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彼女はくノ一! 第四話 (47)

第四話 夢と希望の、新学期(47)

 昼休みにああいった騒ぎがあっても、クラスのみんなは香也に比較的好意的に接した。始業式の日に狩野家に押し掛けていった生徒たちが主体となって、楓や孫子、香也ら三人の人柄についてという保証してくれたことと、クラス内での香也と数少ない友人である柏あんなが、
「みてのとおり、狩野君は人畜無害な人だよ」
 などと聞きようによってはかなり失礼な太鼓判を押したこともあって、仮にいわゆる三角関係であったにせよ、それはあまりドロドロした関係ではないのだろうなぁ……というあたりで、大方の見解が一致した。
 柏あんなの尻馬に乗ったわけではないが、香也に、二股とか三股とかかける度胸とか甲斐性はない……と、普段の香也を知る生徒たちは口を揃えて証言した。
『……大方、一方的に言い寄られて、でもどっちとつき合うとも決めかねて、こじれたことになっているんじゃないの?』
 というあたりが香也の同級生たちの平均的な味方であり、それは好意的、というよりはより一層生暖かい視線だったのかもしれないが、少なくとも香也たちを敵視したり反感をもったり、といった性質のものではなかった。
 柊誠二という「ナンパが趣味」と豪語する生徒だけが、「なんであんなのばかりがもてる!……」とかなんとか、一人で喚いていたが、これなどは極めて少数派の意見であり、あっさりと他のクラスメイトには無視されて終わった。
 女生徒たちは大方楓の味方で、というよりも無責任にけしかけているような空気があって、楓は照れながらもなんかそんな気分になっているようだし、それはそれで放置すれば将来香也にとってもいろいろと面倒なことが起きそうな気はするのだが、だからといって積極的にこの状況を打開しようとするほど、香也は勤勉でも器用でもないのであった。

 香也は当番の教室掃除を終え、いつものように美術室に向かう。
 いつもはせいぜい樋口明日樹くらいしかいない美術室は大勢の生徒たちが詰めかけていて、香也が室内に入ると口々に「おめでとう」「おめでとおう」といいながら、何故か拍手で出迎えてくれた。
 香也は、何年か前、同人誌の資料として羽生譲に見せられたあるテレビアニメシリーズの最終回を思い出した。それまでの伏線を回収することを放りだし、それまで登場してきたキャラクターが総出でなんの前触れも伏線もなく主人公を祝福して終わる、という前衛的なラストで、もちろん香也は、なんでそんな終わり方をするのかわけがわからなかった。
 今の香也の状況も、香也にとってはそのテレビアニメの最終回と同じくらい不条理な状況で、香也はその場に立ちすくんで「……んー……」と唸っているばかりだった。

「……狩野君、ちょっと……」
 奥のほうでこめかみのあたりを指で揉んでいた樋口明日樹が手招きしたので、香也は、これを幸いと人混みをかき分けて明日樹と一緒に美術準備室に入っていく。先に美術室に着ていた松島楓も、人混みをかき分けて香也の通り道を作るのを手伝ってくれた。
「……なんなの、この人たち……」
 美術準備室の扉を閉め、二人きりになると、香也は明日樹に尋ねた。
「……一応、ほとんど美術部員なんだけど……今まで部活に出てこなかっただけで……」
 ……幽霊部員が多いとはいっていたけど、こんなにいたのか……と、香也は思った。
「……少し、物見高い見学者もいるようだけど、それも一応来年の入部希望者だから、粗略には扱えないわけよ……」
 明日樹はため息をついた。
「入部届けは、毎年四月に出し直す。大抵は前の部活を継続するけど、たまに別のクラブに移籍する子もいる。そのことは、知っているわね?
 つまりは、そういうこと……」
 彼ら、幽霊部員と来年の入部希望者たちに、香也の事を聞かれたので、明日樹は美術室に放置されていた、今まで香也が描いていた絵を見せながら、香也のことを「来年度の部長」として紹介したところ、大いに受けた、という……。
「……んー……」
 香也は唸った。
 来年度の部長、は、仕方がないことだと思っていたが……これだけの人数が集まると知っていれば、雑用はできればそっちに任せて自分は絵に専念したかった……。
「……まあ、こんなんでも良い機会、ではあるし……あ、後……才賀さんと松島さんの噂、なんだけど……」
 明日樹がそういった時、じわり、と、香也のこめかみに汗が浮かんだ。
「……んー……あれは、無責任な噂……というか、玉木さんがわざと煽っていたずらに事を大きくしているような所があって……」
「……あの子、そういうところあるから……でも、本当に、その……何にもなかったの……」
 香也はしばらく思案した。
 風呂場で二人がかりで責められたことを、「何にもなかった」ことに分類することはアリなのだろうか? と。確かに、かろうじて一線は超えなかったわけだが……。
「……んー……二人とも、サービス過剰な所はあるけど……」
 結局、そう言葉を濁した。
「……そう……」
 頷いた明日樹も、どこか心ここにあらず、といった態で、香也の返答をまともに聞いている風でもなかった。
「狩野君……あの人たちが来てからなにかとバタバタしているけど……自分のペースは崩しちゃ、駄目……」
 明日樹は、自分に言い聞かせるような口調でそういった。
「……狩野君は狩野君で、わたしはわたしなんだから……」

 集まった人たちに、香也は基本的な画材の使用法などを実演しながら、簡単に説明し、
「……んー……後は、自分でやってみて……」
 手持ちのスケッチブックを一冊ばらし、紙を一枚づつ生徒たちに配って、二人一組にして向かい合わせ、お互いの顔を描かせてみた。
 集まった生徒たちは二十二人で、ちょうど偶数だった。
「……うまく描こうとか、完成させようしなくていいから……相手の顔の印象に残った部分を中心に、描いてみて……制限時間、十五分……」
 香也がそういうと、「えー!」という悲鳴に近い声があがったが、香也は構わなかった。
「……一応、これ、体験入部だから。
 やる気がなかったら、出ていって……」
 そういわれてしまえば、実際にやるよりほかない。
 最初のこうこそぶつくさ言っていたが、次第に美術室内は次第に静まり返って、紙の上を鉛筆が擦る小さな音だけがやけに大きく響くようになった。

「はい。終わり!」
 自分の携帯のタイマーが鳴り響くと、香也は皆の手を止めさせ、まず、描いていた似顔絵を交換して、絵がモデルの手元にくるようにした。
「それで、自分の絵が手元にありますね。それについての感想を、自分の似顔絵を描いてくれた人にいってあげてください……」
 似顔絵が交換された途端、美術室内は騒然となった。
 最初のうちは似てる似てない、「わたしの顔、こんなんじゃない!」とかいう声が多かったが、しばらくして落ち着いた時を見計らって、香也はみんなが描いた絵を回収、一枚一枚取り出して見せながら、その場にいた全員に意見をいわせるようにした。
 何枚かの絵が香也によって提示され、それについて意見が出そろうと、次第に意見をいう人たちの間に、「絵とはなになのか?」という疑問が生まれるようになる。
「正確にモデルの容姿を写そうとした絵」は、巧いけど、面白くはない。
「特徴だけを取り出したような絵」は、正確ではないかもしれないけど、モデルに似ていると思う。
「モデルとは似てもにつかないけど、どことなく味のある絵」もある……。

 いろいろな意見をだしてディスカッションを行ううちに、集まった生徒たちの間に「絵を描く」という事に対する興味が沸いてきたようだった。

[つづき]
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