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彼女はくノ一! 第三話 (41)

第三話 激闘! 年末年始!!(41)

 とりあえず香也は、上着だけをひったくるように手にして、逃げ出すように家から外に出た。……いや、実際に、孫子から逃げ出したのだが。
 ここ数日、大掃除にいそしんでいたし、食事に必要なものも含め、必要なものは全て孫子が買いにいっていたので、香也にとっては久しぶりの外界である。
 予想以上に冷たい風に頬をなぶられ、香也は徐々に頭を冷やしていった。

 ……冷静に考えてみれば、あそこで逃げ出す必要も、なかったような……。

 それでもやはり、まだ香也は怖かった。
 孫子が、というより、自分が、他者から好意を向けられる、ということ事態が……。
『……結局ぼくは、まだまだ臆病者なんだろうな……』
 このまましばらく一人で歩いて、頭の中を少し整理してみよう、と香也は思う。そんな作業が、今この時点で、必要な気がしてきた。
 思い返してみれば、最近身の回りが妙に賑やかになって、以前に比べれば一人になる時間が格段に減っている。
『……そう……。
 こんな風に一人で、あてもなく歩くのって、久しぶりだし……』
 あてもなく、と思いながらも、香也はなんとなく、ショッピング・センターのほうに足を向けている。商店街の方は生活必需品はだいたい揃っているが、そのかわり趣味的な物を売る店がほとんどない。ショッピング・センターまで、徒歩で行くには距離があったが、そのかわりマニアックな店舗がテナントとしていくつも入っているし、席数は少ないながらもシネコンも併設されている。国道沿いにあり、商店街以上に広い範囲から客が集まっているので、喧噪に紛れて考え事をするのに向いている。
 それに、家からかなり歩くので、その間、考え事ができる。

『……才賀さん、呆れているだろうな……』
 孫子は別に、例えば、愛の告白とか、そんな特別な事を香也にいったわけではない。彼女の性格から考えても、単純に、お互いにとって合理的な提案をしてきただけだ……と、香也は判断する。
 ただ、「彼女には嫌われている」という思いこみを香也は持っていた。そのせいで、不意に示された好意に、香也がうまく対応できなかっただけで……。
 そう。多分、それだけのことだ……と、思う。

 やはり自分は不器用で、他人とのつき合いに慣れていない……香也は、そう再確認も、した。
 狩野順也と真理、羽生譲、樋口明日樹……それに、松島楓。
 ざっと思い起こしてみても、自分がどうにかこうにかまともなつき合いができている人は、向こう側から香也に対して歩み寄って来て、その上、香也に「合わせて」くれる人ばかりで……。
 だから、香也のような欠落が多い人格でも、なんとかつき合っていけている……。
 こと、対人関係に関する限り……香也は、常に受け身だった。
 誰かが近づいてきても、常に「どうやって距離を取るか」とか、そんなことばかり、考えてしまう……。

 この間風呂場で、裸の羽生譲に抱きつかれながら、
『……刺されないようにしろよ』
 といわれたことを、不意に思い出し、どきりとする。
 この自分が……深い関係を結ぶ対象として他人に選ばれ、また、他人を選ぶ立場にたつ、ということが……本当に、あるのだろうか?
 あまりにもいびつなこの自分が、誰かに必要されることもあまり想像できないし……それ以上に、香也自身が、自分の意志で、誰かを積極的に求める日が来る……ということが、香也には、まず、想像できない。
 香也は、異性うんぬんとかいう以前に、自分には、対人関係面ないしは情緒的な欠落があるのではないか……と、そんなことを思っている。
『……刺されるも、なにも……』
 香也は心中でため息をついた。
『……女性とつき合うとかそういうの、ぼくには向いていないよ、譲さん……』
 香也とて若い男性であり、当然、性欲はある。それを持て余している部分も、ある。
 しかし、それ以上に……香也は、「他人」が怖い。
 異性がどうこう、という以前の問題だと思う。相手が誰であれ、「女性とつき合う」なんて、自分には荷が勝ちすぎる……と、香也は思っている。

『……やはりぼくは、不器用な、臆病者だ……』
 堂々巡りにも似たもつれた思索を展開したあげく、香也がそんなありきたり、かつ、あまり意義のない結論を得た所で、どうにかショッピング・センターに到着した。
 年末のショッピング・センターは家族連れやカップルが多く、香也が漠然と想像していた以上に賑わっていた。ここには香也が時折利用する画材屋もあり、その画材屋に用事がある時は大抵寄ることにしている、洋書も扱っている書店もある。つまり、趣味的だったりマニアックだったりするショップをテナントとして内包しているこのショッピング・センターは、この地域でそれなりの影響力を持つ文化発信地として機能していた。
 いつも香也は、ここで画材を買った帰りに書店に立ち寄り、洋書のイラスト集や写真集などをぱらぱらと立ち読みしてから帰る。その日も、同じようなコースを辿った。
 持ち合わせがなかったので実際に買い物こそしなかったが、画材屋に寄って、東京から帰ったら羽生譲から貰える筈の報酬で買えそうなものを、頭の中でリストアップする。その後、書店に寄って洋書のビジュアルがメインの書籍を適当に手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
 が、いつもと違って、ページの上にある絵に対して、一向に興味が湧かない。どうにも集中力が散漫になって、目は紙の上を見ているが、それが頭の中にまで届いてこない感じがした……。
『……やはり、帰るかな……』
 自覚している以上に、今の香也は混乱しているらしい……。
 そう思って手にしていた本を戻し、体の向きを変えようとすると、珍しいことに、誰かに肩を叩かれた。
 極端に知人や友人の少ない香也が、出先で肩を叩かれる、などということは、今までに経験したことがない。
『え?』っと思って振り返ると、そこに、香也と同じくらいの年頃の少年と少女の二人組が立っていた。二人とも可愛らしい顔立ちをしていて、少女のほうには見覚えがあるような気がしたが……人の顔を目に焼き付けるのは得意でも、名前のほうを覚えるのが不得手な香也は、とっさに彼女の名前を思い出せない……。
 ついこの間、何日も一緒にいた相手なのだが……。
「狩野君、今日は一人?」
 彼女……柏あんなは、香也にそういった。
「狩野君のこと話したら、まぁくん……堺君が紹介してくれって……」

[つづき]
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