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彼女はくノ一! 第四話 (27)

第四話 夢と希望の、新学期(27)

 いつものように帰宅してからすぐに庭のプレハブ籠もり絵を描いていると、才賀孫子が夕食の時間だ、と、呼びに来た。孫子の後ろにはシルヴィ・姉崎もおり、三人で母屋に入る。
 最近、夕方になるとシルヴィ・姉崎が孫子を訪ねてくることが多い。シルヴィ・姉崎について、香也は「加納兄弟の関係者らしい」くらいの認識しか持っていない。二宮浩司こと二宮荒神についても同様で、彼らの身元などついて詳細な事情を聞いてもしかたがない、と達観している部分がある。もともと香也は、他人に関する興味が薄い、ということもあったが、香也は加納兄弟の関係者には不干渉の立場をとっている。
 香也は学力的にも体力的にも平均以下の無力な学生なのである。
 彼ら、複雑な事情を背負った者たちの世界について、興味本位に覗き込んでも、得るところは少ない……と、心得ている。

 その夜も盛況だった。
 ここ最近、夕食時などに、不意に来客があることが少なくない。
 下宿人の二宮は、無遅刻無欠勤で真面目に学校に勤めている割には、夜や週末は家を空けがちな人で、二宮が不在の時に限定で、シルヴィ・姉は夕食に同席していく。
 最初は二人で申し合わせているんじゃないのか……と思っていたが、孫子の話によると、姉崎の方が一方的に二宮を嫌い、避けているということで、いずれにせよ、食事を用意する真理にしてみれば、二宮の予定を確認するまでもなく、いつも同じ人数分の食事を用意すればいいので、本来なら不意の来客であるシルヴィ・姉崎は歓迎されている。

 それ以外に、年末からこっち、なにか事があるとなにかと狩野家に人が寄ってくるようになった。
 古い代わりに敷地も広く部屋数も多い家だから、極端に大人数でなければ、場所的には不自由しない。また、食事時に来訪がある時には、下宿人とか加納兄弟、それに来訪者自身が手を回して食事の手配をしてくれるので、主婦の真理は、これも歓迎している節がある。毎日それなりの人数の食事を作るのは、単調といえば単調な仕事で、たまに誰かが変わってくれる、という申し出があれば、思わず「どうぞどうぞ」と言ってしまうのだ。
 おかげで、お客が多い日の狩野家の台所に、お客様自身が食材持ち込みでわたわた立ち働く光景が、半ば日常化してしまったりしている。

 そんな時は大体加納兄弟あたりが指揮をとっていることが多いのだが、この夜は珍しいことに誰も献立を統制する者がおらず、来訪者たちが持ち寄った食材を、各自適当に調理していた。
 香也が台所に様子を見にいくと、コンロにはフライパンが火にかけられており、それ以外に茅と柏あんなが鍋と中華鍋を前に格闘していた。茅は味噌汁を、柏は炒め物かなにかをつくっているらしい。それ以外に、飯島舞花が背を丸めて、フライと生春巻きを皿に盛りつけていた。
「あ。すぐに出来るから、炬燵の方で待ってて……」
 香也の姿に気づいた飯島舞花は、即座にそういって香也を居間に追い出した。
 居間では、制服姿の加納荒野が四、五歳くらいの小さな女の子にじゃれつかれてぐったりとしており、その隣には見慣れない大柄な男子生徒が炬燵で背を丸めていた。荒野にじゃれついている女の子は、茅から略奪したのか、黒い猫耳カチューシャを頭につけていた。
 香也の姿に気づくと、大柄な生徒が香也に頭を下げ、女の子の相手をしながらぐったりしていた荒野も香也に目礼した。
「……んー……今日は、なに?」
 香也が荒野に尋ねると、荒野は、遠い目をして、
「まあ、いろいろあって……最初は才賀と徳川の囲碁勝負って話しだったんだけど……それが、いつの間にか大事になって……」
 とか、いった。
 ……才賀孫子と誰かが囲碁を打つと、なんでこれだけの人数がこの家に集まるのかよく分からなかったが、年末の商店街での一件からこっち、何気ない出来事が周囲を巻き込んで異常な規模の騒ぎに発展することも、半ば日常化していた。だから香也は、詳しい事情が分からないながらも、荒野の半端な説明で「そんなもんか」と納得することにした。

 そのうち、食器を抱えた孫子とシルヴィ・姉崎が台所から来て、椀や皿などを配りはじめた。舞花や柏あんなが盛りつけをした皿を、茅が味噌汁の入った鍋やプライパンを、それぞれ何往復かして炬燵の上や周りに配置する。
 奥の方から羽生譲、松島楓、堺雅史、眼鏡の少女、見慣れない白衣姿で頭に黒猫を乗せた少年、などがやってくる。眼鏡の少女は、名前は咄嗟に浮かんでこないが顔は覚えていたので、香也にも放送部の生徒だとすぐに分かった。白衣の少年の顔は、香也には覚えがなかった。
「そこの玉木が魚介類をふんだんに提供してくれたので、割と御馳走になりました……」
 飯島舞花がそういいながらフライパンの蓋を取ると、びっちりと魚介類が敷き詰められた中身が顔を出した。下の方に敷いてあるのは、着色した米、らしい。
「……パエリア、カキフライ、生春巻き、回鍋肉、シジミの味噌汁……あ。そこの猫ちゃんには、こっち、と……」
 舞花が余った食材を盛った皿を出すと、それが自分用のものだと分かるのか、白衣の少年の頭上に乗っていた黒猫は「にゃん」と鳴いて少年の頭から飛び降り、舞花が畳の上に置いた皿の中に頭を突っ込んだ。
 それが合図になって炬燵に適当に座った面々は、「いただきます」と唱和して、食事を開始した。初対面の面々は名乗りあったり、どうしてこういう事になったのか、という説明をして貰ったり、で、それなりに盛り上がった食事になった。

「最初は才賀さんの入部問題で……」
「それをこの玉木が放送部で中継するとか言い出して……」
「いうのは簡単なんですけど、ゼロからそういうシステム作るのって大変なんですよ……」
「あんだけテキパキやっててそういうこといっても説得力ないって、楓ちゃん……」
「このぼくが手を入れたからもはや万全なのだ!」
「……いずれにせよ、部活とかいうのの範囲を超えているよな、とっくに……」

 話題が一通り回ると、頃合いを見て羽生譲が立ち上がり、奥の方からDVDを持ってきて、居間にあるテレビで再生をしはじめる。
「……マンドゴドラの対バレンタイン用に考えたヤツなんだが……」
 という羽生の説明とともに、盛装とも仮装ともつかない恰好をした加納兄弟、松島楓、才賀孫子の四人が、戯れあったりポーズをつけたりした映像が流れはじめる。ほんの二、三日前、この家の中で撮影したものだから、背景のほとんどは障子だった。
 加納茅と才賀孫子は平然とした顔で、加納荒野はどこかいたたまれない顔で、松島楓は真っ赤になって俯いて、それぞれ自分の映像が流れている場で食事を続けた。
 それ以外の、当事者でない者たちは、無責任に「似合う、似合う」などとはやし立てたりして、このも映像もまた、食卓を盛り上げることに貢献した。

[つづき]
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