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髪長姫は最後に笑う。第四章(20)

第四章 「叔父と義姉」(20)

 同行した十名のうち、松島楓、才賀孫子、加納茅の三名は商店街のクリスマス・イベントで、荒野自身もマンドゴドラのディスプレイに登場しているので、地元ではかなり顔を知られてしまっており、実は、来る途中でも結構指をさされたりしたのだが、大人数でわいわい騒ぎながら固まっているせいか声をかけられたりすることもなく、荒野たちに気づいた人々に遠目にひそひそと囁かれる程度ですんだ。
 本格的に神社の鳥居が見えるあたりまで来ると、人がぎっしりと詰まってのろのろ前進しているような感じになって、荒野たちの存在に気づく余裕がある人も、ほとんどいなくなった。
「……いつもこんなもんなんすかぁ?」
 ゆっくりした速度でもなんとか賽銭箱の方に前進していく群衆の一部になりながら、荒野は一緒に来た人たちに質問する。
「うん。こんなもんだ」
「もう少し近づいたら、適当にお賽銭投げて、おみくじでも引いて帰ろう」
 口々に、荒野に答える面々。
「え? お賽銭、って、神様にあげるお金でしょ? それ投げるって、失礼なんじゃないんですか?」
「……言われてみれば、放り投げたり、投げ入れたりするもんで……畏まって捧げるもんじゃないよなあ、お賽銭って……なんでだろ?」
「何でだか知らないけど……」
 飯島舞花は、少し前で賽銭を投げて柏手を打っている人たちを指さした。
 舞花は、荒野の的を射ているのか突拍子もないのか判断がつきかねる質問に答えるのを楽しみはじめていた。
「見てみろ、おにいさん。ああやってお金放り込んで、手を合わせて、お願い事するのが日本の常識なんだ。
 今年のわたしの場合は、受験だな。特に願い事ないが場合は、自分とか家族の新年の無病息災、とか、無難なことをお願いする」
「……アバウトなんだな……」
「うん。アバウトだ。もう少し近づいたら、自分でも、実際にやってみる」
 祈願を終えた列の前の人々が次々と柏手を打っては左右に分かれてちっていく。これだけ多くの人が狭い場所にひしめいていて、特に誰かに誘導されているわけでもないのに割と秩序だって動いているのが、荒野には、興味深かった。
 神事、ということから連想される厳粛さはなかったが、代わりに、猥雑さ、までは行かない適度な賑わいと活気がある。
 やがて荒野たちも賽銭箱の前まで押し出され、荒野と茅も、周囲の人々の見よう見真似で硬化を放り込んで柏手を打ち、手を合わせて数十秒瞑目した。

『……願い事、かぁ……』
 荒野は「この平和がいつまでも続きますように」と、かなり本気で祈った。

 やがて、賽銭箱の前から離れ、少し密度が薄くなった人混みの中を進みながら、「なにを願ったのか?」という話題になった。
 狩野香也は「家内安全」、羽生譲は「商売繁盛」、樋口明日樹は飯島舞花と同じく「受験」、才賀孫子と樋口大樹と栗田精一が同じく「無病息災」、茅と松島楓も同じく「例年もまたここにお参りにこれますように」。
 最後に荒野が「平和祈願」と真面目な顔で明かすと、何故か、みんなに笑われた。

 荒野にとって、「お賽銭」に比べると、「お神籤」のほうはまだしも分かりやすかった。こうしたジンクスをアイテム化した習慣は、意外と広汎に見られる。
「吉」とか「凶」とかの後に、どうにでも解釈のしようがある文章が書かれているのも、割と「アリガチ」だな、と、思う。星占いとかの文章と同じようなもんだな、と、荒野は納得した。
 全員が籤を引いて、その内容に大げさに一喜一憂したが、どうした加減か荒野だけが「大凶」を引いた。
「まあ、そう気にすることもないさ。こうして枝に結ぶと、良い卦はかなって悪い卦は避けられる、ともいうし……」
「……やっぱり、アバウトだな……」
「うん。アバウトだ、アバウトだ」
 荒野の釈然としない表情を確かめ、飯島舞花は、やはり面白そうに笑った。

 狩野家に帰って、炬燵にあたりながらどうでもいいようなテレビ番組をみんなで見てくつろいでいると、すぐに時間はたち、どのチャンネルでも各地の寺院の鐘を突く映像を延々と流しはじめた。
『なるほど、これが「ジョウヤノカネ」か……』
 と、荒野は納得する。民法も国営放送もいっせいに同じような情景を放映している、ということは、この鐘付きが国民的な関心事なのだろう、と、荒野は解釈した。
 ……なんでこんな退屈な映像を日本国民がありがたがるのか、という肝心の理由の部分は、依然として謎のままだったが。
 テレビ局が積極的に放映している割には、真面目にテレビをみている者はおらず、狩野家の居間にいた面々は、おのおの好き勝手にしゃべったりくつろいだりしている。
 やがて、カウントダウンが始まり、全員が居住まいを正す。そして、午前零時の時報とともに全員が「明けましておめでとうございます」と唱和し、荒野と茅もそれに従った。
「やぁやぁやぁ。明けました明けました。
 ということで、去年頑張ったよい子のみんなに、お年玉」
 そんなことをいいながら、羽生譲はどてらの袖の中から白い封筒の束を取り出し、一つ一つ封筒に書かれた名前を確認しながら、荒野たちに配りはじめた。
 ただし、全員に、というわけではなく、飯島舞花と栗田精一、それに、樋口大樹の分の封筒はなかった。
「ね、ね、ね。おねーさん。
 ……わたしたちの分は?」
 三人を代表して、飯島舞花が質問する。
「……君たちは、うちの同人誌のお手伝い、してくんなかったからなぁ……」
「お年玉じゃないじゃん!」
 その場にいたほぼ全員が、一斉に羽生譲に突っ込んだ。

 その羽生譲は、「お年玉」を配り終えると、「バイト、バイト」とすぐに外出の支度をし始める。
「十二月に休ませて貰った分、一月で挽回しないとなぁ……」
 バイト先のファミレスではかなりの古株である羽生譲は、夏と冬の一時期、自分の都合で長期にわたって仕事を休むことがあるかわりに、それ以外の週末や連休には率先してシフトを入れている。今度の正月も、年末に休んだ分、かなりぎっしりとファミレスの仕事に入る予定だという。
 羽生譲の退去と同時に、荒野と茅も狩野家を辞することにした。他の面々はどうもこのまま泊まるつもりらしい。

 荒野たちが住む部屋の前に、羽織袴姿の男が座り込んでいるのに気づいた時、荒野の背に戦慄が走った。
 荒野には苦手な人間が三人いる。そのうち一人は自分自身の血縁者である加納涼治、もう一人も血縁者で、今、すぐ側に近づくまで、荒野がその存在を察知できなかった人物……。
「……茅、気をつけろ!
 あいつ、この世で一番厄介な人間だ!」
 そういって茅を自分の背に隠す荒野のこめかみに、冷や汗が浮かぶ。
 荒野が今までその気配を感じ取れなかった、ということは、当然、相手は一族の関係者なわけであり、その男は、荒野が知る限り、一族の中でも一番タチの悪い相手だった。
「……それはないなぁ……」
 いつの間にか、荒野に気づかれずにすぐ目前に立っていた、「最強」とも「最凶」とも称されるその人物……二宮荒神は、荒野に抵抗する間も与えず、がばり、と、両腕で荒野の体を抱きしめ、満足そうに目を細め、ずりずりと頬ずりをする。
「……こうぅやくぅーん……会いたかったようぉ……。
 日本に来てたんなら、連絡してくれてもいいじゃないかぁ……」
 荒野の背に、ぞわぞわぞわ、と悪寒が走る。全身に鳥肌が立っているかも知れない。

 そんな荒野の様子にもかかわらず、鼻にかかった声でそんなことをいいながら、いつまでも、荒野に対して頬ずりを続けるその男は……一族の中でも「最も凶暴」とされる「二宮」の現在の長であり、同時に、荒野の母の弟、つまり叔父にあたる。一時期、荒野の体術の師範だった時期もある。ついでに、「荒野」の名前も、彼の名から一字をとってつけられたもので、いわゆる、名付け親にもあたる。

 因縁浅からぬ相手……ではあったが、荒野は、その、二宮荒神という人物を、大の苦手としていた。

[つづき]
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