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髪長姫は最後に笑う。第五章(36)

第五章 「友と敵」(36)

「そんなの……」
 楓が、何故かせっぱ詰まったような表情をして、香也のほうに身を乗り出す。
「おかしいです! おかしいですよ!」
「……んー……おかしい、と、言われても……」
 感情的な様子を見せた楓とは対照的に、香也は平然とした様子だった。
「……実際、落ち着くんだ……一人でいると……絵を描いていると……。
 みんなのこと、嫌いではないけど……」
 やはり、一言一言、吟味して考えているような口調だ。
「……今は、その、嫌いではない、というとことで満足すべきではありませんこと?」
 孫子も、なにかを考え込むような表情になって、口を挟む。
「……わたくしがここに来てから、でも……香也を取り巻く環境は、大きく動いていると思いますわ……。
 登校の時も、去年までは樋口と二人きりでしたし……」
「あと、始業式の後の騒ぎ、な……」
 荒野も、あの時のことをみなに思い出させた。
「あれ、柏の妹さんの先走りでああいうことになっちゃったわけだけど……あの騒ぎなんか、ほとんど香也君が主役みたいな感じだったわけだけど……香也君、それなりに、適応していたんだろう?」
 以前、香也が学校で、クラスで、どんな感じだったのか、荒野たち転校生組は、知らない。だが、想像するのは容易だった。たいていのことには「我、感せず」を決め込んで、人付き合いをほとんどしてこなかったのだろう……。香也のクラスの柏あんなも、そんなような事をぽろりといっていた気がする。
 でも、今では、孫子がいうように、状況が徐々に変わってきている。朝、一緒に登校していても、香也に挨拶していく生徒は何人もいる。
 荒野はそのことも指摘し、
「……教室では、どんな感じなんだ?」
 と、香也と同じクラスである茅と楓に向かって水を向けてみる。
「……ええとぉ……普通、かなぁ……」
 と楓は首を捻り、
「なにが普通なのか、判断が出来ないの……」
 それまで学校に通った経験のない茅は、素っ気なくそう返した。
「……人見知りをするとか、クラスの誰かと強く反発しているとか、そういうことは……」
 荒野が念を押すと、
「……そういうのは、ないです」
 楓は、ゆっくり首を振りながら、保証した。

 過去はどうだっかか知れないが、今の香也は、普通に日常生活を行える程度には、他人を怖がらなくなっている……。
 しかし、楓や孫子がしてきたとうに、いきなり距離を……心理的物理的、両面における距離を……短時間に詰めようと近寄られると、それなりに恐慌をきたす……と、いうことらしい……。
 荒野は、そのように理解する。
『……楓や才賀が無理に迫らなければ……特に問題ないんじゃないのか?』
 と思った荒野は、今度は二人のほうに矛先を変えることにした。
 香也の対人恐怖症傾向は……別に無理に直そうとしなくても……時間が解決してくれるような気がした。

「……楓。
 ひとつ、確認しておきたいんだが……」
 荒野は『……おれ、すっげぇ野暮なことやっているなぁ……』と自嘲しながら、楓に尋ねる。孫子には、監督責任がある、とういう言い方をしたが……人を使う、というのは、時として、そうした他人のプライバシーに踏み込まなければ解決できない問題も抱え込むことだ……と、荒野は実感する。
「……なんで、香也君なんだ? ほかの男性ではなくて?」
 荒野の趣味ではないが、今後も楓と組んで動く以上、曖昧にしておくつもりもなかった。この土地に来るまで、荒野は誰かの下で命令に従ってさえいれば、それでよかった。今では、立場が、違う。
「……なんで……というのは、わかりません」
 根本の部分に真面目な所のある楓は、荒野の問いを受け止め、臆することなく答える。このようなことを聞かれる、と予測していたのか、考え込む様子さえ、みせなかった。
「でも、今は……香也様以外の男性は、考えられません」
 真顔で、照れもせずにそう言ってのけた。
 そんな楓の顔を、横から孫子が細目で見つめているのに、荒野は気がついた。
『……やばいなぁ……』
 荒野は思った。
『どうやら、二人とも……本気、のようだ……』
 そういうことになると、荒野が出来ることは、極めて限られている。
「……よーく、解った……」
 荒野とて、他人の色恋沙汰に好んで介入したいわけではない。
「楓。それに、才賀。
 二つだけ、約束してくれ。その二つさえ約束してくれれば、後は三人の問題だ。おれは、余計な口を挟まない。挟みたくない……」

 荒野が提示した「約束」というのは、二つ。
 ひとつ目。香也を脅かさない。
 香也がそんな感じだから、必要以上に急いで香也に迫らない。
「お前らだって、香也君を怯えさせるのは、本意ではないんだろう?」
 荒野がそういうと、楓と孫子は肩を落とし、みていて気の毒になるくらい、悄然とした様子を見せた。
『……二人とも……時たま、なにかの弾みで極端なことしでかすけど……基本的に、悪気はないんだよなぁ……』
 と、香也は思った。

 ふたつ目は、孫子には関係のないことだった。
 現在の任務に支障をきたさないようにすること。
 つまり、楓への訓戒だ。

「このふたつさえ守ってくれるのなら、おれはとやかく言わないよ……。
 ただし、この約束が破られた時は……加納の名にかけて、相応の対応をさせてもらう。
 色恋沙汰で任務を放り出して貰っては困るし、香也君はおれの友人でもある。その香也君を脅かすような存在は、おれにしてみても目障りだ……だから、いざという時は……」
 ……実力に訴えることも、辞さないよ……。
 と、荒野が続けると、それだけで楓と孫子の背に、悪寒が走る……。

 一対一、という条件であれば、白兵戦で、この中で一番強いのは、荒野になる。いや、楓と孫子が二人がかりでかかっても、荒野一人に太刀打ちできるかどうか……。
 加納本家の直系、かつ、二宮本家とのハーフ……という血筋もあったが……それ以上に荒野は、楓や孫子とは違い、豊富な実戦経験も持っていた。

 その時の荒野の眼光は、荒野が……必要とあれば、いくらでも非情になれる存在だ……ということを、雄弁に語っていた。

[つづき]
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