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髪長姫は最後に笑う。第四章(18)

第四章 「叔父と義姉」(18)

 狩野香也と羽生譲が車庫のほうに出迎えに行く。真理が今回のような長旅をすることは年に何度かあり、二人ともこうした際の対応に慣れていた。香也と羽生ががらがらとキャスター付きのスーツケースを引きずって玄関口に現れ、その後に真理が続く。
「あら、お客様? それも、こんなに……」
「まーまー、真理さん。詳しい話しは、後々。
 お疲れでしょうからまずはお風呂にでもはいって、ゆるりとくつろいでかぁーさい……」
「それに……なんか、家の中がかなり片づいている気がするんですけど……」
「あー。それねぇ……ソンシちゃんとこーちゃんが、二人で隅から隅まで大掃除してくれたようで……」
「……二人で?
 その……楓ちゃんは?」
 羽生譲が慌てて自分の口を押さえた時は、すでに手遅れだった。真理はがっしりと羽生譲の手首を掴んでいる。
「譲さん。
 あなたまさか……楓ちゃんまで、東京に連れ出したりは……して、いないわよねぇ……仮にも、よそ様にお預かりした年頃の女の子を、こーちゃんと何日も二人っきりに……なんてこと、していないわよねぇ……。
 そうね。お客様も大勢いらっしゃるようだし、ちょっと向こうの方で詳しいお話、聞きましょうか……」
 ……ずるずるずる……。
 羽生譲は硬直した笑顔の狩野真理に引きずられ、奥の部屋へと姿を消した。

「……まあ、あれは、羽生さんの墓穴だな……」
「……んー……そういや、譲さん、真理さんに留守を任されていたんだっけ……」
「自業自得ね」
 口々にそんなことを言い合うギャラリーたち。
「……で、ソンシちゃん。実際の所、どうなの? 何日かこっちのこーちゃんと二人きり暮らしてみて、本当になんか間違いとかなかったの?」
 飯島舞花が水を向けると、
「ありません!」
「ありません!」
 何故か、当の才賀孫子と同時に、樋口明日樹も叫ぶ。
 もう一方の当事者、狩野香也は、ぶんぶんぶん、と激しく首を横に振った。
 全員の視線が、樋口明日樹に集中する。当事者が返答するのはわかるが、樋口明日樹は当事者ではない……はずだった。
「……え……あ……いや。
 狩野君の様子みに来た時、そんな雰囲気じゃなかったし……」
「……ねーちゃん……ひょっとしてそれって……ここん家にに泊まった日のこと?
 いや……ねーちゃんがそれでいいならいいけどさ、こんなぽやーっとしたの、どこがいいの? ってか、こんなのさっさと押し倒しちゃえば一発でケリつくと思うけど……」
「だから! 人前でそういうこといわない!」
 明日樹は弟の大樹のこめかみに両手の拳を添え、ぐりぐりと力を込めて捻りこむ。
「……香也様ぁ……」
 松島楓も、香也のそばに来てすがりついている。
「本当の本当に、あの女にへんなことされてませんかぁ……」
「ないよ、そんなの!」
「してません!」
 今度は、香也と孫子の声が重なる。才賀孫子の目尻がつり上がっている。
「わたくし、あなた方と違って、そんなに殿方の趣味、悪くありませんの!」
「わはは。こっちのこーちゃんはモテモテだなあ。もう一人のこーちゃんは妹一筋なのに」
 さりげなく加納兄弟に対する不穏な印象を煽ってから、飯島舞花は炬燵から出て、立ち上がった。
「さて、そろそろ蕎麦、こねてみようか。初めてだけど、マニュアル通りにやればなんとかなるだろ……」
 ほとんどの者が蕎麦を打つ場面など間近にみたことがないので、物珍しさでぞろぞろついていく。
 飯島の父親が通販で買った、とかいう蕎麦打ちセットは結構本格的で、臼の他に蕎麦粉をこねるための木製のボールも付属していた。もっとも、あくまで「家庭用」なので、臼もボールもそれなりに小さいサイズだったが。
「前々から思ってたけど、どうして男って中高年になると蕎麦を打ちたくなるのかなあ……。
 そんなに蕎麦好き人口って多いと思わないけど……」
「こういうセット買ったはいいけど使ったことない、うちの親父みたいなミーハーなのがほとんどじゃないのか、それって……。
 安直なイメージというか……」
「蕎麦って立ち食いとか、あんまりいいイメージないもんな……打ちたてはうまいって話しだけど、そんな店、滅多に食いにいかないし……」
「つなぎに少し小麦粉入れる、って書いてるなぁ……十割蕎麦って、家庭では無理なんか?」
「さぁ? 試しにやってみれば……」
 わいわいいいながら交代で、蕎麦粉をこねたり、こねた蕎麦粉を棒で伸して細く切ったり、とかいう作業を行う。
「……うーん……ちょっと作り過ぎちゃったかなあ……最初だから、適量がわかんなかった……」
 和気藹々とみんなで作業にいそしんだ結果、蕎麦の生麺が、どーんと山盛りになってしまった。
「……まあ、蕎麦はそんなに腹に溜まらないし、人数もいるから……なんとか、なるだろ……。
 じゃあ、いよいよ茹でまーす!」
 まずは一掴み、ぐらぐら煮えたっぎったお湯に放り込む。一度に大量に麺をいれると、お湯の温度が下がって風味が落ちる……と、マニュアルに書いてあった。
 舞花は適当にゆがいたところで笊に取り出し、流しに待機していた栗田精一に渡した。同時に、すぐに次の一掴みを湯の中に放り込む。
 栗田は一通り水洗いをしてからよく水を切り、用意していた、平皿の上に笊を乗せたものの上に、蕎麦を置く。
「とりあえず、一人前。最初は誰が味見する? 誰でもいいから、延びる前に食べた方がいいよ。どんどん茹でるから」

 できあがった蕎麦は、太さが不揃いだったりしたこともあり、決して「最高ーっ!」と手放しで称賛できる味ではなかったが、「挽きたて、打ちたて、茹でたて」で麺の色つやがよく、ひとくち口に入れただけで、ぷん、と蕎麦の風味が鼻腔に満ちた。程良く歯ごたえがあるのも、いい。
「やっぱ手作りだと、立ち食いやインスタントと全然違うのな」
「当たり前でしょ」
「なんかこう、口に含んだ瞬間、『そばーっ!』って感じがする……」
 全員でそんなことを言い合いながら、茹であがる端から蕎麦をすすっているうちに、若干やつれたようにみえる羽生譲が戻ってきて、少し間をあけて、風呂上がりの狩野真理も居間に戻った。
 そんなこんなで当初こそ「作りすぎたかな?」と思った蕎麦は、あっという間になくなた。

「……うーん……うまかったぁ……」
 羽生譲が自分のおなかのあたりを撫でながら、そんなことをいう。もともと引きずる性質ではないので、先ほどの真理の叱責の後遺症は、あまり見られない。
「……そっかぁ……今年からは、人数結構集められるんだよなぁ……正月、久々にあれやるかなぁ……」
「……あれって?」
「あー。真理さんなら知っているか。車庫の奥の方に放置している、あれ」
「あー! あれね! 確かにあれ、ある程度人数揃わないと、使えないわよね!」
 この家の大人二人がしきりに頷きあっている。
「なんすか、それ?」
「うーん……内緒。
 日本にいなかったカッコいいほうのこーちゃんとかは、多分、未体験だと思う」
「それよりさぁ。そろそろみんなでお参りいこうか? ちょっと早いけど、もうどうせ人、出ているだろうし」
「お参り?」
「初詣。日本の習慣? 風物詩?
 とにかく、年末年始に近場とか有名な神社にいって、一年の無事をお祈りするの」
「……ああ……なんか昔、ニュースとかで見た覚えがあるような……」
「……カッコいいこーちゃんは、妙な所で日本の生活に疎いよなぁ……。
 楓ちゃん。加納さん家のおじいさまから送っていただいたの、早速お披露目するチャンス到来だぜ!」

[つづき]
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