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彼女はくノ一! 第四話 (49)

第四話 夢と希望の、新学期(49)

 家の前で樋口明日樹と別れ、家の中に入ると、例によって玉木珠美が羽生譲の部屋に入り浸っていた。玉木と羽生はすっかり意気投合し、時折、「ししょー!」、「たまちゃん!」などと意味もなく呼び合っている。徹夜が続くと、羽生譲はむやみにテンションが上がるのであった。
 自室に戻って着替えてから、いつものようにプレハブに向かう。今日は部活でバタバタしていてほとんど絵が描けなかった。その分を取り返そうと意気込んでいたが、香也がプレハブに入って画材の準備を使用しているところに、相次いで楓と孫子が入ってきた。
「週末に、今日、美術室に来た人たちがこちらに来るんでしょう?」
「ええっとぉ……その、絵を、見せやすいように整理しておこうかなぁ、って……」
 二人に働かせておいて自分一人だけのうのうと絵を描くわけにもいかず、香也は、その日は絵を描くのを諦めた。

 夕食を挟んで三人が絵の整理をしていると、狩野兄弟がマンドゴドラの箱を抱えてプレハブに入ってきて、ケーキをお裾分けしてくれる、といった。夕食から小一時間ほどたっていたし、「甘いもの苦手でも、ミルフィーユくらいいけるだろ?」と荒野に誘われたので、香也もおとなしくみなについて居間に移動した。もっとも香也は洋菓子類の名称に詳しくないので、「ミルフィーユ」というのがいかなるケーキなのか、といった知識はなかったが。
 居間に羽生や玉木も呼び寄せ、みんなでマンドゴドラのイチゴのミルフィーユをいただく。デコレーションにクリーム類が使われているわけではなく、なにより甘味よりも素材である苺の味を生かしたつくり方だったので、香也にもおいしくいただくことができた。
 お茶とケーキと頂いている間中、荒野や玉木珠美、才賀孫子がなにやらごちゃごちゃ話し込んでいたが、具体的になにについて話しているのか、荒野がかなりぼやかしていたので、香也は理解の外にあった。
 なんとなく、荒野は、荒野自身や楓、孫子らの異常ともいえる身体能力の高さを秘匿したいようだ、というのは理解していたが、
『……その割には、ぼくたちには隠そうとしていないよなぁ……』
 と、香也は思った。
 楓が香也の上に落ちてきたあの日があの日だったから、狩野家の人々に関してはすっかり諦めているのかも知れない。
 荒野は孫子におとなしくさせるように、また、玉木には、あまり自分たちの事情を詮索しないように説得していた。孫子は荒野の説得にそれなりに納得していたようだったが、玉木は不承不承頷いた、といった態で、玉木に対する荒野の説得は理に拠るよりはどちらかといえば情に訴えるもので、ほとんど泣き落としに近かった。
『……なんか……必死だな……』
 自分らの目の前で玉木の情に訴え、泣き落としに近い懇願を行う荒野の様子をみて、香也はそう思った。
 荒野は玉木に向かって「おれたちは、平和に、穏やかに暮らしたいだけなんだ」と重ねて訴えていた。そのことからも、
『……加納君……今の生活、かなり大切にしているんだなぁ……』
 ということは理解できたが、香也の目からは、彼らならどこにいってもそれなりに周囲にとけ込めるのではないか、という気もした。だが、よくよく考えてみると、
『……自分たちの正体が露見するたびに、引っ越しして一からやり直し、というのも……』
 それはそれで、かなり大変なような気がした。
 結局……。
『……ここで居着けなければ、どこにいっても同じ……ということなのかなぁ……』
 香也が他人の身の上を案じたり、想像したりすること滅多にないのだが……そこまで考えを巡らせて、荒野や茅、それに楓や孫子など、「特殊な人々」の苦境が、ようやく理解できた。
 つまり、彼らは……。
『……自分が、普通の人々に混ざって、違和感なく暮らすことが出来るかどうか……』
 今、試している最中なのだ。
 彼ら、特殊な人々が、懸命になって普通の……彼らの言い方を借りるなら、「一般人」になろうとしている……。
 香也には、その理由は、わからない。
 いや、漠然と想像することはできたが……ごく普通の少年である香也が、訳知り顔に彼らの苦境を「理解できる」と断言するのは、あまりにも傲慢に思えた。

「平和に、穏やかに暮らしたいだけなんだ」
 という荒野の言葉は、たぶん、紛れもない本音だろう……。

 香也は、「……加納君の、思った通りになると……いいな……」と思った。
 本心から、そう思った。

 加納兄弟が帰った後も、玉木はもうしばらく残って作業をしていくという。
「……できれば、今週中に終わらせたいんだよねー……」
 とのことで、羽生のほうの作業も、特に〆切を区切られているわけではないが、時期的なことも考えて、そのあたりに終わらせるつもりでいるようだった。
 つまり、あと二、三日が追い込みということで、それでも玉木は学校がある関係で十時前には自宅に帰っていくが、羽生譲のほうはバイト先のファミレスも全休にして不眠不休に近い状態で頑張っていた。
 つまり、現在の羽生はテンションは高いが体力はへろへろ、という状態で、時折、不意に十分前後突然そこいらで寝たりするするが、それでも作業は進んでいるのが不思議だった。
 玉木は、自分のほうの作業をしながら、そうした状態の羽生譲をよくサポートしているようだった。もっとも、玉木の方も、かわりに動画編集の方法論や演出法などのノウハウを羽生から学んでいるようで、それなりに恩恵はあるようだ。
 性格的にもウマが会うらしく、作業をしながら時折不意に奇声を発して気合いを入れあったりしていた。

 その場に加納荒野が居合わせたら、間違いなく「厭な組み会わせだ……」と不安な気分に襲われたことだろうが、香也は荒野ではなかったから、二人のそんな様子を見ても、
「……んー……仲、いいなぁ……」
 と思うだけだった。

 楓や孫子が学校に慣れはじめたこの頃、彼女らや加納兄弟に引き寄せられるようにして新たな顔見知りが増え、香也の周囲もそれなりに騒がしくなってきてはいたが、それなりに平穏な状態にあるといえた。

[つづき]
目次

   [第四話・完]

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