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髪長姫は最後に笑う。第五章(41)

第五章 「友と敵」(41)

 もう少し残って作業をしていく、という玉木を残して狩野家を辞し、荒野と茅はマンションに戻った。
 明日も平日であり、通常の通りに通学しなければならない。そのためには、そろそろ風呂や就寝の準備をしなければならない時間となっていた。いつもは夕食の前に風呂を使うのだが、今夜は荒野がマンドゴドラに寄ったおかげで「食事後、狩野家に向かう」ということになってしまった関係で、食後、就寝までに時間を置くためにも、あえて風呂を後回しにした。
 湯船にお湯を張る間、特にすることもなかったので、二人でリビングのソファに座って観たくもないテレビをつける。二人ともノートパソコンはお隣りの羽生の部屋でLAN環境の材料として提供したままだったし、学校に通うようになってから、茅は、マンションから距離のある市立図書館から本を借りてくるのも止めていたため、他に適当な時間の潰し方もないのであった。また、いつもなら茅が紅茶をいれるところだったが、今夜は夕食後にケーキとお茶を胃に入れ、それに時間的にも遅かったので、新たに飲食する気にもなれなかった。
 茅は、二人でテレビを観るときいつもそうするように、荒野の膝の上に乗りながら、リモコンで適当にチャンネルをザッピングする。興味の持てる番組をやっていなかったのか、茅はかなり頻繁にチャンネルを変えていた。荒野も、もとよりテレビをみる習慣があるわけではなく、特にみたい番組があるわけでもなかったので、茅のしたいようにさせていた。
「……荒野……」
 そのうち、チャンネルを変え続けるのにもあきたのか、茅が荒野の胸に自分の頭を押しつけ、体重を預けて下から荒野の顔を覗き込んだ。
「……ん?」
「わたしたち……わたしと荒野、楓と才賀……いろいろあったけど、今のところ、うまくいっていると思うの……」
「そうだな」
 特に考えることもなく、荒野は同意した。
 荒野が孫子の事まで心配する余裕がある……というこは、裏返せば、それだけ平和だ、ということだった。
 ここのところ、一族の干渉は途絶えている……と、思った所で、荒野は、茅のいいたいことがおぼろげにわかったような気がした。
「……つまり……そろそろ、新たな動きがあってもいい頃だと、茅はいいたいのか?」
 荒野の言葉に、茅は頷いた。

 野呂良太、二宮荒神、シルヴィ・姉、佐久間源吉……これら、一族の者の出現と干渉は、荒野たちの生活が落ち着いた頃を見計らったようなタイミングで起こっている。荒野は、その全てが、とはいわないが、その半分くらいは、涼治がコントロールして意図的に手引きしているのではないか、と、疑っている。
「そうだな……そろそろ、そういう動きがあってもいい頃だよな……」
 最近では、荒野たちも、転入先の学校でもそれなりに友人が増え、新しい環境にもかなり慣れた。
 今までの例から考えれば、そろそろ新しい動きがあってもおかしくない……。
「今度は……どんなやつらが、どんな手で干渉してくるのかなぁ……」
 荒野は、茅に聞かせるため、というよりも、自分自身の思考をまとめるために呟く。
 三島などは、茅と同じような存在が別にいる可能性を示唆し、そいつらが、性能試験も兼ねて、茅に……ということは、茅を守ろうとしている荒野や楓も含めた一団に対して、ということを意味するのだが……挑戦してくる可能性を挙げていたが……そうした連中が、本格的に茅に向かってくるのは、時期的にみて、まだ早すぎるのではないか……と、荒野は思っている。
 茅がどんなに卓越した能力を示したとしても、一般人に紛れて普通に暮らせないようでは、所詮、使いどころはかなり限られてくるわけで……通常の「埋伏任務」一つ務まらないようでは、どんな能力の持ち主でも、忍びとしては、半人前以下なのだ。

 荒野は、茅に一族の手の者が差し向けられるのは、以下のようなパターンがあると考えている。
一、茅が、当初の予想以上に能力を開花させ、放置しておけば一族全体に害を及ぼす、と判断された時。
 この場合は、粛正が目的であるため、可能な限り戦力を充実させた刺客が送り込まれる筈だった。
二、茅が、単独でも「埋伏任務」を支障なく行うことが出来、なおかつ、他の一族以上の秀でた能力を持つに至った、と、判断された時。
 この場合は、文字通り「性能試験」であるから、茅の能力を推し量るための人材が送り込まれてくる。茅と同じような「姫」か、それとも、その任務をこなすために特化された、特殊な編成のチーム、だろう。
三、茅が、「二」の条件を満たしているかどうか、探りをいれる時。
 あるいは、
四、茅が潜在的にもっている筈の能力を引き出すための、いわば、「当て馬」ないしは「噛ませ犬」として。
 この「三」と「四」の場合も、送り込まれるのは、「二」と同じように、その任務をこなすために特化された、特殊な編成のチーム……に、なる筈だった。

 今の時点では、茅はまだ、潜在的な能力を全て開花させていない。
 今の茅に特筆すべき能力があるとすれば、荒野が知っている限りでは、完璧な記憶力と知力、くらいなもので……源吉の例を観ればわかるように、佐久間の名を継いだ人間なら、その程度の能力は当然のように持っている。しかも茅は、普通の佐久間なら当然習得している筈の技や術を憶えていないから、実力としては佐久間以下、の筈で……その程度の存在を、わざわざ力づくで潰しにかかってくる、とも、思えなかった。
 ということは、今の時点で干渉されるとすれば、本格的に茅を潰すため、試すため、というよりは、探りをいれたり、良い刺激を与えるのが目的の筈で……。
 だから、荒野は、あまり心配はしていない。

 荒野はそんなことを考えながら、その場で茅に話す。話しているうちにそろそろ風呂に入る頃合いになったので、二人で湯船につかり、話しの続きをしながらゆっくりと湯に浸る。
 茅は、荒野の推測を一通り聞いた後、特に異論を挟むことなく、首肯する。
 大筋では、茅も同じような予測をしていたようで、それを確認するために荒野の考えを尋ねたようだった。

 当初、ここに来たばかりの頃、荒野は、全てを自分で考えなくてはならなかった。
 茅が来て、楓も来たが……それでも最初の頃は、荒野だけが考えて、決断していた。
 だが、今では、こうして茅と二人で、予測や意見を交換できる……。

 茅と一緒に肩までお湯につかりながら、荒野は、
『それだけでも……随分と気が楽になったよなぁ……』
 と、思った。
 今では、茅は、名実共に荒野のパートナーだった。

 その夜、二人で長湯しながら、いろいろなことを話し合った。

[つづき]
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