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彼女はくノ一! 第四話 (48)

第四話 夢と希望の、新学期(48)

「……なんだ……今日は随分賑やかじゃねぇか……」
 無精ヒゲを生やし首に年代物の一眼レフをぶら下げた三十年配の教師が美術室に入ってきた。美術教師であり、放課後は滅多に美術室に顔を出さない美術部の幽霊顧問でもある、旺杜臨だった。旺杜の顔を知っている生徒たちが、軽く会釈する。
「……狩野、こいつらに似顔絵描かせてるの?
 ふーん……この間までまともに人物描かなかったお前がねぇ……。
 まあ、初心者に絵の面白さを教えるには、いいアプローチか……」
 旺杜は香也の手からみなが描いた絵を奪い、ぱらぱらとめくった後、すぐに香也の胸元の押しつけるようにして返す。
「で、こいつら……うちの幽霊部員、だったっけ?」
 旺杜が部長である樋口明日樹に向かって尋ねる。
「だいたいは……。来年度の入部希望者もいますけど……」
「……ふーん」
 旺杜は顎に手をあてて自分の無精ヒゲをごりごりと掻いた。
「おれ、この狩野の絵、正確すぎて好きじゃないんだけどね。ま、あれだ。絵、なんてさ、描くヤツのノイズ、っつうか、主観で描くから面白さがでるんであって……それがこの狩野は、自分の目線を入れようよしねぇんだよな……技術だけ、つうか……。
 そこいくと、ここに集まった絵なんざは、技術的には下手もいいところだけど、どれここれも味があって面白いねぇ……狩野の、取り澄ました絵なんかよりは、よっぽど、面白い……。
 あ。でもな。
 技術、ってのもなかなか馬鹿にしたもんんじゃないぞ。おれはもっぱらコレだけどな……」
 旺杜は、自分の首にかけた一眼レフを取り出して掲げて見せた。
「もう二十年近くやっているけど、未だに自分が思ったとおりの絵は撮れないからねぇ……。だから、かえって面白いんだが……」
 旺杜はいうことだけいうと、香也たちになんのアドバイスもせず、きびすを返してさっさと美術室から退出した。

「……なにしに来たんだ……あの先生……」
「……まぁ、名前だけの幽霊顧問だし……」
 残された生徒たちはしばらくそんな風にざわついていたが、すぐに今描き上げたばかりの似顔絵に話題が戻り、わいのわいのと意見交換を再開していた。

「……旺杜先生もいっていたけど、正確さ、だけを追求するなら、実は技術だけを向上させればいいわけで、でもそういう絵っていうのは、実は見ていてもあまり面白くないわけで……」
 徳川篤朗と部室で何局か対局し、「忙しいから今日はここまでなのだ」といって徳川が下校したのを期に、才賀孫子が様子を見に美術室にいくと、何故か香也を中心にして二十人ほどの生徒が車座になって香也の話しを聞き入っていた。
「……正確な絵、うまいだけの絵、というのを描きたかったら、まず、観察眼を養うこと。物事の形や色味などを正確に見とることができて、その後に、思い通りに手を動かせるようになって、初めて正確な絵が描けます。
 逆に言うと、じっくりと描く対象を観察し、それを正確に紙に描くための訓練を地道に行えば、誰にでも、あるていどまでのうまい絵は、描けます。ある一定レベルまでは、単純に、練習量の問題です。
 でも、それ以外に現代絵画では、手法やアプローチ法が無数にあって……」
 日常生活の場では口ごもることが多い香也も、自分の得意分野になると多弁になるようだ。孫子が美術室についたときにはすでに香也の独演会になっており、それは下校時刻ぎりぎりまで続いた。
 集まった生徒たちは当初の目的や興味の対象を半ば忘れかけており、すっかり香也の熱気に当てられている。途中から美術室に入って見学していた孫子の存在に気づいた生徒たちも少なくはなかったが、彼らが騒ぎ立てる、ということもなかった。

 最終下校時刻十五分前を告げるチャイムが鳴り響くと、その場限りの雰囲気もあるのだろうが、「明日の放課後も来ていいか?」とか「もっと香也の絵を見たい」とかいう生徒たちが続出する。
 結局、週末に、希望者を狩野家のプレハブに招待しなければ収まらないような感じになった。
 今日から参加しはじめた生徒たちを先に退出させた後、、香也と樋口明日樹、松島楓、才賀孫子の四人で簡単な片付けをして、最後に明日樹が預かっている鍵で美術部の戸締まりをする。職員室に立ち寄って美術室の鍵を返した後、香也と楓、孫子は同じ家に住んでいるし、明日樹も方向は一緒なので、四人で連れ立って帰宅した。
「……香也様、絵の事になると別人のように歯切れのいいしゃべり方しますよね……」
 帰り道で、楓がそんなことを言い出す。
「……んー……」
 香也は、照れているようだった。
「……話すこと、分かっていれば、口ごもる必要はないし……」
「……つまり、絵のことならかなり分かっている、と……」
 孫子は前を向きながら、わざとらしくため息をついた。
「これでもう少し、人間のほうにも興味を持っていただければ……」
「……なに? 狩野君、まだ人が怖い、とかいっているの? あれだけ大勢の前で堂々としゃべっていて……」
 明日樹は香也に尋ねた。
「あれ? 香也様、前にもそんなこといったんですか?」
 楓が、明日樹に聞き返す。
「んー……」
 明日樹はこの場でしゃべっていいものかどうか、しばらく躊躇していたが、横目で香也の様子を伺っていても、特に静止もされなかったので言葉を繋いだ。
「去年の夏前……狩野君が、まだ学校に来たり来なかったしてた時、何故学校に来ないのか聞いてみたら……その時、狩野君、こういったんだよね……」

『……学校は、好きでも嫌いでもないんだけてど……。
 あれだけの人が集まっていると、なんだか怖いような気もする……』

「……ちょっと反応が鈍いように感じる時はあっても、一対一とか二、三人相手にしている時は、狩野君、特に人見知りとかしていなかったし……。
 学校に行くようになっても、他の人、特に怖がったりする様子もなかったから、今まで忘れてたけど……」

[つづき]
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