2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第五章(37)

第五章 「友と敵」(37)

 楓と孫子の二人が、荒野が半ば押しつけた「約束」を受諾すると、後は特に話すことはなかった。荒野は茅に紅茶をいれ直してくれるように頼み(ほとんど誰も口をつけていなかった)、その後は特に雑談も盛り上がらず、早々に解散、ということになった。
 三人が出ていくと、荒野は一気に張りつめていたものがゆるみ、ソファに移ってそこで横になった。
『……結局は、力尽くで恫喝、かよぉ……』
 荒野は荒野で、理屈で楓や孫子が押さえられない、と知ったことに、落胆している。
 茅はソファでぐったりしている荒野の頭を持ち上げて、自分の膝をその下に置き、荒野の頭を撫でた。
「荒野、よくやったの……」
「……そうかぁ……もっとやりよう、なかったのかぁ……」
 荒野の声は、あくまで元気がない。
 荒野は、結局は「力」に頼らなければならなかった……という事実に、打ちのめされている。
「……感情論の世界で普通の交渉は難しいの。単純の利得の問題ではないから……」
「……んー……それでもさぁ……」
 結局、荒野が今夜二人にさせた「約束」は、結論を先延ばしにして、根本的な問題を棚上げにすることで、当座の安寧を保証させる……という、極めて皮相的な妥協の産物だった。
 そのことを、当の荒野も、それに茅も、気づいている。
「結局は、あの三人が結論を出さなければ、駄目なの……」
 茅は、やさしく荒野の髪を撫でる。
「荒野が、あの人たちのこと、決めちゃ駄目なの……」
「……んー……それでも、もっとスマートなやり方なかったかなぁ、って……」
「……別の、やり方……」
 茅はほんの数秒、考え込んだ。
「……源吉に頼んで、洗脳してもらう……。
 そうすれば、今後一切、問題は起こらない……」
「……それ、もっと悪いから……」
 荒野は答えながらも、
『香也君のあれ……いよいよ治療が必要となったら、源吉さんに頼む、という手もあったなぁ……』
 とか思っている。
 佐久間の技を持ってすれば、香也が人嫌いになった原因の記憶まで、遡って封印することができるはずだ。
 が……。
 そこまでやる、ということは香也の現在の人格まで含めて人為的に矯正する、ということでもあり、香也自身が矯正の必要を感じてはいない現在、そんなことを強要する資格もつもりも、荒野にはなかった。
「……なら、荒野がやったのが、とりあえず、最上なの。
 あとは、三人の問題なの」
「……うーん……そんなもんかなぁ……」
 茅にそう言われても、荒野はなかなか納得できなかった。もっとうまいやり方があるのではないか、と、思ってしまう。
 荒野は、最終的には自分の持つ「力」をちらつかせることでしか、楓や孫子を納得させることができなかった……ということに、依然、忸怩たる物を感じている。
「……昔、さ……ガキの頃……」
 茅に膝枕されながら、荒野は、同じ年頃の一族の子供たちと一緒に集められ、基本的な技を仕込まれた時のことを語りはじめる。
「……おれたち一族っていうのは、小さな頃から鍛えはじめなければ一流にはなれなくて、だから、ある程度血筋のしっかりした子供たちは、立てるようになると百人前後、人里離れた場所に集められて、何年か一緒に生活しながら、基本的なことを仕込まれる。
 だいたい、成長期によく運動させると、おれたちって筋力も反射速度も、すぐに一般人の大人を追い越して、その後どこまでいくのか、っていうのはかなり個人差があるわけだけど……。
 その時にね、一人の子供に一匹ずつ、兔とか鶏とか、子供でも世話できる動物を飼わせるんだ。飼う動物によって違うけど、だいたい半年から一年くらい、一人で世話させる。病気とかで飼っていた動物が死んだら、すぐに代わりが用意される。
 何分、みんな子供だから、一生懸命世話をするわけだ。子供の世話役の大人たちも、子供たちに必要な知識とか餌とかを十分に与える。
 で、しばらくすると、動物はすぐに大きくなる。
 十分に大きくなったら……」
 荒野は、目を閉じてため息をついた。
「飼い主である子供に、その動物を殺させて、食べさせる」
 目を閉じたまま、荒野は、一分以上、沈黙した。
「……それで、自分の手で殺した動物を、自分の手で血抜きして、自分の手ではらわたを引きづり出して、自分の手で料理させて、食べさせる。
 凄かったな、その時は。
 みんなわんんわん泣き喚いてな。もちろん、子供の事だから、気が弱かったり、本当に飼っていた動物を可愛がっていたりで、なかなか殺すことが出来ない。
 でも、世話役の大人たちも容赦しない。
 それが出来るまで、一切、食事を与えられないから……結局、子供たちは……おれたちは……さっきまで可愛がっていた動物の頚を刃物でかききるんだ……。
 その頃には、泣くだけ泣いているから、涙なんて枯れ果てている。
 それどころか、絶食してからかなり立つから、どうしたら早く血が降りるのだろうか、なんてことを考えている。空腹に耐えかねた子供は、生臭さにもかまわず、したたり落ちた血を直接呑もうとして、顔を真っ赤にして咳き込んだりする。
 でも、たいていの子供はちゃんと血抜きまで待って、羽や毛を抜き、適当に肉や内臓を切り分けて、串を通して、塩胡椒を振って、火を通して、食べる。
 ようやく食べられるようになる頃には、泣き喚いたりしていた時間も含めて、丸一日くらいは軽く経過している。だから、腹が減って腹が減って、火が通るか通らないか、というくらいで、もうかぶりつく。ついさっきまでペットだと思っていた動物の肉を、だ……」
 荒野はまた、しばらく沈黙した。
「……おれの時は兔だった。死ぬほど、うまかったよ。
 そうしておれたち一族は、物心つくかつかないかのうちに、暴力という物の本質を学ばされるんだ。食べるためには、なにかを殺さなくてはいけない。それは、必要な暴力で……それ以外の、必要のない時に、自分たちの能力をむやみに使ってはいけない、と、幼い頃から叩き込まれる……」
 今日のやり方……楓や孫子に、自分の実力をちらつかせて言うことを聞かせたのが……正しいやり方だったのかどうか、自信が持てない……と、荒野はつけ加えた。いくら茅が「あれが最上」と保証しても、荒野は「まだ別の方法があったのではないのか」と、思ってしまうのだった。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのよん]
Muhyoo-Japan! WA!!!(総合ランキングサイト) ブログランキングranQ アダルト列島No.1 創性記 あだるとらんど 大人向けサーチ Secret Search!  裏情報館 Hな小説リンク集

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ