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第五章 「友と敵」(35)
「……こうやって集まって貰ってからいうのもなんなんだけど……おれ、恋愛経験とかあまりないから、そっち方面に関しては、あまり的確なアドバイスはできないかも知れない……」
と、荒野は断りを入れた。
なにせ荒野は、この土地に来るまで数年間、ほとんど荒事だけをして生活していたのだ。任務によっては、数ヶ月以上、人里から離れて暮らすようなことも珍しくはなかった。愛想がいいのであまり目立たないのだが、基本的に、荒野は女性の扱いをこれまで学習する機会があまりなかった。
「……でもさ、君らの一人一人の事を、親身になって考えることは、できるよ。
だから、話してくれないか? 君ら一人一人が、今、一体なにを考えているのか……」
荒野は長々とした台詞を言い終え、一息ついて茅がいれてくれた紅茶を啜った。せっかくの紅茶が、冷めかけていた。
しばらくは、誰も話そうとしなかった。
『……だろうな……』
この結果は荒野も半ば予想していたことだったので、意外には思わなかった。
男女の事は、基本的に「秘め事」なのである。
堂々と仲間を交えてディスカッションとかするべき性質の問題ではない……とは思うのだが、荒野には、三人の本音を聞き出すのには、こんな方法しか思いつかなかった。
「……荒野さんは、ああいったけど……」
座が静まりかえってしまったので、香也がおずおずといった感じで語りだす。
「……ぼく……みんなが来てくれて……よかったと、思っている。
みんながここに来なかったら……たしかに静かで何の問題もなかっただろうけど……代わりに、ぼくのことを……ぼくの絵を、認めて、見に来てくれる人も、ほとんど、いなかった筈で……」
香也の言葉はたどたどしく、切れ切れで、語る内容を考え考え、語っている……というのが、よくわかった。
「……楓ちゃんも、才賀さんも、決して嫌いじゃない……決して嫌いじゃないんだけど……昨日みたいなのは、ちょっと……。
いや、実は……凄く……怖い……。
……あ……。
怖い、っていっても……楓ちゃんや才賀さんが、ということではなくって……ぼく、基本的に誰でも、近づいてこられるのが、もともと怖くて……。
これ、昔っからで……昔は、もっと酷くて……小学校の頃は、知らない人と、面と向かって話すこと、まるで出来なかった……。
……ぼく、昔っから、人が……人間が怖くて……」
ぽつりぽつりと話し始めた香也の顔を見ながら、他の人間は今までの香也の様子とか、香也の知人が香也について語った事などを思い返している。
例えば……羽生譲は、幼い頃の香也について、どういっていた?
確か、「まともに話せるようになるまで、長い時間がかかった」とか、いっていなかったか?
香也の話した内容は、それら、香也の知人の証言と、充分に符合するように思えた。
また、香也が、未だに人と接するのが苦手で、つい最近まで、ほとんど「人間を」描くことがなかった……ということも、この場にいた全員が、知っていることだった。
『……やっかいだな……』
香也の話しを吟味しながら、荒野は、思った。
『これは……香也君の心因性の……ある種の人間恐怖症をもっと緩和しなければ……楓にしろ才賀にしろ……ほかの誰が相手にしろ……香也君、まともな恋愛なんて……出来やしないぞ……』
言われてみれば……香也のそうした傾向は、今までの付き合いを思い返してみても……充分に、思い当たる節があるのだ。
昔はもっと酷かった……ということは、……真理なり羽生譲なりが長い時間をかけて、香也の人間恐怖症を徐々に軽減してきたのだろう……。
『こうなると、むしろ……』
後の二人の反応が楽しみになってきた、荒野だった。
「それ……面白い、お話しですわね……」
二人のうち、最初に話しはじめたのは、やはり孫子だった。
「つまり、香也の恐怖症を克服しなければ、どのみちこれ以上の進展はない、ということですのね……」
不敵な笑いを浮かべながら、孫子はそんなことを言いはじめる。
孫子は「負けず嫌い」である。その孫子が、「香也の恐怖症」を、克服すべき「仮想敵」としてロックオンした……と、いうことなのだろう……。
「この手のことに関して……素人考えの強引な治療は、かえって悪化させる可能性のが高いぞ……」
慌てて、荒野は口を挟む。
目標に突き進むときの孫子の強引さを知っている身としては、手遅れになる前に、釘を刺しておく。
孫子は、拗ねたような顔をして、「分かってますわ」と視線をそらせた。
「……あのぉ……」
楓が片手を挙げて、おずおずと香也に質問した。
「その……人が怖いのって……ずうっと昔から、なんですか?」
「……んー……」
楓の質問に、香也はなにやら考え込んでいたが、しばらくして、
「……ぼく、小さい頃のこと、憶えてないんだけど……その、憶えている中で一番昔の時から……今の家に引き取られてきた時から、すでにそうだった……」
香也の本当の両親……香也が孤児になる前に、なにかしらトラウマになるような出来事があったのかも知れない……と、荒野は思った。
もちろん、香也本人がいる目の前で、そんなことを口にするつもりはなかったが……。
「……寂しくは、なかったのですか?」
楓は、香也の目を真っ直ぐ見つめて、重ねて尋ねた。
「……んー……」
香也は、やはりしばらく考え込む。
「ぼく……寂しい、って感情、実はよく分からなくて……出来ればずっと一人きりになりたい、とか、思っているくらいで……。
でも、真理さんとか譲さんとか、ここにいるみんなは、決して嫌いじゃなくて……。
ごめん。
その、寂しい、っていうの……どうも、よく解らないや……」
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