのだが)、司会の羽生譲も密かに戸惑っているのが、香也の目からは感じ取れた。
 比較的年配の客が「キャンディーズかよ」とかいいながらもパチパチと拍手をしだすと、それはその場にいた人々全体にすぐ広まっていいって、羽生譲がてきぱきとショーの終わりを宣言し、四人はステージから降りた。
 拍手はいつまでも続いていたが、どれだけ拍手が長く続こうともアンコールなどは一切なく、商店街のクリスマス・ショーは全てのプログラムを終えた。

 祭りは、終わった。

 いつまでもその場から去ろうとしない人々を掻き分けて、なんとか全員で楽屋にいく。楽屋、といってもステージの袖に急造された狭いスペースだが、ベニヤやカーテンで仕切られ、着替える場所もなんとか確保されている。依然として人が多すぎたのでなかなか進むことができず、わずかの距離を移動するのに思いの外時間がかかり、そこにたどり着いた時には、松島楓と才賀孫子はすでに普段着に着替え終え、灯油ストーブの前で、羽生譲と商店街の人々に囲まれていた。商店街の人々は例外なく機嫌がよい様子で、にこやかな笑みを浮かべながら口々に二人をねぎらっている。すぐ側にちょこんと立っている加納茅は、猫耳をポケットにしまい、あの服装の上にコートを着こんだだけのようだった。
「あ。皆さん!」
 めざとく、香也たちが入ってきたの見つけた松島楓が、駆け寄ってくる。
「みてください。こんなに、お礼いただいたんですよ! わたし、自分で働いたお金頂いたの、初めてです!」
 よほど嬉しかったのか、楓はね封筒えお開けて中身を見せようとさえ、香也をはじめとするその場に居合わせた人々が、「まあまあ」となんとか、必死にそれを押しとどめる。
「いや、そんなもん。お嬢ちゃんたちがやってくれたことに対して払う額ととしては、少ないもんだと思うがよう……」
 どこかのご隠居だろうか。初老の、赤ら顔のおじさんがそんなことを言いはじめると、周囲にいた商店街の人々がうんうんと頷きはじめた。
「この商店街が、こんなに人に溢れたのって、何年ぶり何十年ぶりのこった。高度成長期の時以来じゃないのか、ここがこんなに活気でたの……。
 それを考えりゃ、こんな謝礼なんて、全然安いもんよ……」
 ちらりとみただけでも、楓が手にした封筒は結構分厚かった。具体的な金額まではわからないが、少なくとも、楓たちが当分小遣いには困らないだろう、ということは、推測できる分厚さだった。
「こんな、なんにもないような町でも、やりようによては人は呼べるんだ……ということがわかったのが、一番の収穫だな……。もちろん、お嬢ちゃんたちがやったみたいに、いつもいつも千客万来、ってわけにはいかないだろうが……それでも、なにかやれば、なにかしらの成果があるんだ、って手応えを感じられたことが、大きいよ。うん。まだまだ諦めちゃいけない、ってな……」
「……あー。それで、電気屋さんから頼まれてた見本というのが、これなんすが……」
 羽生譲がノートパソコンの画面を開いて、商店街の人々に説明をし始める。
「……こんな感じですね。こうやってお店の写真にカーソルを合わせると、一店一店の詳細な説明がこっちのほうに出てくるわけです。動きがあったほうがいいと思ったんで……」
「……売り出し情報とかどうすんのかね?」
「そういう、速報性が強いものに関しては、ブログでフォローしようかなぁ、と……。携帯で気軽に更新できるのもありますし……」
「だからな、そのブログってぇのを使うと、携帯の決まったアドレスにメールを……例えば、『何日何時からタイムセール』みたいなこと書き込んで、出せば、その場で自動的に更新されるわけだ。で、お客さんのパソコンや携帯で、いつでもみれるようになってだな……」
 作業服姿の電気屋さんが羽生譲をフォローし始める……。

 なんだかんだと話し合いをし始めた大人たちを後にして、松島楓、才賀孫子、加納茅を加えた一団は、ぞろぞろと帰路につく。
 しばらく歩き、商店街からも人混みからも離れてた場所で、ぽつり、と、松島楓が、会話の合間に呟いた。
「……あー。終わっちゃったんだなぁ……って、感じですぅ……」

 そう。
 祭りは、終わった。

[つづき]
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