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髪長姫は最後に笑う。第四章(17)

第四章 「叔父と義姉」(17)

「……そっか。大晦日、か……」
 年末、ということは買い物に出れば否が応でも意識させられる。だが荒野は、ここ数日マンション内に籠もりがちな生活をしていたため、具体的な日付に対する感覚がなくなっていたらしい。
「お隣りにみんな集まっているらしいの。
 茅たちも来ないか、って、今、いってきたの……」
「うん。じゃあ、せっかくだし、みんなでにぎやかに年越しするか……。
 ちょっとまって、荷物片づける……」
 荒野が買ってきたばかりの食材を冷蔵庫に放り込んでいる間に、茅は携帯に向かってメールを送信し、ごそごそとティーセットを出しはじめた。
「……それどうするんだ、茅」
「みんなにご馳走するの。荒野はこっちもって……」
 と、ティーポットを荒野に渡し、自分はティーカップと茶葉を入れた箱を持つ。
「ひさびさに、メイドさんなの……」
 ……正直、荒野にも、このあたりの茅のセンスは理解できなかった。

 荒野と茅が狩野家に到着すると、すでに狩野香也、羽生譲、松島楓、才賀孫子、樋口明日樹、樋口大樹、飯島舞花、栗田精一が揃っているという。
 羽生譲はすでに酒気を帯びているらしく、周囲に酒を勧めては諫められたり断られたりしている。今いるのはクリスマスの騒ぎを経験している面子とかなり重なる事もあり、その時酷い目にあった面々はアルコール飲料に対する警戒心が強くなっていた。
「こんくらいつきあってくれたっていいじゃんかよう。凱旋だよ、お祝いだよ」
 楓と一緒に東京から帰ったばかりだという羽生譲は、若干据わった目つきで年少者たちを見渡した後、一人でけらけら笑いはじめた。
 きけば、コミケでの売り上げが、予想を越えて好調だった、という。
「今回はあれだ、なんてったって売り子ちゃんが良かったからなー! 可愛くて愛想いいし……」
「……羽生さん、楓に、なんか派手な真似、やらせなかったでしょうね?」
 荒野が一番気になっていたことを尋ねる。
「そんな暇や余裕、ないない!」
 羽生は自分の顔の前で、ぶんぶん、と立てた平手を扇がせる。
「もー、お客さん、ひっきりなしでなー……。トイレにいく暇もないってくらいで……。いやー……多めに刷っておいたからすぐに売り切れにはならんかったけど、それでもあんなに売れるとは……。
 預かっていた委託の分までうちらの売り上げに引っ張られてバカ売れしちゃったくらいだもんねー……。
 ふはっ。ふははははははははっ!」
 羽生譲はやおら立ち上がって胸をそらし、哄笑しはじめた。
「わが生涯に一片の悔いなぁぁぁしぃっ!」
 ……かなり、売り上げが良かったらしい。
「ええっとですねえ……とにかく、人また人、で、いっぱいいっぱいで、奇妙な恰好をした人も多少いらっしゃって、冬なのにすえたような変な匂い……ではなく、熱気むんむんで、いっぱい写真と撮られたりしました……」
 楓は若干、顔をひきつらせながら、コミケの印象をそう語る。
「それよりも! 東京ってすごいですねぇ! おいしいお店がいっぱい! 中華とか、イタリーとか……」
 売り上げに気をよくした羽生譲は、かなり豪勢に奢りまくったらしい。
「楓……服、返すの……」
「あ! はい!」
 茅に即され、楓はスーツケースからきちんと折り畳んだメイド服一式をとりだして茅の前に置き、畳の上に平伏した。
「どうもありがとうございました! おかげで万事首尾良く運びまして……。
 クリーニングに出してからお返ししようかと……」
 やはり楓は、加納とか一族関係者の前にいると妙にしゃちほこばる傾向がある。
「このままでいいの。すぐ着るから……」
 茅は平伏する楓にあまり注意を向けず、メイド服をとるとそのまますたすたと隣りの部屋に消えた。
 不可解な茅の行動を見守っていた一同が、なにか問いたげな顔をして荒野を注視する。
「茅が、みんなに紅茶を飲ませたいんだって……」
 そういって、荒野は自分が運んできたティーポットを示した。
 茅の奇行に対する説明には、ぜんぜんなっていないような気がするが……とりあえず、その場にいた全員はなんとなく納得する。
 つまり、茅の中では「紅茶を振る舞う」という行為と、メイド服が、かなり強固に結びついているらしい、と……。
 紅茶とメイド、どちらも本場は英国……それもエリザベス朝時代のイメージが強いから、わからないでもないのだが……なぜそ茅がこまで拘るのか? という疑問は、依然として残る。

 荒野が茶器を抱えて台所にいくと、飯島舞花が栗田精一伴って臼を引いていた。
「……なにをやっているんだ? 君は?」
「見て……わからないか。
 蕎麦粉を、作っている」
「蕎麦、ご馳走してもらえるって聞いてはいたけど……そこまで、本格的に……」
「い、いや。このそば打ちセットな。
 うちのとーちゃんが前に怪しげな通販で買ったはいいけど、全然使わないで押入の奥で眠っていたもんなんだ。二人家族だとあまり使う機会なかったけど、年末だし、こんだけ人がいる所でなら、なんかやってもいいかなぁ、って……」
「……いや、そんなに、リキ入れて説明してくれなくてもいいけど……」
「……そっちこそ、その抱えているの……なんだ?」
「ああ。これ? これは……」
 荒野が説明をしようとすると……。
「メイドさんがお茶を、いれるの」
 荒野の後ろに、メイド服に着替えた茅が立っていた。

 家具調大型炬燵にあたっている者全員の前に、暖めた白磁のティーカップに注がれた琥珀の液体が配られる。
 給仕をするのはメイド服姿の、真剣な顔をした茅。
「……いや、紅茶はおいしいけど……畳敷きの日本家屋の室内に、炬燵に、メイドさん……テレビでは懐かしの名曲とかいって演歌のメドレー、って……」
「……なんかすげー異空間になっている気がする……」
「まあ、年末年始のテレビなんてどうせくだらないし。
 特に大晦日なんて、レコ大とか紅白とか格闘とかお笑いとか、ゆるーいのばっかだし……」
「……いやいや。そのゆるーい番組を観ながら普段顔を合わせない人と延々とどうでもいいことだべるのが、日本の正しい年末年始の正しい過ごし方でしょう……。
 家でごろごろ寝正月、っと……」
「そ、そうなのか?」
 日本での生活習慣にあまり詳しくない荒野は、思わず鵜呑みにしてしまいそうになっている。
 そんな荒野をみた飯島舞花は、思わず吹き出した。
「……いや、あながち間違いでもないけどさ。親類が年末年始に集まるような所は、今は少ないんじゃないのかな。
 今は核家族化が進んでいるし、ライフスタイルもばらばらで、年末年始に忙しい人たちも多いし……だから、もっとバリエーションあると思うよ。
 うちなんか、年末年始にとーちゃんいたためしないし……」
「あー。うちも結構、毎年バラバラだなあ……。うちの両親なんかいまだに仲いいから、今年なんか子供放って二人だけで温泉いっちゃうし……」
「そんくらいのが、子供のほうも気軽でいいっすけどね」
「あんたは気軽すぎ! なによこの髪!」
「……だからこれは未樹ねーが……」
「あ。そ! じゃあ、今度未樹ねーに頼んで、大樹を丸坊主にして貰う!」
「ひでぇ!」

 そんなことをいいあっている間に、車庫のほうで物音がした。狩野真理が帰宅したらしい。

[つづき]
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