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彼女はくノ一! 第三話 (38)

第三話 激闘! 年末年始!!(38)

 旧弊な造りの平屋であるかわりに、狩野家は敷地も広く、部屋数も多い。加えて、ついこの間まで実質上三人暮らしであったため、全ての部屋の手入れが完全に行き届いている、とはお世辞にも言い難い。時折天気がいい日などに狩野真理が風を通し、簡単な掃除を一通り行う以上の手間はかけられなかった、というのが、今までの実情だった。
 実は、楓や孫子が来る前から、「これだけ部屋が余っているのだから、間貸ししては……」という意見もあったのだが……今時、通常の賃貸ではない「下宿」という形で住宅を求めるニーズがそうそうあるわけでもなく、また、まだ子供である香也以外は真理と羽生譲、という女性が二人いることもあり、で、今までは話しがでるだけで終わってしまった。
 つまり、確かに、孫子の言うとおり、きちんとした手入れを行う機会は、あったほうがいいのだった……。
 空いていた部屋の一つ一つに才賀孫子が入っていき、実質上、狩野香也に「命じて」空き部屋の畳を順番に庭に出して、二枚を向き合わせにし、人の字型に立てかけさせる。たてかけた畳で庭が埋まると、最初に持ち出した畳を布団たたきで叩いて埃を払い、元あった場所に戻す……。
 そのな単純な肉体労働を、香也は一日かけて行った。
 畳、といっても、昔風の畳で最近の賃貸住宅向けの畳よりもサイズが一回り大きくて、重い。一枚抱えて庭へ出すだけだけで、香也は汗だくになる。
「家は、手入れをしなければ、それだけ早く痛みますの」
 そういって香也を即す才賀孫子も、決して自分だけ遊んでいるわけでも楽しているわけでもなかった。
 香也が動いている間に台所や浴室、トイレなどの水周りの清掃、雑巾掛けから、空き部屋以外の、家具の置いてある部屋の普段通りの掃除、それに、食事の用意など、あちこちに忙しなく飛び回って、ともすると香也以上に立ち働いている。
 孫子が自分以上に忙しそうにしていると、香也としても文句をいえる筋合いではない。なにしろ、自分はこの家の昔からの住人であり、にも関わらず、今まで家事はほとんど真理や譲に任せきりで過ごしてきたのだから……。
『……でも、なあ……』
 普段、このようなことをやりつけていない、ということに加え、インドア派で決定的に体力を欠く香也にとって、孫子に要求されたことは、かなりきつい仕事であることには違いなかった……。
 昼食も当然のように孫子が用意し、それ以外に孫子は、三時にはお茶とお茶請けまで用意してくれた。加納茅から大豆を分けて貰ったとかで、孫子手作りの善哉までついていたのだが、これが、普段甘いものをあまり受け付けない香也にとっても、「……かなりうまい」と思える味だった。疲れていたので、体が甘味を欲していただけかもしれないが。
『……なんでも、できるんだな……』
 孫子については、香也は改めてそう思った。
 いつもは香也にきつい顔しかみせようとしない孫子も、香也が唯々諾々ということをきいている限りは、割合普通に接してくれる。
 それとも、二人以外に誰もいないせいで、虚勢を張る必要がない、ということなのだろうか?

 そんなわけで二十七日の香也は、日が暮れるまで畳と格闘して終わった。午前中に加納兄弟が買い物にでるのを庭から見かけ、午後に飯島舞花と栗田精一に「おお。やってるやってる。大掃除?」などと声を掛けられて軽く立ち話しをした以外、特に変わったことはなかった。

 庭に出した畳を全てを元の場所に納めると、すでに日が暮れる時刻で、台所に立っている才賀孫子から「お風呂沸いているから、先入って」といわれる。孫子は昼やお茶の時と同じく、自分が二人分の食事を用意するのが当然と思っているようだ。
 ……たしかに、香也にそっちの方面の才覚を求められても困るのだが……。

 香也にしてみても、くたくたに疲れていたので素直にお言葉に甘えることにする。
 服を脱いでお湯に入るとちょうどいい湯加減で、疲れていることもあってうとうとしはじめると、脱衣所のほうから「早くでないと晩御飯が冷める」と声を掛けられて、はっと目を覚ます。
 慌てて風呂からでると、入浴した時間から一時間以上、ゆうに立っていた。よくのぼせなかったものだ、と、思う。
 驚いたことに孫子は、完成した夕食を前にしても、香也が出てくるまで、箸をつけようとしなかった。
 香也が「先に食べてても……」といいはじめると、孫子は、
「そんなの、待つのが当たり前でしてよ」
 と、何でもないことのようにいう。
「例え二人きりでも、成り行きでも、同じ家に住んでいる間は、家族同然です」
 二人は「いただきます」と唱和してから、孫子が用意した食事を食べはじめる。
 香也が長湯したせいで半ば冷めかかっていたが、味は上々だった。
「それから、今日は母屋の自分の部屋にお泊まりなさい」
 加えて、孫子はそんなことまでいってくれた。
「ただし、わたくしの入浴時や寝室に近づこうとしてきたら、かなり、後悔することになりますから」
 にっこり笑ってそう付け加えることも、忘れなかったが。

 その夜、香也は久しぶりに自分の部屋の自分の布団にくるまり、心地よい疲労と達成感に包まれて、熟睡した。
 その日、香也は、何年かぶりで絵のことを忘れた。

 翌日、孫子に掛け布団をはがされて目を覚ました。週末や連休中、香也は昼頃まで寝ていることがあるのだが、学校に通う平日とまったく同じ起床時間だった。
 顔を洗い終わって居間にいくと、すでに朝食が用意されている。
「まだまだお掃除、残っていますから」
 朝食を食べながら、孫子はそんなことを言いはじめた。まだまだ、香也を解放する気はないらしい。

 その日香也は、孫子と一緒に箪笥などを大型家具を動かしながら、その背後に溜まった埃を掃除機で吸い取ったり、家具に雑巾掛けをしたり……ということして、過ごした。確かに、いくら力があろうとも、大型の家具を移動する、などの作業を孫子一人で行うのは危ないように思えた。
 途中、宅急便の受け取ったり、掃除や洗濯、買い物などの用事で孫子が一時的に離れたりしたが、その日はほどんど二人の共同作業をして過ごし、一日かけて家の中を二人でかけずり廻った。
 夕方になって、
「……明日は、障子とふすまの張り替えを行います」
 と、孫子がその日の作業終了を告げた時、香也は反抗する気力も残っていなかった。箪笥やテレビなのど家具は、畳よりも重い。
 しかし、疲労もあるかわりに、奇妙な充実感と、それに、孫子との間に連帯感ないしは仲間意識のようなものも、香也の中に芽生えつつあった。

 その日、孫子が作ってくれた夕食を、香也は昨日の食事以上にうまく感じた。疲労のせいも、かなりあるのだろうが。

 翌日、樋口明日樹が香也の様子を見にきた時、香也は居間で、孫子が障子紙を張り替えるのを手伝っているところだった。
「……なにやってんの? 狩野君……」
「……んー……お手伝い?」
 香也は、障子紙を押さえながら、玄関から顔を覗かせた樋口明日樹の問いかけに、そう答えた。
 疑問形でしか答えられない、主体性のない自分が、荒野自身、情けなかった。

[つづき]
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