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彼女はくノ一! 第三話 (28)

第三話 激闘! 年末年始!!(28)

 そろぞろ帰る途中で、柏千鶴が「晩ご飯の材料を買わなければ……」といいだし、松島楓、才賀孫子、飯島舞花も「ああ。そういえば」と、いいだす。羽生譲は今夜、このまま商店街打ち上げのほうに参加する予定だったので、狩野家の夕食は自分たちで用意しなかればならなかったし、飯島舞花の父親は、今夜も不在らしい。舞花はこの年齢で、実質上、家の家事をほとんど一人で行っている。その舞花に「セイッチ。今晩は、どうする?」と尋ねられた栗田精一は、「明日は終業式だから、今夜は家に帰る」と答えた。両家の両親公認の飯島と栗田は、週末や連休になると舞花のマンションで過ごすことが多い。
「……あー。そうかー……そういえば……」
 樋口兄弟も、二人でそんな相槌をうちあう。いろいろあって長く感じた試験休みも今日で終わり、明日、二十六日が、二学期を締めくくる終業式。午前中の、せいぜい二時間前後しか学校にいないとはいえ、登校はしなければならない。それが済むと、来年、一月九日まで冬休みに入る。
 夕食の心配をしなくていい栗田精一と樋口兄弟の三人が商店街で離脱し、残りの連中でわいわい食料品店を練り歩く。話しを聞くと、柏千鶴は柏家とお隣りの堺家の息子さんの食事を毎日のように用意しているらしく、「あそこは安いけどものがよくない。あそこのは少し高めだけど新鮮」と、商店街の店舗の情報を、一軒一軒詳しく解説してくれた。才賀孫子と松島楓は、メモこそ取らないものの、神妙な顔をして耳を傾けては、頷いている。
 孫子と楓は狩野香也に荷物持ちをさせ、相談しながら食材を買っていく。ジャガイモ、にんじん、タマネギ、牛乳、それに、シチュー用の角切りの肉と、テーブルワイン。
「昨日の今日だから、あまり胃に負担をかけないもの。それに寒いから、シチューにします。それから、あなたも食べるのだから、負担も平等。作るの、一緒に手伝いなさい」
 孫子にそう宣言されれば、断る理由もないので、香也としてはこくこくと頷くしかない。
 みれば、加納兄弟も、二人でてきぱきと食材を選びながら、慣れた様子で買い物をしている。二人で相談しながら、というより、兄の荒野が妹の茅に「それとこれ」みたいに指示をして、会計を済ませたものから、自分で抱えている。二人分にしては、随分、量が多いように思えた。
 最後に柏千鶴が、商店街の裏道にある、どこかあやしげな雰囲気の輸入食料品店に入り、そこでごっそりと見慣れない輸入物の香辛料を買い込んできて、彼らの買い物は終了した。柏千鶴の料理は、わりとエスニックなものであるらしい。
 商店街からしばらく歩いたところで、「家、こっちのほうだから」という柏千鶴とも別れる。
「……あー。でも、昨日と今日は久しぶりに、賑やかなクリスマスだったな……」
 残った連中で荷物を抱えながらぞろぞろ歩いていると、唐突に、飯島舞花がそんなことをいいだした。
「わたし、とーちゃんの仕事の都合で、賑やかなクリスマスって、したことないんだよね。うち、わたしが小さい頃から片親だったし、しょっちゅう転校してたから、あんま、親しい友達もいなかったし……」
 昨日は楽しかったなあ、と、舞花は、帰路何度も呟いていた。

 その舞花と、加納兄弟ともマンションの前で別れ、加納家の同居人三人だけが残った。
 会話は、ない。
 才賀孫子は、初対面の時から松島楓に対抗意識を燃やしている。加えて、その時と、一昨日の風呂場での出来事から、狩野香也にも、どうやら非好意的であるらしい……態度を、一貫して取っていた。
 松島楓は、狩野香也に、どうやら好意らしいものを持っている……らしい。しかし、狩野香也のほうが、彼女のやや強引なアプローチに対して、かなり引き気味になっている。楓もそのことを理解しているから、香也に対しては、時間が許す限り、邪魔にならない程度にそばに居続けることで、どうにか満足している……らしい。それだって、解釈のしようによっては立派なストーカー行為なわけだが……香也の側は、あまり気にしていない。
 狩野香也は、このような気まずい雰囲気をどこまで認識しているのか、その茫洋とした態度からは、窺い知れない。意外と、大物なのかもしれない。

「ちょっと、どこに行きますの!」
 食材を台所に降ろし、そのまま出て行こうとする香也の襟首を掴んで、才賀孫子が引き戻した。
「負担は平等に、って、さっき話したでしょ。あなたも手伝いなさい!」
 ということで、三人で買ってきたばかりの材料を調理しはじめる。煮込み料理であるシチューは、材料を切って煮込むだけ、という比較的簡単な料理だったが、それでも分量が多ければ、調理する量も多くなる。
「毎回用意するのも面倒くさいから、これで二食分くらいは持たせます」
 という才賀孫子の命令下、三人で分担して野菜を切り始める。包丁を扱う手つきが危なっかしい香也は、タマネギ切りに回された。確かにジャガイモの皮を剥くよりは簡単かも知れないが、その分目にくる。
「カレーとシチューは、タマネギを多く入れてよく火を通した方が、甘みがでます」
 と、すっかりしきり屋モードになった才賀孫子は、香也に大量のタマネギを渡した。香也は、涙をぼろぼろ流しながら、渡されたタマネギの薄皮を剥き、それを八等分くらいにバラしてボールに入れる、という作業を繰り返した。
「……この家、圧力鍋もないんですの……あれのほうが、時間も燃料も節約できるのに……」
 そんなことをいいながら、才賀孫子は香也がバラしたタマネギを鍋にいれ、根気よく弱火で炒め続ける。時々料理を手伝わされることのある香也は「……あれって、シチューではなくカレーのやり方なんじゃあ……」と思っていたが、あとで入れる分のタマネギを別に取っているところをみると、それなりの計算があってしていることらしい。
 二人がそんなことをしている間にも、楓は、凄い勢いでジャガイモとにんじんの皮を剥き続ける。料理はあまり得意ではない、とかいっていたが、少なくとも刃物の扱いには習熟しているらしい。流石は、くノ一。
 孫子は飴色になるまで弱火で炒めたタマネギのストックがある程度溜まると、今度は別の鍋で角切り肉の表面の色が変わるまでざっと火を通す。
 炒めたタマネギと肉を大きな寸胴鍋に放り込んで、ワインを適量注ぐ。ある程度鍋が煮立ってきたところで、残りのタマネギをどっさり入れ、掻き回しながらしばらく火にかけると、当所多すぎるように見えたタマネギは嵩を減らし、代わりに水分を出すようになる。そこに、楓が切ったにんじんとジャガイモを入れ、丁寧にアクを掬いながら、さらに掻き回し続ける。材料に大体火が通ったところで、牛乳を入れて弱火にし、鍋に蓋をして、ぐつぐつ煮込む……。

「……うまいねー、これ。暖まるわー」
 二時間後、赤い顔をして帰宅した羽生譲は、三人で作ったシチューを、スプーンで掬って一口、口にした途端、そんな事をいった。

[つづき]
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