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髪長姫は最後に笑う。第五章(40)

第五章 「友と敵」(40)

 荒野が黙り込んだのをみて、玉木は、ふっと表情を緩めた。
「君はいいヤツなんだな……仲間思いで、真面目で……。
 おい! ソンちゃん!」
「なに、それ? わたくしのこと?」
 孫子は上品に鼻の回りに小皺を寄せた。
「そんな呼び方は不本意ですわ。取り消さなかったら、今度からタマタマさんとお呼びして差し上げてよ」
「タマタマいうなぁ! 
 ……あいや、訂正。
 ソンシちゃん。こっちのカッコいいほうの荒野君が、君のことを心配しておるぞ。目立ちすぎて、このままでは孤立するんじゃないか、って……」
「加納!」
 玉木の言葉を受けて、孫子は荒野に向かって声を荒くした。
「それ、本当ですの? 本当だとすれば、それ、とんでもない屈辱でしてよ!」
「……い、いや……でも……」
「わたくし、才賀の中での次世代を担う有力株とみられていましてよ! そのわたくしが、たかだか大衆から孤立する程度のことを恐れると考えるのか……理解に苦しみます!
 第一、なんでこの才賀の後継者であるわたくしが、あなた方のようにこそこそしなければならないの?」
 孫子にすごまれ、荒野は、今までとは別の意味で頭を抱えたくなった。
『……そういやコイツ……表向きは才賀のご令嬢なんだよな……』
 その他の性格が濃すぎるんで、すっかり忘れてた……。
『そういう立場として育てられていれば……周囲から孤立している、というのは、むしろデフォルトなのか……』
 前に、何気ない会話の中で、孫子は前の学校でも一人だった……ということも聞いていた。
 あれだけの財力を持つ実家に生まれ、なおかつ、才賀衆としての教育も受けてきた孫子は……前の学校でも、良家の子女の中で浮いていたという話しで……。
「……まあまあ、そういきりたつなよ……」
 荒野は息をついて孫子に向き直った。
「おれがいいたいのはだな……才賀。お前、そうやって自分から他人との間に距離を作って、それで楽しいのか? ってことで……。
 楓! それに、玉木!
 この間の囲碁の中継、相当アクセスあったんだよな!」
「……あ。はい……」
 いきなり荒野に話しを振られた楓が、慌てて答える。
「すごい人気でした!」
「高画質版のDVDの予約も殺到しているよん!」
 玉木も、荒野の推測を裏付ける。
 ここ数日、玉木が狩野家、さらに詳しく言うならこの家の羽生の部屋に入り浸っているのは、そこのLAN環境を使って孫子と徳川の囲碁勝負の映像を編集するためだっが。ハイクオリティ版のDVDとして、実費にほんの少し色を付けた程度の値段で配布する予定である。あくまで部活で行ったものだから、必要経費をさっ引いた純利益は、今後の部活の資金にするつもりだった。
「校内からもそれ以外からも、びしばし予約入っておりまする」
「な。
 後、朝、通学中に一局うっていきなさいって誘われたことあったろ?
 つまり、才賀、お前さん本人がどう思うとも、お前は実質上ここいらでは人気者なんだ、もう……」
 ここで荒野はまともに孫子の目を覗き込んで、数秒間を置いた。
「……そのお前さんがだ、ちょいとした不注意のせいで、ここにいられなくなったら……そうしたお前さんを慕っている人たちや、それに、ここの家の人たちが……悲しむだろう?
 お前さん自身は、また、元居た場所に帰ればいいだけのことなんだろうから、気が楽なんだろうが……」
 荒野はそう諭すと、孫子は不承不承、ではあるが、「今後は言動に気をつける」と約束した。昨日、半ば脅迫して強制した「約束」とは違い、今回のは自分の利害を勘案した上での「約束」だったので、荒野は孫子の言葉に信頼を置いた。
「……あー……それから、楓。お前もだ。前々からいっていることだけど、ここにずっといたかったら、くれぐれも目立ちすぎる真似はするな……」
「……そいつはもう手遅れだと思うなぁ……」
 荒野に声をかけられた楓、ではなく、玉木は荒野に反論する。
「……昨年末の商店街イベントでしょ? ついこの前の囲碁勝負でしょ? それに、今羽生さんが編集中のマンドゴドラのCM……あれなんか、今までのように店頭で放映するだけではなくて、ネットで配信するって聞いているけど……。
 今や君たち、このご近所では、控えめにいってもかなりの有名人だと思うけど……」
「……いや、そういうことではなくて、だな……」
 荒野は、玉木にどのように説明すればいいのか、少しだけ迷った。
 相手が相手だけに……下手に隠しだてすると、かえって好奇心に火をつけかねないので……出来る限り、本当のことを話すことにした。
「……ああいう目立ち方は、まだしも……いや、実のところ、ああいうのも本当は好ましくないんだが、ここまで来たらもうなにを言っても無駄、という気もするし、諦めている部分もある……。
 それとは別にだな、おれたち、いろいろと特殊な部分があるんだよ。他人に知られたくないような部分が……」
「……うーみゅ……」
 肝心の部分を隠蔽したままの荒野の説明に、玉木は口唇を尖らせて「不服」の感情を表現した。
「その、カッコいいこうや君のいう『特殊な部分』ってのは、あれ?
 このわたしにも話せないようなことなのかね? 例えば、うまく隠してはいるけど実は、みんなには実は尻尾bが生えている、とか……円形脱毛症である、とか……」
「……違う、違う」
 荒野は苦笑いをしながら玉木の言葉を否定する。
「そういう、外見的な特徴ではないよ。もっと根本的な問題で……知ったら多分……玉木も、引く。
 と……思う。だから、詳しい内容は聞かない方がいい。というか、聞かないでくれ。
 ……おれたちのために……」
「……外見的な部分ではない……」
 玉木はさらに考え込んだ……ふりをした。
「……では、実は……さる王国の王族に連なる者だとか、宇宙人だったとか、ピンチになると変身したり巨大化したりするとか、どっかの危ない宗教の関係者とか、過激な政治活動をやっているとか……」
「そういうんでも、ない。
 まあ、外見的特徴説、よりは、的に近づいている……かなぁ?
 でも本当、これ以上のヒントは勘弁してくれ。
 おれたち、この町で平和に、普通に、暮らしたいだけで……その秘密ばれると、まず確実に、ここにこのままいられなくなる……。
 だから本当に、それ以上詮索しないでくれ……」
 荒野は深々と玉木に頭を下げた。
 荒野が本気でいっているのを理解した玉木は、指先でこめかみのあたりを掻きながら「わかったよぉ。もう。そこまでいわれて探り入れたら、こっちが悪役じゃんか」とぼそぼそ呟いて、荒野の懇願を受け入れた。

[つづき]
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