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髪長姫は最後に笑う。第五章(18)

第五章 「友と敵」(18)

「……おれは、加納荒野。三学期から転入してきたばかりの転校生。
 だから、顔を覚えていなくても無理はない……」
 内心の動揺を隠しながら、荒野は徳川篤朗に名乗った。
「たしかに放送部ではない部外者だが、玉木に乗せられて、ここにいる。
 まあ、成り行きってやつかな……」
「そうか。玉木に乗せられたのか……。
 ……ありそうなことなのだ……」
 徳川篤朗は、もっともらしい顔をして頷いた。
 この徳川も、過去に玉木となにかあったのかも知れない。
「ぼくは徳川篤朗。見ての通り、ろくに学校にも通わない偏屈な不良なのだ。
 それから……浅黄、挨拶」
 篤朗が傍らの幼児に即すと、
「とくがわあさぎ、よんさいです」
 女の子は、大きな声ではきはきと挨拶をしてくれた。

「……さて、君らの目的と正体が判明したところで……」
 徳川篤朗は立ち上がった。
 篤朗が立ち上がると、筐体の上で丸くなっていた黒猫が起きあがり、即座に篤朗の頭の上に乗る。
「……さっそく案内させて貰おうか。
 もっとも、時間もないし企業秘密に属するような深部までは取材して貰っては困るので、全部は案内はできないが……」
「その前に、少し質問、いいですか?」
 荒野は先に立って部屋を出ようとする篤朗を押しとどめる。
「徳川さん、ご専門はなんなんです?」
「専門? 専門、か……はっ。愚問だなのだな。
 そんなもの、この年端も行かない、ドクターにもなっていない若造にあるわけがなかろう……」
 篤朗は、涼しい顔をして答えた。
「気が向けばなんでもやるのだ!
 当面の目標は常温超伝導物質の製法を確立することだが、流石にそれにはまだ成功していないのだ!」
「……で、でも、それで、こんなに成果をだしているのって……」
 荒野が渡された資料に寄れば、篤朗が取得した特許やパテント類は数十に登り、出願中のものを含めれば、その数は数倍に膨れ上がる。
「特許……か。
 あんなもんは数を撃てば当たるのだ。思いついたことを片っ端から口述して申請していると一定の割合で取得できるのだ。そのうち首尾良くお金になるのは、さらに数割。割のいい商売ではないのだのだ」
 篤朗は、時間の許す限り、英語の口述ソフトを使って、アイデアを記録していくという。後でプリントアウトして、使えそうなものをまとめて出願する……という。
 本人もいうとおり、成功率はさして高くないのだろう。
「……最初は、株をやってたんですよね……」
「祖父が相場師だったのだ。
 子供の頃、おもしろ半分にいくらかの現金を預かって張ってみたら割合に儲かったのだ。たまたま手元にあったそれを最初の資金にしただけの話しなのだ。
 ぼくの本領と興味は、博打や金儲けにはないのだ」
「それを元手に、今は好きなことをやっている、と……」
 荒野は来る途中で聞いた仲元の言葉を思い出す。
 ……多額の現金を抱えて工作機械を使わせてくっれ、といってきた、子供……。
「祖父も晩年は痴呆気味で負けが込んできたので、周囲が相場には手を出させなかったのだ。
 ぼくが株をほどほどにして、本気で金を稼ぐ気になったのは、姉にこの浅黄ができたからなのだ……」
 篤朗は浅黄の頭に掌をおいた。
「姉はぼくの親代わりで、その姉が親になって、お金が必要だけど、お金が稼げないようになったのだ。
 だったら、ぼくが稼ぐしかなかったのだ……」
 実際には、今でも証券の売買による収益はかなり多いようだが……それでも、幼い頃に祖父の没落ぶりをみていた篤朗は、自分たちの生活費を株だけに頼ろうという気にはなれないようだった。
 株は、水物だ……という認識が、身に染みてしまったらしい。
「……だから、実業……製造業に乗り出したのだ」
 投資や投機と違い、製造業は、良い製品を作れば、長い目で見れば確実に利益を出せる……と、思っていた。加えて、幼い頃から様々な分野に興味を持ち、多種多様な知識を存分に仕入れていた篤朗は、自分の中から際限なく沸いてくるアイデアを実現する機会も狙っていた。
 篤朗の脳裏には、基礎研究をしっかりやりさえすればモノになりそうな製品や素材のアイデアが多数ひしめいており、その基礎研究に必要な資金も、自前で調達することが可能だった。
「それでぼくは、他の企業や大学がやりたがらない、やりたくても手が出ないような実験を、自前で辛抱強くやり続け、結果を出してきただけのことなのだ。
 今は、成功した時の儲けが多いので、マテリアルの開発に力を入れているのだ……」
 一旦製法が確立すれば、低廉に製造することができる合金や複合素材の製法を、数十億とか数百億単位の資金をかかけて開発する。
 資本も自前なら、製法を確立するための人員も、工作機械を手がける仲元さんと時折助手を雇う以外、ほとんど篤朗自身だけだった。

 篤朗は、荒野たちをプレハブの一階に案内してくれた。
「ここでは、比較的精度の低い実験を行っているのだ……」
 プレハブの一回の内部では、壁中にぶら下がったロボットアームが際限なく蠢いていて、資材……大抵は、金属片……をハンマーでうったり伸ばしたり折り曲げたりしていた。
 何十というロボットアームがそれぞれ勝手に蠢いている様子は、圧巻といえた。
「仲元さんはもともと、こうした工業用ロボットの設計や製造をしていたのだ。それにぼくのソフトで制御すると、休みも疲れも知らない試験要員になるのだ。
 今では、上のフロアにぎっちりとこの手のロボットが働いて、ぼくのアイデアを実現するための実験をフル稼働で繰り返しているのだ……」
 工場の上のフロアには、気温や外気の成分など、特殊な条件を設定した場合での試料の加工実験をするために特設された部屋がひしめいている、という。
 そして、新しい資料の製造法を確立したら、即座にパテントやら特許やらと出願し、内外の大企業に売り込んだりするのだという……。
 売り込みに成功したら、その企業の株も買い、資金源をより強固なものにして、今後の開発のためのコネクションも強化する。

 潤沢な自己資本と「徳川篤朗」という特異な個性があって、初めて成立する商法だった。
 なるほど……。
 普段こんなことやっているのなら、地方の公立校など、まともに通う気にはならないだろう……。
「徳川篤朗」という生徒の実体は、当初予想していた以上に、突出した、異質な知性であり、存在だった。
『でもこいつ……一族の者や才賀とは別の意味で……周囲から孤立してきたのだろうな……』
 と、荒野は思った。

 結局、徳川はプレハブの一階部分しか工場の内部をみせてくれなかった。
 が、それでも、休みなく動き続ける無数のアーム群を背景に、徳川徳郎自身が荒野に話してくれた内容を録画しただけでも、十分にインパクトがある……と、荒野は判断する。
 カメラを構えていた有働勇作が終始驚愕の表情を浮かべて、沈黙していたことから推察しても、荒野の判断は、さして的外れなものではないはずだった。

[つづき]
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