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彼女はくノ一! 第四話 (46)

第四話 夢と希望の、新学期(46)

 翌日の朝食もかなり気まずい雰囲気だった。寝不足で元気のない羽生譲を除き、香也と真理はだいたいいつもの通りで、それどころか香也にいたってはいつも以上に熟睡できて顔色が普段よりよほどいいくらいだったが、なにしろ、楓と孫子の間に隠しようも誤解しようもない険悪な空気が立ちこめていて、食事の時に二人が座る場所は隣り合っていたから、食事の場全体がずーんと重苦しい雰囲気に包まれているような感じなった。
 自分のほうに過失があるわけではないのだが、香也までなんだかその場にいるみんなに済まないような気分になり、羽生譲も、いつもの軽口を口に出すのもはばかれる空気にかなり辟易しながらも、二人に気圧されて黙々と食事を摂るだけしかできなかった。真理だけが、いつものようににこやかに「今日の安売り情報」とか「ご近所の誰それさんのお舅さんがぎっくり腰で入院して」だの、いわゆる世間話をして場を賑やかしている。他のみんなは真理の話しに儀礼的に相づちはうつのだが、明らかに上の空といった態度で、それぞれの思考に沈んでいる。

 その日、香也は睨み合う二人に挟まれるようにして登校した。
 隣りの加納荒野は、三人の様子をみると、小さく息をつき、小声で、
「……大変だなあ、君も……」
 といって、香也の肩を軽く叩いた。
 荒野と同じく、飯島舞花も、合流するなり明らかにいつもとは違う雰囲気の三人の様子を感じ取り、
「……な、なに? なにがあったの?」
 と、この少女には珍しく取り乱した様子でその場にいた生徒たちに尋ねる。
「もはや、三人の問題なの」
 と加納茅が舞花の疑問に答えると、途端に納得した顔になって、
「ああ……そっかぁ……前々からそういう感じではあったけど……ついにそうなったかぁ……」
 とかいって、「がんばれよー」と香也の背中を叩いた。
「……飯島、なにを頑張るって?」
 ちょうどその時、舞花の後ろから弟の大樹を引き連れてやってきた樋口明日樹が、舞花に声をかけたので、背後から明日樹が近づいてくるのに気づかなかった舞花は「うひゃあ!」と声を上げて三十センチほど飛び上がった。
「ななな、なんでもない! え! そうだよ。絵、だよ!
 絵を描くのを、頑張れって……あは。あははははっは」
 舞花が大げさなくらいに動揺してくれたおかげで、明日樹の注意はそちらに向き、結果として学校に到着するまで、楓と孫子の様子に気づくことはなかった。しかし、必死で明日樹の注意をそらそうとした舞花の努力も、すぐに水泡と化すことになる。

「……ということで、本日は、二年の美貌転校生と一年のめちゃマブ転校生の二人と同居する話題の一年生にインタビューです。
 さて、狩野香也君、二年の才賀孫子さんとこのクラスの松島楓さんと同棲して夜な夜なひいひい言わせておるというのは本当かね?」
 昼休み、給食を食べ終えた香也がのほほーんと自分の席で休んでいると突如横合いからそう声をかけられ、目の前にマイクを突き出された。
「……んー……ん? ん?」
 香也は細い目をパチクリさせ、目前のマイクとマイクを手にした眼鏡の女生徒を交互に見やり、ようやく、事態を把握する。
『……この人、たしか……ここのところうちに来ている……放送部の……』
 玉木珠美、だった。
 後ろには、例によってビデオカメラを構えている有働勇作も控えている。
「ここ数日お世話になってまぁす。今日も学校終わったら行くからよろしくぅ。というか昨日、一昨日のあの様子、あの家にいりゃあ、イヤでも分かるって。ということで、おらおら! ネタはあがってんだよォ!」
「……ん? ん? ん!!」
 香也は、脂汗を流しながら凍りついていた。香也は、性分としてさほど機転が利くほうではない。
「いきなりやってきてナニするですか!」
 松島楓が、玉木と香也の間に体を割り込ませて、玉木に向かって抗議する。
「おお! もう一人の当事者ハケーン!」
 明らかに憤怒の形相を見せる楓に構わず、いや、むしろ、玉木は楓の登場を喜んでいさえいる。
「みなさん、こちらが今話題の転校生、松島楓さんです。彼女これで脱ぐと凄いんです。で、松島さん、いい機会ですからこの場で狩野香也君への熱いメッセージなど……」
「……え? え? あの……熱いっていうか……」
 いきなり玉木の矛先が自分に向かってきたことで出鼻を挫かれ、なおかつ、「香也への」熱いメッセージを、などと言われたものだから、当初の目的を失念し、途端にあたふたし始める楓。
「……そそそそれはだからあのですねぇ……。
 って! そういう話しじゃないでしょ!」
 顔を赤らめながらもじもじしばじめ、それからはっとなにか思い出した顔をして玉木に再度食ってかかる。

 その時、どたどたどたどた、と廊下のほうで足音が聞こえ、音高く引き戸をガラッっと開けて、才賀孫子が香也たちの教室に入ってきた。どうやら、二年の自分の教室から、全力疾走でここまで走ってきたらしい……。
 それはいいとしても、何故? ……と思って香也がきょろきょろとあたりを見渡すと、携帯を手にした加納茅と目があった。
 香也と目が合うと、茅は香也に指でVサインを作ってくれた。
 ……どうやら、茅が孫子に、香也の異変を知らせてくれたらしい……。

 教室内に入ってきた才賀孫子は、ツカツカと香也の座る席に、ということは、玉木と有働のほうに近づいてきて、有働の襟首を掴む。
「……この教室で……」
 孫子は、そのまま片手で有働の体を持ち上げはじめた。
「……あなたがた放送部は……」
 一見華奢に見える孫子が、片手で楽々と百八十以上ある有働の体を持ち上げたことで、周囲からどよめきがあがる。
「……一体なにをしていらっしゃるのかしらぁ?」
 有働の体を持ち上げたまま、ギロリ、と、玉木珠美を睨みつける。
 玉木珠美は、孫子の視線にも動揺することなく、ポケットから薄型のコンパクトデジカメを取り出し、有働を片手で持ち上げながら仁王立ちになって玉木を睨みつけている孫子を連写し始める。
 孫子は玉木のほうをまともに睨みつけていたので、結果として、カメラ目線になっていた。
「いえいえ。もう用件のほうは済みましたので、これでおいとまさせていただきますぅ。おかげさまでいい画がとれましたぁ。うはは。おまけでこれで、三角関係確実ぅ!
 うひ。うひひひひ……」
 玉木は気持ち悪い笑い声を上げながら、孫子に持ち上げられたまま背を丸めて縮こまっている有働を顧みもせず、スキップをしながら去っていた。

 玉木はその日の放課後、東スポもかくやという下品な煽り文句を連ねた壁新聞を放送部の部室前掲示板に貼りだした。それはすぐに職員に知られることになり、三十分もせずに撤去を申しつけられたが、噂のほうは玉木の新聞が張り出される前に全校に浸透していた。

 才賀孫子、松島楓、狩野香也の三人の関係は、放課後になる前に、全校的に知れ渡ってしまった。
「昼休みの教室」という衆人環視の環境下でああいうイベントが起こってしまったら、あっという間に噂が伝播するのは当然ともいえる。
 孫子と楓は以前からそれなりに注目を集める存在だったが……それまで、学校では地味で影が薄かった香也も、この出来事以来、全校的に顔が知られる生徒になってしまった。

[つづき]
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