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髪長姫は最後に笑う。第五章(19)

第五章 「友と敵」(19)

 徳川篤朗の工場とは、要するに二十四時間体制で新素材の製法を模索し続ける自動実験場だった。これだけの規模の施設が「生産」ではなく専ら「開発実験」のために使用され、しかも個人の資本で動いている……という事実に荒野も驚かされたが、荒野と同道した有働勇作は、もっと毒気を抜かれたようだった。
 少なくとも徳川が、「株と特許で儲けている」という評判からイメージする……町の発明家……みたいな暢気で牧歌的な存在ではないことは、確かだった。
 荒野も有働も徳川篤朗と同年輩であり、にもかかわらず、徳川はすでに地に足のついた事業を成功させているように見える。つい数ヶ月までまで別の方面で一人前大人並みの活躍をしていた荒野はともかく、有働ら通常の人間は、まだ社会に出てさえいない年齢である……。
 一通り、徳川の話しを聞き、工場内の撮影を終えると、。荒野と有働は、どちらからともなく「いい時間だし」ということで取材を切り上げることにした。
 ビデオのメモリーには十分な量の映像が記憶されていたし、これ以上につっこんだ取材をするのなら、囲碁対決のおまけ映像などではなく、徳川篤朗個人の特集を数十分の番組に編纂する……くらいの意気込みで出直さなければならない……くらいの手応えを、有働も荒野も感じていた。

 荒野と有働が帰ると言いだすと、篤朗は何ヶ所かに電話をかけてから、
「仲元さんが送ってくれるというのだ。
 あと、玉木が狩野香也の家で待っているそうなのだ」
 と荒野たちに告げて、何故か姪と猫ともども、外出の準備をし始めた。
「おれの家? 玉木が?」
「違うのだ。一年のほうの。狩野香也。
 そこに住んでいるパソコン部の一年に用があるそうなのだ」
 こういう時、同音の名前というのは紛らわしい。「そこに住んでいるパソコン部の一年」とは、楓のことだろう。
「……徳川君も、家に帰るのか?」
 まさか、この工場に住んでいるわけでもあるまい。
「いいや。
 玉木から、面白いことになっているからあんたも来い、と誘われたのだ。
 一年の狩野香也の家には、明日の対戦相手も住んでいるそうではないか……」
 そういうことで荒野と有働、徳川篤朗と姪の浅黄、おまけに篤朗の頭に乗った黒猫は、仲元さんが運転するワゴン車に同乗して狩野家へと向かうことになった。

「……どうだい? 驚いたろう?」
 運転をしながら、仲元さんはバックミラー越しに荒野たちの顔をちらちら見ながら、声をかけてきた。
「うちはもともと、工業用のマニュピレータとかのメーカーだったんだが……これがm受注先によって細かいカスタマイズの伴う仕事でな……。
 需要はそれなりにあったんだが、手がかかりすぎてコスト的に厳しいところだったんだ……。技術が金に直線的に換算されない業種なんだよ、これが……。
 そこいくとトクの奴は同型機種をまとめて大量に発注してくれるお得意さんだし、新しい取引先を紹介したりしてくれるから、こっちも便宜払って工場ごと貸したりしているんだけどな……」

 送ってくれた仲元さんに礼をいってワゴン車を降り、狩野家に入ると、猫耳メイド服姿の茅が出迎えてくれた。
「ちわーっす。おばんでーす」
 と荒野が元気に挨拶し、続いて有働も、
「……お、おじゃまします」
 おどおどと入っていく。
 初めての家、ということ以外に、いきなり異様な格好で現れた茅にびびっているらしい。
 篤朗の姪、浅黄は、有働とは逆に全く物怖じすることなく、茅の姿をみるとその場で、
「ネコさんだー!」
 と叫んで抱きついた。
「姪は、気に入ったものに抱きつく習性があるのだ」
 と篤朗は解説した。
「おかげで、こいつはすっかり恐がりになって、できるだけ高いところに逃げる癖がついてしまったのだ」
 そういいいながら、自分の頭上に居座ってあくびをしている太った黒猫を指さした。
「……茅、玉木はいる?」
「玉木はまだ来てないの。楓なら、羽生の部屋にいるの」
 ノートパソコンを脇に抱えた徳川は、案内されたわけでもないのに「来てやったのだー!」といいながら、ずんずんと家の奥に進んでいった。
 方向的には合っているので、荒野は篤朗を放置しておき、居間を通って台所に顔を出し、居間でくつろいでいた狩野真理、何故か台所で食事の支度をしていた飯島舞花などに声をかけてから、楓がいるという羽生の部屋に向かった。徳川篤朗が明日対戦する予定の才賀孫子と狩野香也は不在だった。孫子はどこにいるのかわからないが、香也なら、この時間は庭のプレハブだろうか?
 有働のビデオカメラからDVDを抜き取って、それを渡しに羽生譲の部屋に向かう。
 羽生譲の部屋はあちこちから持ち込んだノートパソコンがケーブルで繋がれており、雑然としていた。徳川も、自分で持ち込んだノートパソコンにケーブルをさして、もの凄い勢いでタイピングしている。荒野は、持ってきたDVDを楓に渡し、楓は受け取ったDVDのデータをすぐに羽生のパソコンにコピーした。
 そのうち、羽生譲が様子を見に来たり、玉木珠美が顔を出してすぐに台所に引っ込み、また羽生の部屋に戻ってきて本格的に楓に指示を出し始めたり、堺雅史が合流して玉木に煽られるようにして荒野たちが収録してきた動画を編集しはじめたり……などと賑やかにやっているうちに、食事の支度ができた、と居間に呼ばれた。
 居間にいくと、外から狩野香也、才賀孫子、シルヴィ・姉崎の三人が入ってきたところだった。シルヴィは、荒神が不在の時、代わりに夕食を食べていくことが多い、という。荒神は、教師の仕事をないがしろにする、ということはなかったが、週の半分ほどは、狩野家に帰らない、というはなしを聞いて、荒野は「本業のほうもそれなりに多忙らしいな」と思った。

 玉木の家が商店街の「うお玉」だとかで、玉木が店から強引に食材を強奪してきたおかげで、その日の夕食は海産物が主体となった。
 玉木がパエリア、飯島舞花が牡蛎フライ、茅がしじみの味噌汁、柏あんながほいこうろうと生春巻き……と、国籍的には多様になったが、どれもうまく、大人数で取り分けて食べるのに適したメニューが多かった。
 途中で羽生譲が数日前に撮影したマンドゴドラのCMのテスト映像を居間のテレビで再生しはじめたため、その場は大いに盛り上がった。
 その映像を観た玉木は、食事の途中でマンドゴドラのマスターに「今、羽生さんのところで例のバレンタイン向けの動画みたんだけど……」と前置きし、このテスト映像を明日の中継の合間に流して良いか打診した。同じ商店街繋がりのご近所さん同士、ということで、マンドゴドラのマスターと玉木は面識があったし、マスターが宣伝の機会を逃すわけもなく、玉木の提案はマスターに即座に快諾された。
 マンドゴドラ関係の事情をよく知らない……というよりは、万事自分の研究以外の世事に疎い徳川篤朗は周囲の人々を質問責めにし、有働勇作は、荒野のことを憐憫に満ちたまなざしで見つめた。
 ほかの狩野家の面々はいつもの通りで、飯島舞花とシルヴィ・姉崎は遠慮も容赦もなく腹を抱えて笑いながら「かわいー! 似合うー!」を連発し、柏あんなは一所懸命笑いを噛み殺そうとして見事に失敗し、堺雅史に「わ、笑っちゃ悪いよ……」と諭されたり、堺雅史は柏あんなを諭しながら、周囲を見渡したりしながらおろおろしていた。
 夕食後、二時間ほど作業をすると動画の編集もなんとか終わり、明日のストリーミングの件も、徳川篤朗が「なんならうちのサーバを使えばいいのだ。性能もバックボーンも折り紙付きなのだ」と言いだしたことで、楓にいわせると「かなり楽になった」そうで、「残りの細かい作業は明日の朝から準備をしても十分に間に合う」ということで、その日はお開きとなった。 ちょうど仕事を終えた篤朗の姉が篤朗の電話に連絡をしてきて、はしゃぎすぎて寝ていた浅黄と篤朗を車で拾って帰り、柏あんなと堺雅史、玉木珠美は自転車に乗って、荒野と茅、飯島舞花は隣のマンションに、と、それぞれの自宅に戻った。

[つづき]
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