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彼女はくノ一! 第四話 (45)

第四話 夢と希望の、新学期(45)

「……そんなの、おかしいです! おかしいですよ!」
 楓が、テーブルの上に身を乗り出して、香也のほうに顔を近づけた。
 時ならぬ楓の取り乱しようを目の当たりにして、荒野と孫子が申し合わせたように、同時に眉をひそめた。
「……んー……」
 楓に詰め寄られている側の香也が、いつもの冷静な様子で平然と受け止めたことで、荒野と孫子は楓をその場で取り押さえることを、とりあえず保留した。
「……おかしい、と、いわれても……実際、落ち着くんだ……」
 この時、香也の口元が笑みの形に歪められる。
「……一人でいると……絵を描いていると……」
 その時の笑みは……多分、自嘲、なのだろう……。
 荒野と孫子は、そう解釈する。
 それにしても、痛々しい感じのする、笑い方だった。
「……みんなのこと、嫌いではないけど……」
 と付け加えたきり、香也は、なにか考え込む風で黙り込んでしまう。
 楓は、立ちつくして香也の顔を見ていた。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「……今は、その、嫌いではない、ということで満足すべきではありませんこと?」
 しばらく続いた沈黙を破ったのは、孫子だった。
 それがきっかけになって、荒野が、今までの香也の言動を一つ一つ例を挙げて検証し、「特に問題はない。ただし、無理矢理、急激に異性に迫られたりしなければ」と、香也の人嫌いについて判断を下した。
 昔はともかく……今の香也の人間嫌いは、いわゆる「病理」とかいう大げさなレベルではなく、せいぜい「傾向」とか「性癖」程度の軽いものだ……というのが、荒野の判断だった。事実、周囲が普通に接してしている分には、日常生活に支障が出ていない。
 要するに、問題なのは香也ではなく、楓と孫子の二人だ……と判断した荒野は、「香也を脅かさない」、「加えて、楓は、現在の任務を疎かにしない」ということだけを二人に(半ば無理矢理)約束させた。
「……こういう脅すようなやり方は好きじゃないんだかなぁ……」
 とかぼやきながらも、荒野は、「この約束が守られない時には、実力行使も辞さない」という意志をちらつかせた。この場合の「実力行使」というのは、ようするに暴力、ないしは体罰、ということで……確かに、荒野が本気になって制裁を加えるつもりななら、楓にしろ孫子にしろ、その意志を阻止することは不可能だろう。
 荒野と二人の間には、その程度の実力差はある……という共通認識が、あった。
 実際、荒野が「自分が香也の身の安全を守るための抑止力にある」という旨の意志を顕わにした時、その眼光に射すくめられた楓と孫子は、青い顔をしてガクガクと何度も頷いた。
 そのくらいの迫力が、あった。
 楓と孫子が頷いたのを確認すると、荒野はほっとしたような顔をして椅子の背もたれに体重を預け、茅に冷め切った紅茶をいれなおしてくれるよう、お願いした。

 もう一杯だけ紅茶をご馳走になって、「あまり遅くならないうちに……」と三人は香也たちのマンションを辞した。いくらすぐ隣り、とはいっても、普通なら香也たちの年齢の少年少女が気軽に出歩いていい時間ではなくなっていた。
 狩野家に帰ると、すでに玉木は帰宅した後だった。眼の下に隈を作った羽生譲は栄養ドリンクの小瓶をストローですすりながら三人を出迎え、肩を回してコキコキ肩関節を鳴らしながら、
「……あー。お風呂、空いてるから……入っちゃえば……」
 といって、再び自室のほうに向かった。
 バレンタインまで間がない、ということで、羽生はこの前撮影した映像の編集作業を、突貫で行っているところだった。
 羽生にそう言われ、三人は顔を見合わせた。
 当然のように香也が二人に「お先にどうぞ」とゆずると、「昨日のこともあるから」と、二人は固辞した。
 結局、香也が先に入ることになった。昨夜は半端な入浴しかできなかったから、それはそれで有り難かった。

 二人に誘導されるまま、風呂場に行き、服を脱いでゆっくりと湯につかる。まだまだ一月下旬、寒さが厳しい夜中、距離は短いとはいえ外から帰ってきたばかりで暖かいお湯につかると、寒さに収縮していた表皮が急速に暖まり、それだけでもため息が漏れる。
「……あぁ……」とか「……ふぅ……」とか息を漏らして、湯に浸かり、体が温まってくるのを愉しんでいると、突如ガラリと戸が開き、体にバスタオルだけを巻き付けた楓と孫子が入ってきた。
 香也は覿面にうろたえて、
「……あわわわわ……」
 と何十年も前のマンガみたいなうめき声を出して、彼女たちに背を向けて湯船の端に体を寄せる。なにぶん、まっぱだかなもので、それ以外に逃げ場はない。
「大丈夫です、大丈夫です。昨日と違って、なにもしません」
「……待っている間、二人で睨み合っているのも不毛だし……」
「香也様にも、もっと早く人に慣れて頂きたい、ということもあって……」
「とりあえず、一緒に入ることにしましたの」
「ちゃんと、香也様からは離れていますから、安心してください」
「この浴室、十分に広いから、なにも問題ありませんわよね」
「……あ……できれば、ですけど……お背中ぐらいは流させて欲しいかなぁ、って……」
 二人交互で香也に説明する様だけをみれば、一見息が合っているようにみえた。しかし、そんなことをいいながらも、二人は横目でお互いに眼飛ばして牽制しあっていたりする。
『……い、いくらなんにもしない、といっても……』
 香也は凍り付いたまま、動けなくなった。
 さっき、荒野に厳重な注意を受けたばかりだから、二人も、香也には、滅多なことをするとは思われない。
 ……しかし……。
『こ……怖いよ、君たち!』
 表面上の、にこやかな顔を香也に向けながら、目に見えない火花をバチバチ散らしてお互いの挙動を監視しあう二人との混浴は……。
 当然、香也をリラックスさせるものではなかった。

 表面上は、一緒に風呂に入って、交代で背中を少し流して貰っただけで……昨日のような「暴走」は一切なく、香也は早々に、逃げるようにして風呂から上がった。

 その夜、香也が去った風呂場で、なにやら人が争っているような、かなり大きな物音が響いてきたが……香也は、すぐに布団を頭までひっかぶって、なにも聞かなかったことにした。

[つづき]
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