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髪長姫は最後に笑う。第五章(17)

第五章 「友と敵」(17)

「着いた着いた。そこそこ。
 あのプレハブの右手に見える方のが、一応、トクのヤツの研究室ということになっているな……。今の時間は、だいたいあそこに居るはずだ……」
 工場内を三百メートルも走っただろうか。
 荒野たちが入ってきた側とは違って、こちらのほうには資材などが整然と配置されている。こちらの方にもゲートがあって、ゲートの付近にはトラックのものらしい太い轍の跡が地面に黒々と刻み込まれていた。こちらからも搬出入できる構造になっているらしい……というよりは、荒野たちが入ってきた門のほうが、バス停からは近かったが、どちらかというと裏口なのだろう。
 その、本来の搬出入口の脇に、確かに、仲元のいうとおり二階建てのプレハブが二軒あった。プレハブ、といっても、かの狩野香也が普段プレハブ代わりに使用しているような物置に毛の生えたような代物ではなく、かなり大きな、建築現場の飯場にでも使用されるようなものだった。屋内とはいえ敷地が広く、天井も高い工場内で、効率よく空調を整えるためにプレハブという容器を必要としているらしい。
「右手のプレハブ、一階のほうがトクの研究室、二回の方が事務室だ。
 トク、どちらかに居る筈だから……」
 そういうと仲元はプレハブの前にフォークリフトを停め、
「おーい! トクー! お客さんをお連れしたぞー」
 と、プレハブの方に向けて大声を出した。
 数秒の間を置いて、二階の窓ががらりと開き、徳川篤朗がぼさぼさ髪の頭だけを出し、
「二階にいるのだ!」
 と、手招きした。
 荒野と有働はフォークリフトのアームの上から足を降ろし、外付けの階段を上りはじめた。
「ぼく、フォークリフトに乗ったの、今日が初めてです」
「……おれも……」
 プレハブの階段を昇りながら、有働と荒野はそんな会話を交わした。
 階段を昇りきるとそこはもうすぐに入り口で、荒野たちが引き戸に手をかけようとすると、勝手に戸がスライドした。
『……自動ドア?』
 と、一瞬思いかけたが、足元の方で、
「いらっしゃい」
 という舌足らずな声がしたので視線を降ろす。そこには場違いな、幼稚園ぐらいの可愛らしい女の子がいた。この子が、荒野たちの足音を聞きつけて、タイミング良く戸を開いてくれたらしい。
「……お、おじゃまします」
 意表を突いた人物に出迎えられ、有働と荒野はおずおずと殺風景なプレハブの内部に入った。荒野たちを出迎えた女の子は、
「とくろーはおちゃもってくるから、こっちにすわってて」
 と、室内にあった応接セットを指さす。途端に、
「ちょうどいい具合にお茶がはいったのだ」
 と盆を持った白衣姿の徳川篤朗がしきりの向こうから姿を現した。
「インターフォンが鳴ってから来客がここに来るまでの所要時間はほぼ一定、そのタイミングに合わせてちょうどいいようにいれたお茶なのだ」
 篤朗が自らいれてくれたらしいお茶は玉露で、濃さも温度も適切であり、意外なことに、かなりうまかった。

 応接セットとスチール製の事務机、それに、壁際にある大型筐体がLEDを光らせているだけのガランとした部屋だった。大型筐体の上には丸々と太った黒猫が昼寝をしている。篤朗と女の子の他には、誰もいなかった。
「ええと……姪御さん?」
「その通り。よく調べているのだ。姉の子供で、名を浅黄という」
 荒野が篤朗の隣に座ってストローでジュースを啜っている女の子を指さして訪ねると、篤朗が頷いた。
「これ、玉木に貰った紙に書いてあったから……」
 荒野が学校を出るまぎわに手渡されたプリントアウトをひらひらさせると、篤朗は無言のまま意外に俊敏な動作でそれをもぎ取り、書いてある内容にざっと目を通してから、
「かなり正確な概要なのだ」
 と保証した。
「ここまで調べてあれば、ここまで出向いてきて聞くようなことも残っていないと思うのだが……」
「あ、ああ……い、いや! そうじゃなくてだな……」
 荒野も危うく頷きかけ、慌てて自制する。
「どうやって調べたのか、玉木の下調べもかなり正確だったわけだど……それ以外にも、ケレン味とかハッタリが必要ってこともあって……」
「……そんなもん、誰が必要とするのだ?」
 荒野の言いぐさに、篤朗は首を傾げる。
「玉木か? それとも君か?
 すくなくともこのぼくは、そんなものは必要としないのだ」
 正論だ、と、荒野は思った。
『玉木には強引さでペースを狂わせらられるけど……』
 玉木とは別な意味で、やりにくい相手だな、とも。
『こいつはこいつで、マイペースすぎる……』
「玉木とかおれとか、ではなくてね、その、囲碁対決の中継を見る視聴者に対するサービスというか……」
「……そんな奴らのことは知ったことではないのだ。
 狭間先輩の口利きでナントカという奴と囲碁をすることになった。玉木からその中継をして良いかと聞かれたから勝手にしろといった」
 篤朗は、さらに首を傾げた。
「なのに君らのような奴らがのこのこ訪ねてきて、分かりきったことを聞こうとする……因果関係が、謎だ……」
『ようするにコイツは……』
 荒野は、頭が痛くなってきた。
『学校で自分がどうみられているか、とか、今回の囲碁対決がどれだけ注目されているのか、ということについて……まるで自覚がない……。
 それ以上に、自分の関心事以外に、まるで関心がないタイプなんだ……』
「もちろん、こちらはこちらで相応の思惑というものがあるわけだけど……」
 そこで、荒野は方針を変えることにした。
 徳川篤朗がなにを重んじる人間なのか、ということさえ把握すれば、交渉は可能だ。
「そんなことは、しょせんこちらの都合なわけだし……。
 ここは一つ、徳川君の研究とか仕事について、無知な大衆に知らしめるためのいい機会だと、とらえて欲しいな……」
「……うむ……まあ、タダでCMうってくれると思えばいいのか……」
「そうそう。ちゃんと、ビデオも持ってきたし……」
 荒野は、隣に座るビデオカメラを構えた有働を示した。篤朗にとってもメリットがあることを強調する。
「徳川君が予想する以上に今回の中継、反響があったし、注目も集めいている……らしい、から……。
 アピールする、いいチャンスなんじゃないかな?
 ここまでカメラ担いで取材に来た人、いないでしょ?」
「……そっち方面の取材、というのは、もちろん、大歓迎なのだが……」
 篤朗は、ふんふんと頷きながらも、荒野に尋ねた。
「そもそも、君は誰なのだ? そっちのでかいのは、放送部にいるのを見かけたことあるような気がしたが……。
 うちの制服着ているけど、君のような生徒、うちの学校にいたか?」
 ……いわれてみれば……荒野も、徳川篤朗が才賀孫子に挨拶をしに荒野たちの教室に来た時、みかけている程度で……。
 しっかり名乗りあって挨拶した、という間柄でもないのだが……ここまで招き入れて、お茶まで出してからいう台詞だろうか……。この、徳川篤朗いう男の、他人に関する無関心ぶりは……いっそ、清々しいほどだった。
 この分だと徳川篤朗は、対戦相手の才賀孫子という存在も、まるで意識していないのかも知れない……。「才賀孫子」という相手のことはよく知らないが、ただ単に「狭間先輩に言われたので勝負してやるのだ!」程度にしか、認識していない可能性も、ある。いや、その可能性が、大である。

『……そういや、おれ、なんだってこんな所でこんなことやっているんだろう?』
 ここにいたって、ようやく気づく荒野だった。
『ひょっとしておれって……玉木に……いいように使われてる?』

 よくよく考えてみると……玉木や荒野、徳川や才賀……全ての関係者をひっくるめて……いつの間にか、狭間沙織の書いたシナリオに沿って動かされているような感覚を覚えた。

[つづき]
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