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彼女はくノ一! 第四話 (44)

第四話 夢と希望の、新学期(44)

 なにか言いたそうな顔をしている樋口明日樹をとりあえず無視して、加納香也は筆を走らせる。
『……そうだよな……なにがあろうとも、ぼくは、絵を描き続ければ……』
 落ち着く。無心になれる。
 香也が真剣に描きはじめると、樋口明日樹もその間はなにもいえなくなる。仕方がなく明日樹も、軽くため息をつくと自分のキャンバスを用意しはじめた。
 小一時間ほどして、香也の携帯が振動して、メールが着信したことを告げた。買った当初こそ極端なメール攻勢に曝された香也だったが、メールが着信しても香也は必ず返信するわけではない、という風に方針を変えると、流石に数日でピタリと収まった。
 だから、香也の携帯にメールが着信すること自体、最近では珍しく、不審に思いながら香也が着信したメールを画面に表示させてみると、
荒野から聞いたの。
そのことで、今夜、夕食後、
楓や才賀も呼んで、
みんなでお茶会をしたいと思います。

絵描きも、早く解決したいでしょ?
 かや(・・)v

 という、加納茅からのメールだった。
 香也は数十秒考えた末、
「……彼らならなんとかしてくれるかも……」
 という期待をかけて、出席する旨、返信のメールを送信した。香也にしても、帰宅後、安心して一人でプレハブに籠もれないような状態がいつまでも続くと、困るのだった。
 明日樹がなにやら問いたげな顔をしていたので、
「加納兄弟から、お茶に呼ばれた」
 とだけ、教えておいた。明日樹に余計な刺激を与えたくなかったので、楓や孫子も一緒に誘われていることは伏せておいた。

 最終下校時刻になり、明日樹と連れだって帰る。どうせ、帰る方向は一緒だ。
「……最近、人、描くようになったね……」
 帰り道で明日樹は、そんな風に話しかけてきた。
「……んー……」
 香也は、例によってはっきりしない口調でごもごもと答える。
「……どうせ、ゲームの絵、描く必要があるから……」
 堺雅史に頼まれた自主制作ゲームの作業は、進行しているといえば進行している。
 ゲーム内に登場するキャラクターの一人一人について、複数の関係者からの意見をフォードバックしながら、何度もリテイクを出されながら、ちょっとづつ修正を加えていって決定稿まで持っていく……という、かなり面倒な作業を繰り返しているわけだが、最近では、そんな「面倒くささ」……自分の絵を提示すると、即座に複数の人間の反応が返ってくる……という状況が、楽しくなってきている香也だった。
 ゲームの完成に必要な作業量に比較すれば、目下の所、必要なデザイン作業の十分の一も終わっていないわけで、先はまだまだ長いのだが……香也は、羽生譲を除けば、他人との共同作業で絵を描く、ということをやったことがないので、今のところ、かなり新鮮な気分を味わっている。
「……そっかぁ……」
 香也の答えを聞いた明日樹は、要領の得ない表情をつくった。マンガとかゲームとかにあまり興味のない明日樹は、香也がゲーム用に描いたスケッチなどは遂一チェックしていたが、それらがゲーム内でどのように使用されるものなのか、具体的にイメージすることが出来ない。
 昨年末からこっち、狩野家に住人が増え始めてから、明日樹は、香也がどんどん自分の知らない領域へ向かっていて、自分だけが取り残されているような、寂しさを感じ始めている。
 そんなことを言葉少なく語るうちに、二人はすぐに狩野家の前まで到着する。香也は鞄だけを置いて明日樹を送ろうと申し出たが、明日樹は「もう、すぐそこだから」と断って、玄関前で別れた。
 家に入ると、玄関に見慣れない靴があって、どうやら、昨夜に続いて玉木珠美が羽生譲の部屋を訪れているらしかった。制服を着替えもせずに挨拶をしに羽生の部屋に向かうと、二人は軽く顔を上げて香也に目礼を返した。
 羽生が、
「おー。いいところにきた、こーちゃん……ちょこっとカット描いてよ……」
 といってきたので、
「……んー……着替えてから……」
 と返事をして、香也はいったん自室に向かった。どうやら、夕食までの時間を一人で過ごさずに済むようだった。
 
 玉木が持ち込んだ材料を使った夕食の後、玉木と羽生はすぐに羽生の部屋に戻った。
 楓と孫子と香也の三人は、荒野たちのマンションに向かう。楓や孫子も、真理や羽生、玉木などの人目のある場所では流石に無茶なことをしようとしなかった。楓も孫子も、普段は、基本的にまともな少女だった。ただ、お互いに対する競争意識が強いのと、香也という存在に拘りすぎることを除けば。
 荒野と茅の部屋に着くと、茅がケーキとお茶を振る舞ってくれ、荒野が孫子の問いに答える形で、長々と「なぜ、今夜みんなを呼んだのか」ということを詳細に説明してくれた。
 その後、香也が自分の「対人恐怖症的な傾向」についてぼそぼそと話すと、みんなが香也の顔を注目しはじめた。揃って、驚きと納得が入り交じったような複雑な表情をしている。
 一通り香也の説明が終わり、なんとか「二人のことは嫌いではない。でも、いざ近寄ると、怖い」ということを説明し終えると、孫子はやけに好戦的な顔をして、「香也の恐怖症を克服してみせる」といった意味のことを宣言しだし、荒野が「素人考えで動くと、かえってこじらせるぞ」といった意味のことをいって孫子を窘めた。その後、楓が香也に「それで、寂しくはないんですか?」と質問してきたので、香也は少し考えてから「寂しくはない。むしろ、一人でいる方が、気楽なくらいだ」といったような返答をした。

 香也がそう答えると、楓はひどく落胆したような、悲しそうな顔になった。
「そんなの……おかしいです……」
 と、楓は呟いた。

[つづき]
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