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彼女はくノ一! 第三話 (42)

第三話 激闘! 年末年始!!(42)

 香也と柏あんな、それに、柏の連れだった堺雅史という少年の三人は、たまたま目に入った「安くてまずい」と評判のファースト・フード店に入った。
 そこで三人分の飲み物だけ注文し、ボックス席に座る。
「狩野君は、絵を描くのがうまくて早い、って、あんなちゃんから聞いたんだけど……」
「それと、いろいろな種類が描ける」
 自己紹介もそこそこに、堺雅史が香也に問いかけ、柏あんながそれに補足する。
 どの程度のスキルを持っていれば「描ける」と言い切ることができるのか、言葉だけでは判断できない。が、柏あんなとは数日前、ともに同人誌の制作をした仲でもある。香也の実力のほどは目の当たりにしているわけだし、誤解の余地も、そんなにないだろう、と、香也は考える。
「……んー……描ける、といえば、描けるけど……」
 問題は、わざわざ「ちょっと話しがあるから」と香也を引き留めた彼らが、香也になにを期待しているか、今の時点ではわからないことなのだが……。
 香也の答えを聞くと、香也と同じ学年だという堺雅史は、隣に座った柏あんなと顔を見合わせて頷き、
「……実は……」
 と、肝心の用件を切り出した。

 堺雅史はパソコンやネットゲームに詳しく、将来はそっち方面の仕事に就きたいと、今から思っている。その練習のため、独学で簡単なプログラムとかスクリプトを組むことがあり、完成品の幾つかはフリー・ソフトとしてすでに公開している。
「……それで、同じような同年代の素人プログラマの人たちと、ネット上での付き合いも、自然に始まるようになって……」
 チャットやソーシャル・ネットワーキングで連絡を取り合ううちに、なんとなく、「共同で、ゲームでも作らないか?」という話しになって……。
「作ろうとしているのは、簡単な、分岐があるだけのアドベンチャー・ゲームで……」
 スクリプトやテキストを書く者はいても、それに絵を担当する者が、なかなか見つからない、という……。
 ようするに、「その絵を、香也に描いてくれないか?」という、打診、だった。

 ゲームに詳しくない香也が「アドベンチャー・ゲームって?」と口を挟むと、「……テキストや絵を表示しながら進む、分岐のある小説みたいな……」と堺が説明しかけ、「分かりやすくいうと、パソコンでやる紙芝居みたいなやつ」と柏が補足した。
 その説明を聞いて、「ああ」と香也は頷いた。そういうのなら、少し前、「同人の参考になるから」、と羽生譲にすすめられて、少しだけやったことがある。
「……一つだけ、途中までやったことがある……」
 香也がやったのは、昭和五十八年、過疎化の進む村に引っ越してきた少年が、分校みたいな小さな学校で楽しいクラブ活動をする……というシュチュエーションから始まるゲームだった。羽生の話しでは、やはり同人として制作されたもので、そのせいか背景が写真を加工したものだったり、絵やテキストも荒削りな部分が目についたりしたが、実際にプレイしてみるとそうした些末な短所はあまり気にかからず、あまりそうした物語に興味を示さない香也でさえ、内容にぐいぐい引き込まれた……。
 ……途中から、話しの進行がどんどん暗くて血みどろな方向にいってしまったので、香也は中断してしまったが……。
 香也がそのゲームの事を話すと、堺もそのゲームのことを知っていて、
「あ。あれは有名だよね。
 あそこまで凄いのはできないし、ぼくたちがやるのは、もっと短いものを考えているけど……」
 堺のはなしでは、テキストとスクリプトは着々と出来上がっているけど、その背景につける絵を担当する人物が、なかなか捕まらない、ということだった。
 それで、香也が目をつけられたわけだが……。
「……んー……でも、パソコン関係の絵はやったことないし、全体でどれくらい描けばいいのかわからないし……」
 香也はそういって、即答を避けた。
 香也は、何年か羽生譲と同人誌を制作している経験から、「まず最初に、全体の作業量を把握する」ということを学んでいる。香也にしてみれば、自分こなせない作業まで、無理に引き受ける必要もないのだった。
「……うん。絵のほうは、線画を貰えれば、こっちで取り込んで着色できると思うんだけど……やっぱりもっと詳しい説明をしないと、わかんないか……」
 今はなんの用意もしてないので、今度改めて、資料をもって説明したい、と、堺は香也にいった。
「……フリーで配布するつもりだから、羽生さんがやっているのみたいに、儲かるわけではないけど……今まで上がっているシナリオみると、かなりいい出来になっているので、資料だけにでも目を通して欲しい」
 堺はそういう意味の事を香也にいってから、「今度、改めて時間作って貰えるかな?」と、香也の目をまともに見据えて、尋ねた。
 香也は、堺の目をみて、「ああ。この人は、本気でいいものを作ろうとしているんだな」と納得し、「実際に引き受けられるかどうかは、わからないけど……」とあらかじめ断りを入れた上で、「冬休み中はたいてい家にいるから、いつでも来て貰えれば……」と、念のため、自宅の電話番号を教えた。香也の家の場所は柏あんなが知っている筈だし、香也は携帯電話を持っていなかった。
「じゃあ、こっちも、もっと準備してから……」
 香也の家を訪ねる、と堺はいった。

 自宅に帰る、という堺と柏の二人とは、ファースト・フードの前で別れ、寒空の下、一人残された香也は、「……帰るか……」と呟いた。二人に捕まったおかげで適当に時間がつぶせたし、他に行く当てがあるというわけでもないのだった。
 すでにどっぷり日が暮れていて、外はかなり寒い。香也は来たときのように歩く気にもなれず、出発する寸前だった自宅方面行きのバスに飛び乗る。
 自宅に戻ると、用意した夕食に手もつけず、炬燵に陣取り参考書を開いていた才賀孫子が待ちか構えていた。
「……遅くなるならなるで、連絡してくれるとありがたいのですけど……」
 参考書から目を上げ、平坦な口調でそういってじろりと睨まれると、内心では「……先に食べててもいいのに……」とか思いつつ、口では、「……んー……ごめん……」とかあやまってしまう香也だった。
 その時、孫子とともに食べた夕食は、香也が緊張していたため、あまり味がよくわからなかった。
 孫子のほうも、いつになく硬い表情をしている香也の様子に気づいているのか、いつも以上に口数が少なく、二人きりの食事は静まりかえったままで進行した。

 その夜、香也は早めに床に入ったが、なかなか寝付けなかった。

[つづき]
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