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第三話 激闘! 年末年始!!(34)
驚いたことに、野呂の速度は以前より増しているくらいなのに、荒野は平然とその野呂に併走している。それどころか、走りながらも、なにやら野呂と会話さえ、はじめた。
楓と二人とは、まだまだ距離があるので、会話の内容までは聞こえない。
荒野がことさら平然とした様子をみせ、野呂が少し感情的な反応を見せはじめたことは、みてとれる。
『……くそっ!』
引きつる脚に気合いを込めて、楓はさらに速度を増す。
『やはり、六主家の者には……』
……適わないのか……。
そう思うと、悔しかった。さらに、楓の速度があがる。
限界以上に酷使しているため、体中の組織が酸素を求めて悲鳴を上げているような気がした。
楓の見通しでは、先ほどの攻撃で「詰み」だったので、二連もっていた六角も使い果たした。
仮に、今の楓が野呂に追いついたとしても、野呂に攻撃はおろか、抵抗すべき手段も道具も余裕もない。
それでも、楓は野呂の背中を追尾している。
半分以上、意地になっていた。
楓は、「これまでの生涯で、これほど懸命に走ったことはない!」、というくらいに、必死になって足を動かした。びゅんびゅんと目にする背景が後方に飛んでいき、いつの間にか、野呂のすぐ後ろについていた。
「……仲間……仲間……。
仲間、ねぇ……あいつら、おれの仲間ってことになるのかなぁ……」
「だから、考えるのは後にしろって! まずは、やつら止めてくれって!」
酸欠でぼうっ、とした頭に、荒野と野呂の声がぼんやりと響く。
意味は、うっすらとしか理解できない。
「いや、仲間かどうかいまいち自信がないし、止めても聞く連中かどうかわかんないけど……」
荒野はそういって、いきなり楓のほうに振り返った。
「……と、いうことだからさ、楓。
とどめを刺すのは、やめておいてくれないか?」
不意に話しかけられたことで、意識が明晰になる。自分が「いま・ここで・なにを」しているのか、瞬時に思い出し、楓は視界に入った情景を走査し、その情報を咀嚼、不自然な印象を受けた箇所(一瞬、きらりと光った、あれは……ひょっとして……)について、足を止めて言及する。
「……攻撃を止めるのは、いいんですけどぉ……」
自分の声を聞き、『なんでこんなにのほほんとした口調なんだろうな』と、楓は思った。
「……それよりも先に、帽子の人も、足を止めたほうが、いいと思います……」
次の瞬間、野呂は、自分自身が所持していたグローブで仕掛けられた、ごくごく原始的なトラップに引っかかり、見事に蹴躓いた。
悲鳴の上げ方といい、十メートル以上もすっ飛んでいった様子といい、その時の野呂の様子は、いかにも間が抜けていて……ついさっき、楓が六主家に対して抱いたコンプレックスがアホらしくなるくらいに、無様だった。
後で知った情報をとりまとめると、どうもこういう事らしい。
野呂のグローブを使ってトラップを作ったのも、才賀孫子に野呂の居場所を携帯電話で指示したのも、全て、加納茅。
無邪気にVサインを作る茅をみて、
『とっさの対応で、よくぞそこまで……』
と半ば感心し、半ば呆れる楓だった。
三島が野呂の事を携帯電話で荒野に通報してから、まだ五分もたっていない。茅の機転の利いた判断は、だいたい瞬時に思いつき、実行に移された……ということになる。
しかも、茅は、楓や荒野のように、訓練を受けた人間ではない……(と、思う)。いきなりの実戦で、これだけ冷静に周囲の状況を把握し、着実に打てる手をうつ判断力と実行力……楓は、今回の件で茅が見せつけた意外な資質に、戦慄さえ、覚えた。
松島楓は、本来、加納茅を警護するために派遣された。現地である此処で、楓の指揮者である加納荒野がそのことを重視していない傾向はあるが……楓自身の認識では、派遣された当所の指令は、生きている。その、警護する対象である茅の、意外な器量をこうした形で不意に見せつけられると……楓にしてみれば、心中は結構複雑である。
「荒野や茅のように、しっかりした方々にお仕えできてよかった」
という思いがある一方、
「……わたし、ひょっとして必要ないんじゃあ……」
という想念も、湧いてくる。
体を使うことに関しては、荒野に適わない、
状況判断に関しても、茅には適わない、ということが、今、判明した……。
『……此処では、お二人の手駒になりきろう……』
そう思って無理に自身を納得させる、松島楓だった。
楓がそんなことを考えているうちにも、関係者の面々はだらしなく逆さ吊りになっている野呂良太の周囲に集まってくる。野呂良太は、自分のグローブの糸を足に絡ませ、身動きを封じられた上で、電信柱に逆さ吊りになっていた。
目を凝らしてようやく視認できる細い糸……が絡まった野呂良太の足の部分は、スラックスの布地がずたずたに引き裂かれている。その中の肌も、血はにじんでいるものの、あまり深く切れていないのは、とっさにその部分の筋肉を緊縮させたからだろう。出なければ、脛の肉をごっそり抉られていてもおかしくはない状況だった。この辺、多少無様ではあっても、流石六主家、というところか……。
「……おーい。帽子のおっさん! 生きてるかー!」
スーパーカブを手で押して近づいてきた羽生譲がそう声をかけると、
「……一応……」
野呂良太は、答えた。憮然、という言葉が、まさにしっくりくる表情をしている。
その後、「もともと敵意はなかった」という野呂の言葉を荒野が容れる形で、野呂良太は、当面「客分」として遇されることになった。
口には出さなかったが、
『……加納様は、寛大な方だ……』
と、半分は不満混じりに、楓は思っている。不法侵入者はどう料理してもいい、というのが、楓の基準だった。もちろん、そのように教育されていた結果、なわけだが。
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つづき]
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