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彼女はくノ一! 第四話 (25)

第四話 夢と希望の、新学期(25)

「……いやー、本当、助かった。
 楓ちゃん、使えるわー。うちの部に欲しいくらい……」
 下校時刻になり、とりあえずその日の作業は切り上げなくてはならなくなった時には、玉木珠美はすっかり楓のことを気に入っていた。
「……あの、堺さん、学校のマシンって、夜とかは電源入っているんですか?」
 楓は、玉木には答えず、堺に向かって質問をする。
「……多分、電源全部落としちゃうと思うけど……」
 堺の回答を確認した楓は、書きかけのスクリプトを圧縮して一ファイルにまとめ、自分のメールアドレス宛に送信する。学校のマシンの電源が入っていれば、加納家からもリモートコントロールが効くように設定して置いたのだが、電源が入っていないとなると、続きは羽生のマシンを借りて、ということになる。場合によっては、真理や孫子のマシンも繋いで並行処理が可能なようにも設定できるが……それでも、処理速度的にはかなり落ちることになる。
 リソースを食う映像の処理が一段落しているのが、幸いだった。作業が終了した分の映像データをDVDやUSBメモリーに分散してバックアップし、帰る支度に取りかかりはじめた。
 堺のほうの作業進行状況を聞き、どこまで進んでいるのか確認してから、そちらのファイルも圧縮してまとめて自分のメールアドレスに送信した。
 堺が関わったコードは、詳細に注釈を入れてくれるので、後で手を入れる時、わかりやすい。
「え? なに? 楓ちゃん、持ち帰ってまでやってくれるの?」
 楓がなにをしているのかようやく理解した玉木が、驚きの声を上げた。
「……このままだと、明日の放映予定時刻まで、間に合いそうにありません」
 楓は玉木に、できるだけわかりやすく説明する。
「持ち帰って、できるところまでやってみます。
 中途半端なのは、気持ち悪いですから……」
「そ、そうだね。ぼくも、手伝う……楓ちゃんの家……ああ。狩野君の家か、今日、これからいっていいかな?」
 堺も、楓のほうに向き直っていった。
「多分大丈夫だとは思うけど……真理さんに聞いてみます」
「えらいなあ、一年生たち! おねぇさんは感激したぞ! でも……」
 楓と堺のやりとりをみた玉木は、壁に掛けてある時計を指さした。
「……残りの打ち合わせは、学校をでてからな。下校時間だ。
 あと、おねーさんも、もちろん君たちを手伝うから……」

 急いで帰り支度をして、校門前で打ち合わせた結果、一時間後に狩野家に集合。
 場所を提供して貰う代わりに、玉木が狩野家の今夜の夕食を用意する、ということに落ち着いた。
 楓と堺を待たせてあちこちに電話を掛けていた玉木は、一段落つくと、
「楓ちゃん……あんたの家、すごいことになっているんだなぁ……。
 囲碁勝負なんかよりも、こっちのほうがよっぽど面白いかも……」
 と前置きした後、
「加納兄とうちのウドー一号、それにトクツー君と何故かその姪っ子さんも来るって……とりあえず、夕飯の材料買ってくるようにメールしておいた」
「……こっちも、なんか……あんなちゃん……柏あんなが、夕飯作りのお手伝いに来るそうです……」
「柏……ああ。あの、可愛い君の相方か……まあ、賑やかになる分にはいいじゃなか……」
 一時間後に加納家で、という約束をして、校門前で一旦別れる。

「……楓、荒野がこれをもっていけって……」
 狩野家の近くまでいくと、通り道のマンション前にメイド服姿の茅と飯島舞花が待っていた。茅は楓を手招きし、ティーポットを持たせた。茅自身は茶器の入った箱を抱えていて、飯島舞花はノートパソコンを片手に一台ずつ持っていた。舞花が持っているのは、荒野兄弟が普段使っているものだ、という。
「あ。ありがとうございます。ありがたく使わせてもらいます」
 荒野が茅に連絡して手配したのだろう。実際、処理能力を考えると、マシンは多ければ多いほどいい。
「パソコン、わたしんちにもあるけど、デスクトップだから持ち運ぶのはちょっとなぁ……」
 ネットに接続した状態なら、楓なら遠隔操作することもできた。が、今回の件ではそこまでの処理能力は必要としないのではないか、と、楓は思った。ともあれ、舞花がそう申し出てくれたこと事態は、とてもありがたく思えた。

 楓たちと茅が楓の鞄とノートパソコン二台、茶器一式を持って狩野家に入り、楓が私服に着替えている間に、茅がお茶の準備をし始める。

 私服に着替え終えた楓は、在宅していた真理と羽生に断りを入れてマシンを借り、羽生が使用していたポートにLANケーブルを接続して、加納兄弟の二台ともども接続する。
 ネットに接続し、自分のメアドにチェック、学校で自分宛に送ったファイルを展開し、そこにあったソフトをインストールして強固で効率的な分散処理環境を整備する。

 その上で、学校でやりかけた作業を再開しようとしたところに、食材を抱えた荒野と「放送部」の腕章をつけた大柄な男子生徒、黒猫を頭に乗せ、白衣姿で腕にノートパソコンを抱えた徳川篤朗、四、五歳くらいの女の子、の、四人と一匹が揃って狩野家にやってきた。
「っちーっす。おおばんでーす」
「……お、おじゃまします」
「来てやったのだ!」
「こんばんわー!」
 四者四様の挨拶が玄関のほうから聞こえ、真理と羽生が出迎える。小さな女の子は徳川篤朗の姪で、母親に当たる徳川の姉が不在のため、面倒を見る者がいなくて連れてきた、という。
 その浅黄という女の子は、猫耳メイド服姿の茅を見つけると「ネコさんだー!」と叫んで抱きついた。
 楓とは初対面になる徳川篤朗は、
「ほれ、存分に使うがいいのだ」
 といいながら、持参したノートパソコンを自分の手で楓が構築したばかりのLAN環境に組み込む。徳川のマシンは、普段どういう用途に使っているのか、と思うほどに高性能だった。
 楓の不審そうな顔を見て、徳川は、
「物理シミュレーションとかやるには、最低限これくらいのスペックが必要なのだ」
 と、楓に説明した。
 これが初対面になる徳川篤朗について、楓は、「……本当に研究者なんだな」とか「言葉使いは尊大だけど、意外にいい人かも」という印象を持った。

 その徳川は、さっそく自分が持参した末端に取り付いて、楓が構築したばかりの分散処理環境をチェックしだした。
「これは、君が書いたのか?」
「既存のスクリプトに手を加えただけです」
「元の部分がほとんど残っていないではないか。
 だが、たしかにこっちのヴァージョンの方が、早くて安定しているのだ……」
 徳川篤朗は、褒めながらも、その側から楓のシステムの改良版のコードをキーボードに叩き込んでいく。
「コンセプトは理解したのだ。
 システムはすぐにこっちでもっと凄いのにヴァージョンアップしてやるから、そっちは目先の作業を進めるのだ……」

[つづき]
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