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第五章 「友と敵」(42)
そんなことをしているうちに一月も終わりに近づき、荒野たちは毎朝、平日はいつもの面子で登校していく。登校の必要がない週末や休日でも茅のランニングに付き合っているため、荒野の起床時刻は変わらない。毎日だいたい同じ時間に起きて、だいたい同じ時間に寝る。
放課後、茅は部活のあるなしにかかわらず、学校の図書室に下校時刻ギリギリまで入り浸っている。荒野は、部活のある日は遅くなるが、それ以外の日は駅前商店街に寄って自炊のための材料を買って帰る。
最初のうちは部活の時に使用する食材も買っていたが、最近では野球部や水泳部の連中が出来上がった料理を平らげていく代わりに食材を持ち寄ってくれるので、荒野自身が学校に材料を持ち込む量は以前よりは格段に減っている。このあたりは地方都市の郊外、というえば聞こえはいいが、要はこれといった地場産業のない田舎なわけで、そういった地域に住む運動部員の家は兼業農家が多かったりする。その関係で、市場価格の都合や形が悪かったりして売り物にならない作物には不自由しない。また、玉木のように商店を自営している家の生徒も数は少ないながらもそれなりに存在していて、現金のやりとりが一切ないわりには、材料に不自由しないようなシステムが自然に構築されつつあった。
「料理研は交代制にしでもして毎日部活を行うべきだ」などという無茶かつ勝手な要求をしてくる飢えた運動部員たちも多く、もちろん、荒野たちは彼らのために部活を行っているわけではないのでそのような要求は即座に却下しているのだが、自分たちの調理した料理がそれだけ良い反応をもって迎え入れられているとなると、やはり料理研の連中も俄然やる気になってくるわけで、以前にも増して研究熱心な生徒が増えてきたりしている。
また、茅が放課後、図書室に入り浸っているように、放課後になると美術室に入り浸っている狩野香也のほうにも、幽霊部員たちが徐々に顔を出すようになってきていて、今度の週末はそうした連中が香也の絵を見にお隣に押し寄せてくる、とかいう話しも聞いていた。
その話しを耳にした茅は、早速、新しいティーカップとティーソーサーのセットを新たに何客か注文して仕入れた。
この間、紙コップに紅茶を注いだのが、茅にとってはよっぽど不本意だったらしい。
マンションの前で集合して一緒に登校する面子に変わりはない。
が、登校中、彼らに声をかけていく人数は日に日に増加しており、それは荒野たち転入生組の知り合いが増えてきたと言うこともあったし、それ以外に、香也たち元から学校に通っていた生徒たちにも新しい知り合いやらコネクションやらが増えてきた、ということでもある。
例えば、学校にいく途中から荒野たちの集団に放送部の玉木珠美も合流するようになっていて、それまで自転車で通学していた玉木は明らかに荒野たちが通りかかる時間を調べ、それに合わせて家を出る時間を調整している節がある。
何日か前の夜に荒野は玉木に「自分たちの事情についてあまり詳しい詮索はしてくれるな」とお願いをし、玉木も不承不承それに応じた筈だったが、かといって玉木の好奇心自体が消え失せるはずもなく、「いやぁ。君たち、一人一人それぞれに面白いからさあ」などと平然と笑いながら、玉木は公然と荒野たちと一緒にいる時間を増やしてそれとなく観察を続けているのであった。
その玉木の関心は、夕方から夜にかけて狩野家に入り浸っている関係からか、最近では香也、楓、孫子の三人のほうにより重点が置かれているような気配があり、荒野にとっては自分や茅に興味を持たれるよりはそっちのほうがまだマシ、な筈ではあったが、楓の出現以来、なにかと迷惑をかけまくっている香也への心配も、それなりに増えているのであった。
その玉木の話によると、ここ数日、毎日行われている玉木と羽生の動画編集作業もいよいよ終わりに近づいており、ちょうど今度の週末前後にケリがつく、という話しだった。
「……まあ、ラストの金曜日の夜あたりは、それで終わらなければ土曜いっぱいかけて終わらすけど……」
玉木は登校中、荒野にそう説明した。
一口に動画編集、といっても、演出や効果を考えてヒトコマ単位で操作する、とか、使える効果音や音楽のセレクトや入れるタイミングが、などと、玉木は荒野には良く理解できない世界の話しを喜々として語った。
「……しかし、そうなると、ちょうどこっちが終わる頃に絵描き君のお客が来ることになるなぁ……」
一通り、羽生の部屋で自分がやっていることを説明し終わると、玉木はそんな風に嘯いた。荒野と区別する必要もあって、それに茅の呼び方にならって、玉木は、最近では香也のことを「絵描き君」と呼ぶようになっている。
「……それだけ人が集まる、ということになると……」
孫子がちらりと飯島舞花に目線を走らせると、
「ああ。当然、わたしらもいく。
多分、柏や堺も……」
舞花は片手を挙げて応じた。
「……なんかそこいらへんの連中、なにかあるとすぐに集まってくるよなぁ……」
「いいじゃないか、お兄さん……みんなキレイドコロだし、料理うまいし……」
「自分でキレイドコロっていうなよ……そういや、玉木。
お前、なんか料理作れるの?」
荒野がいつものような舞花とのじゃれ合いを中断して玉木に水を向けると、
「わはははは。やだなぁ、カッコいいほうのこーや君!
わたしに料理をさせると、食中毒患者が大量生産されたりしちゃうぞ!」
などと、とんでもなく不吉な事を請け負ったりする。
リアクションに困ったので、荒野は、
「そうかそうか……」
と、とりあえず、頷いておいたら、玉木は、
「あー。どうせみんな集まるんなら、狭間先輩とかトクツー君とかも呼んで、DVDの完成会も兼ねようかなぁ……」
などと言い出した。
「徳川を呼ぶなら、浅黄も連れてくるようにいうの」
それまで荒野の横で黙って聞いていた茅が、突然、玉木に向かってしゃべり出す。
「はいはい。そうしましょー……」
玉木は茅の要求に、軽い調子で答えていた。
つまり、一月がそそろそろ終わりに近づいたこの頃、荒野の周囲は極めて平穏であり、荒野はそうした平穏な日々に、それなりに……いや、かなり満足していた。
『……この平穏さが、いつまでも続けばいいなぁ……』
とは荒野も思ってはいたが、そういう願望は大抵、適わないものだということも、承知していた。
事実、この一月の末の平穏は、主として二つの原因によってすぐに破られることになる。
ひとつは、「バレンタイン・デー」が近づいてきたため。
もうひとつには、この町に、新たに三人の住人が移住してきたために。
この三人のことを、荒野は、後に「恐るべき子供たち」と呼んだ。
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つづき]
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