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第三話 激闘! 年末年始!!(39)
「え? じゃあ、冬休みになってからほとんど描いてないの?」
炬燵にあたりながら、樋口明日樹は大仰に驚いている。
「……んー……なんか、いろいろバタバタしちゃって……」
明日樹が尋ねてきたことで、「ついでに休憩しましょう」ということになり、狩野香也と才賀孫子も炬燵についてお茶を前にしている。
「年末の大掃除くらい……自分の住んでいる場所の手入れをすることくらい、当たり前でしょ?」
非難されていると感じたのか、才賀孫子は少し強い口調で、そういう。
「いや、そうじゃなくって……狩野君が絵から何日も離れるのって、珍しいから……そうか、描いてないのか……」
明日樹は香也と知り合って半年くらいにしかならないが……それでも、明日樹は香也が絵を描いている姿ばかり見ているような気がする……。
「……たしかにこの家、大きくて掃除大変そうだもんね……せめて、人数かいれば……」
といいかけて、あることにはっと気づく。
「……ほかのみんなは?」
大掃除なのに、他の住人たちが不在であることは……明日樹には、不可解だった。ここ最近、この家は騒がしすぎるくらに賑やかな場所だったはずだが……今は、やけにしんと静まりかえっている。
「……んー。留守。真理さんは順也さんの個展、楓ちゃんと譲さんはコミケで、大晦日まで不在……」
「……そう、みんな留守なの……じゃあ、大掃除も二人っきりでやらなけりゃならないんだ……って!
ええー! じゃあ、二人きりなの?」
樋口明日樹は、いきなり大声を上げて、香也と孫子を交互に指さした。
「……そう、なりますわね……」
孫子は涼しい顔をして湯飲みを傾けている。
「でも大丈夫。おかげさまで、昨日今日の二日間で、手のかかる大変な所はほとんど終わりましたから……」
畳の返して、家具の移動して裏に掃除機かけて、それで、今日は障子と襖の張り替えでしょ……と、孫子はこの二日間、香也と二人でやってきた作業を指折り数えはじめる。
「後、残るのはは、窓ガラスやサッシ、それに照明器具の拭き掃除と、台所や風呂場周り……要するに、普段でも手を入れている場所を、念入りに掃除し直す程度で……みんなが帰ってくる頃には、充分終わっていますが……」
「……わたしも、手伝います!」
孫子の平静で余裕綽々な態度になぜかカチンと来た明日樹は、即座に自分の電話を取り出し、家に電話をかけ始めた。
……ああ。お母さん。うん。今、狩野さん家。今日明日あたり、こっちに泊まるから。うん。大丈夫。今日の夕方あたり、着替え取りに帰ると思うけど……。
そんな明日樹の様子に構わず、孫子はやはり涼しい顔で湯飲みを傾けている。この家が孫子の実家ならば遠慮するなり手伝いを断るなりするだろうが……孫子にとってもこの家は下宿先であり、明日樹のお手伝い宣言を無下にしなければならない理由はない。「お好きにどうぞ」、という感じだった。
香也は香也で、妙に居心地悪くもぞもぞしているだけで、妙に緊張しはじめた明日樹と孫子の間に入り込めないでいる。
「お昼、まだですよね。よかったらわたしが用意しますけど……」
電話を切ると、樋口明日樹はどこか凄みのある笑顔を見せ、誰にともなくそういった。
「助かりますわ。台所にあるものは、好きに使ってくださって構いませんから……」
同じくらいに迫力のある笑顔で、才賀孫子も応じる。
『……うわぁぁ……』
その光景を目の当たりにした香也は、
『樋口先輩、なんか怒っている感じだよ』
と、内心で戦慄した。
香也は、このような時に如才なく立ち回れるほど、人間が練れていない。
このような場合、香也が取り得る唯一の対処法は、嵐が過ぎするまで、頭を低くして、じっと耐えること……。
「ええ? なんで狩野君があやまりにくるの? わたしが自分でやるっていっているのに。この家ではいつも御馳走になっているし、たまにはわたしのほうがなんかする、っていうのもいいじゃん。こういう機会でもないと、そういうこともできないし」
台所に立った明日樹に香也が頭を下げにいくと、にこにこと笑いながら、明日樹はそう応じた。
「……でも、そうね。こういうことになっている、っていうのを狩野君が連絡してこなかったのは正直、ちょっと寂しい気もしたけど、でも、しかたないよね。
狩野君、今時携帯も持ってないし。普段からわたしのところに近況報告とかしてくれる間柄でもないし……」
言葉のわりに、明日樹の笑顔に、みょーな迫力があるのは、決して香也の気のせいではないはずだ……。
『……真理さんが帰ってきたら、携帯のこと相談してみよう……』
香也は、そう決心する。今まで決定的に交友関係が狭かった香也は、携帯電話の類を所持する必要性を感じていなかったが……最近ではどうも、様子が違ってきているようだし……。
明日樹は昼食に、冷蔵庫に残っていた冷飯と材料を炒め合わせ、チャーハンを作ってくれた。それと、固形のスープの素を用いた中華風スープに、刻んだネギを浮かべたものを添える。
「うち、家族多いから、こういう残り物を利用する料理、自然と覚えるんだよね」
とは、本人の談。お手軽だが、うまかった。
その夜、樋口明日樹は狩野家に一泊し、三人で残りの作業を分担したため、残りの大掃除は大幅にペースアップした。
おかげで、翌日の昼過ぎには孫子が満足する所まで、作業を完遂することができた。
「これで狩野君、絵に戻れるでしょ?」
孫子の大掃除終了宣言を聞いた後、明日樹は屈託なく笑いながら、香也に話しかける。
やはりそれが、明日樹の一番の目的だったらしい。
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つづき]
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