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髪長姫は最後に笑う。第五章(38)

第五章 「友と敵」(38)

 翌日の昼休み、ちょっとした騒ぎが起こった。
 最初の兆候は、孫子が自分の携帯を取り出して、勢いよく廊下に飛び出していったことだ。
 荒野や樋口明日樹、その他居合わせた生徒たちが目を丸くして見守る中、孫子は制服のスカートを飜して足音も高く廊下を駆けて去っていった。
「……おい……廊下を走るのは……」
「……スカート、めくれてる……」
 たまたま近くにいた荒野と明日樹は、呆然と呟いた後、顔を見合わせた。

 五分ほどたってから、
「大漁たいりょー」
 大声で歌うようにいいながらスキップで教室に入ってきた玉木は、その「大漁」の中身、デジカメの液晶画面を荒野たちに見せびらかしてくれた。

 仁王立ちになって有働勇作を片手で持ち上げた孫子が、カメラのほうを睨んでいた。

「……いやあ、あの三人、露骨にあやしいからカマかけてみたら、案の定っていうか案の定以上っていうか、もう成功成功大成功ってなもんで、こんなに予想通りでいいのかなうははってなぐらいで……」
 自慢気に「狩野君ちであの三人挙動不審で面白そうだったからついついいじりたくなったんだよねー」とか説明しはじめる玉木をみながら、荒野は、
『……そういや、昨日一昨日の夜……玉木、あの家にいたんだよな……』
 とか思っている。
 荒野は、そのことをすっかり忘れていた。
 あの家にいながら、昨日一昨日あたりの三人の様子を目の当たりにしたら……そりゃあ、玉木でなくとも、好奇心を刺激されるだろう……。
 玉木であった……というのは、あの三人にとっても最悪に近い巡り合わせであったろうが……。
 横目で見ると、樋口明日樹は俯いて体中を震わせていたが、上機嫌の玉木珠美は明日樹の様子に気づいた様子はない。
『……あちゃー……』
 荒野はその場で頭を抱えたくなった。
『……こっちにも、火種が……』
 玉木は一通り説明というか、自慢をし終えると、「さ。壁新聞の準備だぁー……」とかいいながら、やはりスキップで去っていた。
 玉木が去った後、荒野は物見高いクラスメイトたちに囲まれ、「お前、あいつらの隣りのマンションだったろ?」とか、「なんか気づかなかったか?」とか、質問攻めにあった。
 その包囲網は、昼休みが終わり、五時限目の授業のため教師が教室に入ってくるまで続いた。

 放課後、荒野は他の生徒が滅多に来ない階段の踊り場まで移動し、楓にメールで「そちらクラスの様子」を尋ねてみた。屋上へ続く出入り口は閉鎖されており、踊り場の最上部にはほとんど誰も来ない。メールを送信すると、折り返し楓から電話が来て、詳しい様子を語ってくれた。
『……こっちのクラスの人たちは、わたしたちが一緒に住んでいること、知っていますから……案外、騒いではないです……』
 楓はいった。
『……騒ぐよりも……男子なんか、香也様のこと、「やるなぁ」とかいって、なんか見直しているようで……』
 荒野は、頭が痛くなったような気がした。
「……で、残りの半数。女子の反応は……」
『……ええとぉ……』
 楓は、なぜかそこで言いよどんだ。
『……そのぉ……「がんばれ」って、応援されちゃいました……』
「そうかそうか……。
 よかったな、味方がいっぱいいて……」
 荒野は、段々と白けてきた。
 ……なんでおれが、こんなことを心配しなければいけないのだ……。
「で、香也君は? やっぱり、部活にいったのか?」
『今は掃除当番です。でも、終わったら美術室に行くと思います』
「……念の為、お前もついていけ。今回のことは、お前にも責任あるから……」
 荒野はそう念を押して、通話を切った。
 楓や孫子とは違って、当事者でない荒野には、責任がない。
 心配はするが、それ以上の干渉をするつもりはなかった。
『……でも、才賀のヤツも……放っておいてもそっちに行きそうだなぁ……』
 香也はあまり有名な生徒ではない……いや、なかった……が、香也を知る人々は、「あの美術部の」という風に認識している。物見高い生徒たちは顔くらい覗きに行きそうなものだし、普段は幽霊部員を決め込んでいる美術部員たちも、様子見にいくかもしれない。
 今日……いや、数日は、放課後の美術室は混み合うのではないだろうか?
『……まあ……他人事だけどな……』
 そう思って荒野は、自分のほうの部活へ赴く。今日は、部活がある日だった。

「やぁやぁやぁ!
 カッコいいほうのこーや君! おひさっ! 昼休み以来だねー!」
 調理実習室で同じ部員である女生徒たちに囲まれながらエプロン姿で包丁を使っていると、騒々しく玉木珠美が入ってきた。
「調理中。騒ぐな。唾飛ばすな。不衛生だ」
 荒野は不機嫌に答えた。
「玉木さん、なんですか? 『カッコいいほうのこーや君』って……」
「いやいやいや。この学校にはもう一人カッコよくないほうのこーや君がいてねぇ……」
「あー。あれ! 一年と二年で二股かけているって!」
「うそっ! 一年の加納君って、あれ……目の細いぽやぽやーっとした人じゃないの?」
「あ。わたし、その子同じ美術部の先輩と付き合っているとか聞いたことある……」
「それじゃあ、二股じゃなくて三股じゃなあいっ! そんな人、この学校にいるの?」
 途端に、玉木の言葉に反応して騒ぎはじめる女生徒たち。
『ったく……女ってのは……』
 荒野自身はあまり偏見がないほうだと自認しているが、この時は少女たちの声の高さが気に障った。
「その、カッコいいのとかそうでないのとか、羽生さん譲りの呼び方でしょう?」
 荒野がそれとなく話題を反らそうとすると、他の女生徒たちに「いや、つい今し方もその件を報道した壁新聞、先生に引っぺがされたところで……」とか説明していた玉木が振り返って、答えた。
「そそそ。師匠の直伝でやんす」
『……羽生さん……玉木の師匠なのか……』
 荒野は内心で冷や汗をかいた。
 身の回りに、不穏な組み合わせがどんどん増えていくような気がする……。

[つづき]
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