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髪長姫は最後に笑う。第五章(39)

第五章 「友と敵」(39)

 玉木に邪魔されながらもなんとか部活を終え、荒野は帰路についた。
 なんかメンタルな部分が、根底から疲れて果てているような気分だった。
『……それにしても、才賀のヤツ……』
 帰り道で、荒野は今日の出来事を思い返す。
 特に、玉木のデジカメの液晶に映った、「有働を片手で高々と持ち上げる孫子の図」を。
『……あいつ、自分の能力隠そうとかいう発想、ないのかなぁ……』
 普通、孫子くらいの体格と年齢の女の子は……有働のような図体の大きなのを、軽々と片手で、自分の慎重よりも高く持ち上げたりはしないと思う……。
『……まあ、他人事といえば他人事、なんだろうけど……』
 荒野はぼんやりとそんなことを思う。
 今頃、学校内での孫子の評判に「怪力の持ち主」という項目が書き加えられている事だろう……。
『……このままでは、前にじじいがいった通りになっちまうな……』
 涼治は、楓と孫子について「いざとなれば、彼女らにはデコイになって貰う」といっていた。あの二人の性格を考慮にいれての見解、なのだろうけど……その涼治の予測通りに物事が動いているのが、荒野は面白くなかった。
 今のうちは面白がられているだけで済んでいるが……何かの拍子に、みなに「異物」として認識され、排除される……自分の経験からいっても、そうなる可能性は常にある……と、荒野はみている。
 楓にしろ孫子にしろ、そんな目にはあって欲しくはなかった……。
『……なんだってこんな、次から次へと問題が……』
 荒野の足は、自然に、商店街の外れにあるマンドゴドラへと向かっていた。
 こういうムシャクシャした気分の時は、甘いものを大量に摂取するのに限る、と、いうのが荒野の持論だ。

 昨日と同じくらい大量のケーキを抱えて帰ると、先に帰った茅が夕食の支度をしていた。今夜は茅の好物でもあるカレーで、隣りの真理さんからおすそわけをされたというイカや貝類がふんだんに入ったシーフード・カレーだった。
 つまり、玉木は、今夜もお隣りにお邪魔しているらしい。
『……真理さんは、なんか玉木のこと歓迎しているっぽいし……』
 かならず新鮮な海の幸を手土産に持ってくる玉木の存在は、主婦である真理さんにはそれなりに有り難い存在なのだろう。
 料理中の茅に、
「これ、おみやげ」
 とマンドゴドラの包みを示してみせると、茅は何ともいえないとろけたような表情を作った。茅も、荒野と同じく甘いものに目がなかった。

 夕食を終え、食後のデザートとしてマンドゴドラ特製イチゴのミルフィーユと紅茶を堪能してから、荒野は狩野家のプレハブに向かった。なにもなければ香也はプレハブに籠もっている筈で、昨日の今日で楓や孫子がまたなにか問題を起こしているようなら、それはそれで困るし、自分がいることが二人の抑止力になり、香也が落ち着いて絵を描けるのなら、それに越したことはなかった。
 そんなわけで荒野は、食べきれなかったケーキを包み直し、箱ごともってプレハブに向かった。
「様子、みてみたいの」
 といい出して、香也の絵にはあまり興味を示さない茅も、この日ばかりはとことこ荒野についてきた。

 プレハブには三人、香也、楓、孫子が勢揃いして、そして何故か仲良くプレハブ内の香也の絵を整理している所だった。
「……なにやっているんだ、君たち?」
「……んー……なんか、週末に、何人か、ここの見学希望者ができちゃって……」
「凄かったんですよ、今日の香也様」
「放課後、美術部に野次馬が殺到したのは知っていて? 香也、その人たちほとんどみんな、自分のシンパにしちゃったの……」
「……そんな大げさなもんじゃないよ……ただ、絵の面白さを知って貰っただけで……もともと、みんな、潜在的には興味を持っていた人たちだし……」
「……あー。なるほど……」
 なんとなく状況が飲み込めた荒野は、生返事をして楓に命じた。
「イチゴのミルフィーユ持ってきたからさ、真理さんにわたしてよ。一応、人数分、ある。玉木も来ているんだろ?」
「あ。はい。じゃあ、みんなで居間のほうに……」

 全員でぞろぞろと居間のほうに向かう。
 居間の炬燵には真理が一人で当たっていて、湯呑みを傾けながらテレビの温泉番組をみていた。
「あら。いらっしゃい」
 荒野たちの顔に気がつくと、真理はそう挨拶する。
「お邪魔します。これ、おみやげです。今日のお裾分けのお礼に……」
「いいのよ、気にしなくて……どうせもらいものだったんだから……」
「楓、奥にいって羽生さんと玉木、呼んでこい。玉木にはいっておきたいことがあるし……」
「なにがあったのか知らないけど、相手は女の子なんだから、あんまり乱暴なこといっちゃ駄目よ……」
 そんなに語気を荒くしたつもりはなかったのだが、真理は敏感に荒野の不機嫌さを感じ取ったようだった。
 楓が呼びにいくと、すっかり頬の肉が削げた羽生と、いつも通りの玉木がすぐにやってきた。
「ややや。ケーキっすか? しかもマンドゴドラの。こんちまた嬉しいね、っと……」
 羽生は、微妙にノリがおかしかった。
「……大丈夫ですか? 羽生さん……」
「大丈夫大丈夫! 二晩や三晩くらい、まだまだ徹夜できますですよぉ……」
 羽生はそういって、懐から出した茶色い円筒形の小瓶の蓋を開け、中身のねっとりとした液体を飲み干して、けけけ、と笑い声をあげた。
「マンドゴドラのマスターには、制作快調! といっといてつかぁーさい。
 明日か明後日あたりには完成の予定……」
 羽生はそんなことをいいながら、炬燵に手足をつっこみ、天板の上に頭を横たえてて目をつぶった。そのまま、すぐに「くかー」と軽い寝息を立て始める。
「……だ、大丈夫なのか? これ?」
 荒野が若干取り乱しながらいうと、
「……んー……羽生さん、気合いが入ってくると、いつもこんな調子……十分くらいで飛び起きるから、そのままでも……」
「おう! うちの師匠はこうなってからがすごいだぜぃ」
 と、荒野と玉木が二人して保証してくれた。
 決して安心したわけではないが、荒野はとりあえず気にしない事にして、真理がいれてくれた紅茶でみなとミルフィーユをぱくつきながら、こんこんと今日の昼休みのことを玉木に説教し始めた。
 玉木は、意外に殊勝に荒野の小言を頷きながら聞いていたが、荒野が一通りしゃべり終えると、
「……カッコいいほうの荒野君は、意外と常識人で心配性なんだなぁ……」
 といった。
「……君、人知れず、ストレス抱え込むタイプだろ?」
 荒野は、返答できなかった。

[つづき]
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