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彼女はくノ一! 第三話 (35)

第三話 激闘! 年末年始!!(35)

 この頃では、加納兄弟と狩野家の関係者である程度の人数が集まると、宴会じみた雰囲気になることが多い。酒は、回ることもあるし、廻らないこともある。やはり未成年者が多いので、後者の「酒が回らない」場合が圧倒的に多いのだが……成人の三島百合香と羽生譲の二人が揃って騒ぐのが好きな性質なので、酒が出回るとなると、文字通り「飲めや歌え」の大騒ぎになる。
 そして、この二人は揃って、曰く付きの客分、野呂良太が居ても居なくても、態度を改めようとするほど殊勝なタマではないのであった。
「……お前さんところは、いつもこんな感じなのか?」
 この日も、早速狩野家の居間ではじまった馬鹿騒ぎを目の当たりにし、野呂良太は呆れたような感心したような、なんともいえない口調で、加納荒野に問いただした。
「この家、おれんところ、ってわけじゃないんだけど……この家は、まあ、だいたいこんなもんですね」
 荒野の回答は淡々としたものだった。
 シリアスな状況下にあるからといっても、終始しかめ面をして悩んでいなくてもいいだろう、とも思うし、第一、ここはおなじみとはいえ他人の家である。荒野が、他家の雰囲気にあれこれ口を出すのは、差し出がましいと思っている。
「あははははは。暑いのです。二番、松島楓、脱ぎます!」
「わぁ! 楓ちゃん! こんなところで脱ぎだしたら駄目! いつの間にこんなに飲んだんだ!」
 ……かといって、ここまで砕けてしまっていいんだろうか? と、思わないでもないのだが……。
 立ち上がってメイド服を脱ぎはじめた松島楓を、狩野香也が押しとどめようとしている。おそらく、三島あたりに騙されてアルコールの入った飲み物を飲まされたのだろう。楓は、クリスマスの時にアルコールに極端に弱い、ということを知られて以来、三島と羽生によく酒を盛られている。何度も騙されているのに、飲み物をすすめられれば断らず、さして不審にも思わず飲んでしまうのは……性分として、素直すぎるのだろう……。
『……ひょっとして、あれかぁ? 佐久間が欲しがった素材って……』
 どっかの養成所に、佐久間が欲しがって加納のじいさんが手放したがらない「使えない逸材」がいる、という噂は、野呂も小耳に挟んでいる。影響力は大きいものの、実戦力となると二宮や秦野に二歩も三歩もゆずる佐久間は、常時、「飼い犬」を欲しがっている。
 佐久間の飼い犬になる、ということは、ロボトミー手術にも似た洗脳を施術される、ということで……以前は頻繁に行われていたそうだが、ここ数十年は耐えてなかった事だ。それだけの手間をかけても割にあう素材……というのは、ようするにそれだけの潜在的な能力を秘めている人間、ということであり……。
『……あのお嬢ちゃんなら、それもありえるか……』
 野呂は、狩野香也に即されてメイド服のボタンをかけ直しはじめた松島楓を見ながら、そう思う。先ほど楓がみせた働きを思い返せば、納得が出来る。荒削りな部分もあるが、能力的には、六主家の中の、平均的な能力を持つ者にも、ひけを取らないだろう。
 そんなことを思いながら、野呂は荒野にすすめられるままに、おせち料理をつまみ、酒を傾ける。周囲はすでに宴たけなわ、という感じであり、一人だけ真面目な顔をしてしゃちほこばっている理由もない。この年末におせち料理、というのもなんだが、荒野とやけに親しそうな長髪の女の子が練習を兼ねて作ったものだという。
「……ん。意外といけるな、これ……」
「それはよかったの」
 野呂が舌鼓をうつと、その長髪の女の子が野呂の隣に寄ってきた。
「お嬢ちゃんがつくったのか、これ。料理、うまいなぁ……」
「茅の料理はわたし仕込みだ。それからな……」
 少し離れた場所で踊っていた三島百合香も近づいてきて、茅の頭を平手で軽く叩きながら、自慢気にいう。
「ん?」
「この子がな、お前のいう、姫ってやつだから」
 三島百合香の言葉を理解すると、野呂良太はしばらく硬直した。
 もともと、野呂は、「荒野が仁明から姫を引き継ぎ、某所に潜伏しているらしい」という噂を聞きつけ、その真偽を確かめるために、ここに来た。
 当然、その「姫」は、どこか人目のつかないところに、大事に匿われている筈……という先入観があった。
 それが、こんな……目と鼻の先に……厳重な護衛などもいっさいなく、ごくごく普通に出歩いているなんて……。
「……仁明は隠し、荒野は露にする……。そうか……いや、それが、正解なのかも知れないな……」
 野呂良太の顔は、腹を抱えて笑い出したくなる衝動をねじ伏せ、当の「姫」に問いかけた。
「お嬢ちゃん……茅ちゃん、とか、いったか……。
 ちょっと聞きたいんだが、あー、君は、今、幸せか?」
 茅の、「現状におおむね満足している」という解答を確認してから、荒野と三島に即されていた「姫の正体」について、滔々と自説を開陳しはじめた。
 もちろん、野呂の推測が必ずしも正解だとは限らないし、このような場でいきなりこういう重要な話しをするのはどうか、という躊躇いも、少し前まではあったが……なに、構うものか。
 当の姫と、ごく普通に付き合っている、この場にいる人々には、聞く権利がある。と、野呂良太は判断する。
 野呂のもたらしたこの情報が、以後、この場にいる人々に対し、決して小さくはない波紋を与えるだろう……ということを予測しながら、野呂は、はっきりとした口調で、最後まで説明し終えた。
 いつの間にか、辺りは静かになって、その場にいる全員が、平坦な口調で説明を続ける野呂の口元を見つめている。

 一通りの説明を終えた野呂は、最後にこう締めくくった。
「……こういうの、なんていうんでしたっけ? 正式な専門用語ってあるのかな?」
「……正式な名称は、まだない筈だが……そういう概念だけは、結構昔からあるな……」
 どこか虚ろにみえる目つきになっている三島も、ぽつりと答える。
「……遺伝子操作された人間……デザイン・ヒューマン……」
「……さて、ご本人はどう思うかね、お嬢ちゃん。
 今のおれの推論、なにかおかしな所はあるかね?」
 念のため、野呂は、「姫」本人だという少女にも、問いかける。
「おかしな所はないの」
 茅はいった。
「推論はあくまで推論で、証拠はなにもないのだけど……論理的に、おかしな所は、ないの。
 多分……わたしは、姫は……そういう存在だと思うの」
 野呂が考えつく限り、一番妥当な解答は、そのような形で、本人に承認された。

[つづき]
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