第五章 「友と敵」(16)
「……ということで、加納君。
君は、うちのウドー一号たちと一緒にトクツー君まわりの取材頼む……」
玉木珠美は、放課後も荒野たちの教室にやってきた。
「なんでおれが……」
「才賀さんまわりの取材、ストリーミング放送の準備……人手が足りないんだ。
この前協力してくれるといってくれたろ? 加納君イケ面だし、度胸もあるし、十分レポーターも勤まる」
「いきなりレポーターかよ!」
「断るんか? あぁん?」
玉木珠美は荒野のネクタイを掴んで自分のほうに引き寄せた。
「協力するって約束を反故にするとは良い度胸だなぁ! おおぅ! 本気で断るならこっちにも考えがあるで!
ウドー一号、ビデオ回せ! これから加納君に思いっきりディープなキスしてやる! そんでももってそれ、世界中にネット配信してやる!」
「……こ、こら離せ。
わかった。わかったから……」
玉木が大声を上げたので、クラスに残っていた生徒たちが一体何事かと荒野たちを注目した。
「了解してくれたのなら、それでいい……」
玉木はあっけなく荒野のネクタイを離した。
「……とんでもなく強引な奴だな、お前……」
「よくいわれる」
「……そのかわりこっちにも条件がある……」
荒野は今日一日分のギャラとして、牛丼特盛り三杯おしんこ味噌汁付きを要求した。
「……いやーすいませんねぇ、彼女、強引で……」
玉木と組んでいる有働勇作という生徒は、玉木と一緒の時は無口な印象があったが、荒野と二人きりになるとそれなりにしゃべるようになった。荒野とビデオカメラを抱えた有働は、今、徳川篤朗がいるという市の外れにある町工場に向かっている。
「玉木といい、この徳川といい、この学校も意外に変なのが揃っているよな……」
バスのシートに腰掛けたまま、手渡された徳川篤朗の資料をめくりながら荒野がいうと、有働は、
「彼女とか徳川君は、また特別ですよ……」
と、答えた。
有働は、いかつい体格に似合わず、物腰が柔らかい生徒だった。
荒野は徳川篤朗の資料に目を通している。
荒野と同じ二年生。しかし、授業には最低限にしか受けていないし、学校に来る頻度もそれに準じて少なくなる。それでいて、学科試験の成績はいい。学校を休んでも遊んでいるわけではなく、仕事……それも、徳川にしかできないような特殊な仕事をしていて、学校側も注意しようにもできない状態だった。
徳川篤朗は姉と姉の娘……つまり。篤朗にとっては姪にあたる……の三人で暮らしており、一家の収入は、現在の所ほとんど篤朗からもたらされている。
両親は何年か前に他界しており、以前は働きながら篤朗を育てきた姉も、ここ数年は自分の娘の出産と養育に専念しいて、篤朗の働き以外に収入源がないような状態だった。
数ヶ月前から、ようやく娘を篤朗に預けて以前やっていたライター稼業を再開しはじめたが、まだまだ篤朗の姪も手の掛かる年齢であり、フル稼働とはいかないらしい。
「……まあ、誰にでも、いろいろな事情があるもんだな……」
荒野が呟くと、
「そうですね」
有働も頷いた。
荒野に渡された資料にははっきりと記されてはいなかったが、篤朗の姉の伴侶について、明確な記述がないところをみると、シングルマザー、なのだろう。
死別したのか、婚姻届を出せないような事情があったのかまでは、わからないが……。
バスを降りた荒野たちはプリントアウトした地図を頼りにある町工場の前に到着した。塗装が所々剥げ、錆が浮いた大きな鉄の扉があり「(有)仲元興業」と白いペンキで書かれていた。その脇にある門柱にインターホンがあったので、ボタンを押して「ここに徳川篤朗君がいると聞いたんですけど……」と来意を告げると、「おお。いるいる。鍵空いているから勝手に入ってくれ」と返事が返ってきた。
荒野は有働に、
「もうこっから撮っちゃおう……」
と指示を出して、自分はマイクを取り出して、鉄の扉を開けた。
玉木の話しによると、有働は極端なあがり症で、多人数の前とかカメラの前ではまともに話せない、ということだった。
「こんちはー。放送部の者ですー……」
といいながら、荒野たちは工場の中に入っていく。
中は広い……というよりは、がらんとしている。天井がやけに高い(普通のビルなら三フロか四アフロア分くらいの高さは優にある)ので、一層、「がらんとしている」という印象が強くなるのかも知れない。
『……倉庫に似ているな……』
その工場の中を見た瞬間、荒野は思った。
倉庫と違うところは、あちこちに廃材と見分けのつかない錆掛かった金属材が雑然と放置されていることだった。打ち捨てられたように見える金属片は形も大きさもまちまちで、ねじくれて天井近くまで延びているものもあれば、床付近を這い回っている有刺鉄線状の物体もある。
実用的な製品、というよりは、
『前衛彫刻?』
に、見えた。
有働も物珍しいのは荒野と同じらしく、ビデオカメラをあちこちに振って、工場内の情景を記録させている。
「……こっちこっち」
作業服を着た中年男性が、フォークリフトに乗って工場の奥から荒野たちの近くまでやってきた。
「トクの奴なら奥に籠もっているから、案内するよ。
ここからちょっと離れているから、悪いけど、そこに乗ってくんな」
と、フォークリフトのアームを指さす。
荒野と有働は、フォークリフトのアームにしがみつくようにして、徳川がいるという奥の研究室まで運ばれた。
「あの、さっき工場内撮影させて貰ったんですけど……」
「ああ。かまわんよ。あの辺りは実験に使った廃材置き場だ」
作業服の中年男性は仲元と名乗り、この工場の経営者だという。
「しかしまあ、トクみたいなのに友達がいるっていうのも驚きだな……」
「徳川君は、こっちで研究しているんですか?」
「ああ。設備が必要なのとかは、だいたいこっちでやっているようだな。
あと、トクが作った機械とかは、だいたいこっちに置いてるし……。
おれもあの若いのが……って、今だって若いが、当時は本当にガキもいいところだったんだ……いきなり株でつくった現金もって訪ねてきて、うちの設備使って実験させてくれ、って言ってきた時は面食らったけどよ。
奴の話しきいてみるとどうにも面白くなってきてなぁ。技術屋として試させてみたくなっちゃったわけよ……」
「徳川君はそんなに優秀なんですか?」
フォークリフトのアームにしがみつきながらも、荒野は仲元のインタビューを続けた。有働も必死になってその様子をカメラに収めている。
「ありゃあ……優秀、ってえのと、ちょっと違うなあ……。
常識的な所からは出てこない、めちゃくちゃなアイデアをどうにかこうにかつぎはぎして無理矢理実用的な製品にまで強引にもっていっちゃう、って感じで……完成したはいいが、商品としてまるで売れてないのも山ほどあるし……」
「……マ、マッド・サイエンティスト……」
「そう。一番近いのは、それだ。
トクの奴に言わせると、自分は既存の技術をうまく組み合わせているだけだ、なんて抜かしやがるが……」
[
つづき]
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