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彼女はくノ一! 第五話 (61)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(61)

「……カットモデルというのはな、簡単にいうと、カット代を負けてくれる代わりに、お店の宣伝とか美容師さんの勉強に協力するってことで……」
 夕餉の席で、荒野が主に三人に向けて説明をしはじめる。
「……今回の場合……最初は、人数が多くて予約が難しいって話しだったんだが……それなら、お店が休みの時に……どうせなら、モデルやポスターとか、こっちが協力するのなら、向こうさんも休日出勤してくださる、と……。
 そんな具合に、とんとん拍子に話しが進んでいってな……。
 まあ、あの玉木のいる側で、予約の電話いれたおれのほうも悪かったといえば悪かったんだが……」
 荒野は、箸の動きを止めて、深々とため息をついた。
「ぜんぜん、悪くないと思うけど……」
 湯豆腐に箸を入れながら、テンがいう。豆腐などの加工食品は、島を出て初めて口にしたテンたちだが、今ではそのうまさを認めていた。
 特にテンは、淡泊ななかにもそことはない旨味がある豆腐が、かなり気にいっている。
「……だって、昨日のかのうこうやの話しでは、ボクたち、この辺の人たちの役に立つことをやっていく、って方針だったんでしょ?
 そのお店の役に立って、それで、ボクたちも、お金払わなくていいんなら……どこにも、都合が悪いことなんかないじゃないか……」
 正論だった。
 しかし、荒野は……。
「……お前らは、単純でいいなぁ……」
 と、再度嘆いてみせる。
 三人は機嫌を大いに損ね、盛大にブーイングをしだした。
「荒野、恥ずかしがり屋なの……」
 しばらくして、茅がそういうと、三人はようやく納得した表情で頷きあう。
「……なぁる……」
「道理で……胆、小さいそうだもんな、かのうこうやは……」
「胆、もそうだけど、器量のほうも問題だと思うな、ボクは……」
 本人を目の前にして言いたい放題に論評しあう三人。
 荒野はその様子をみて、怒りを感じるよりは、げんなりとした表情になった。
「いや……もう……なんでもいいよ……」
「まあまあ、カッコいいこーや君、そんな所でめげてないで……」
 そんな荒野を、羽生譲が元気づける。
「その呼び方、なんとかなりませんかね……」
 荒野は、捨てられた子犬のような同情を誘う瞳で羽生譲を見つめる。
「おれ、学校でも玉木にそう呼ばれているから……。
 その呼ばれ方すると、背中に悪寒が走るようになってしまいましたよ……」
「……玉木ちゃん、カッコいい荒野君、いぢめているん?」
「いじめ、じゃあないし……むしろ、よかれと思って、いろいろ段取りつけてくれるんですけど……」
 荒野は、深々とため息をつく。
「……あいつ、もともと行動力がある上に、商店街の人達とも仲いいから……こちらの予想以上のこと、してくるんですよ……。
 相談したの昨日なのに、もう話しをまとめて……こちらの香也君にまで仕事持ってくるし……」

 昨日、荒野は、自分たちの正体が周知のものになる前に、ここの地元に根付く……という方針を、玉木と有働から提案された。
 荒野が特に異存はない旨を伝えると、玉木は、今日のうちに、「自発的な地域ボランティア団体」の発足を提案して来た。
 賃金労働、という形だと、学校からクレームがつく公算が多いが、無料奉仕ならば、別にお咎めをうけることはない……。
「……まあ、商店街の関係でいうと、現金のやりとりがないだけで、現物支給という形で報酬貰えることになるみたいですが……」
 その第一弾として、玉木は、香也に仕事を持って来たのだという……。
「……おれらばかりじゃあ、変に目立つから、ほかにも何人か同じように働いてくれると、たしかにカモフラージュにはなるんですが……」
 玉木が持って来たのは、商店街のシャッターを、香也の絵で飾るとことだった。
 高齢化が進んでいる駅前商店街では、後継者がいなくてシャッターが閉めっぱなしになっている店も決して少なくない。そうした店も含めて、商店街のシャッターを全体を、明るい色調の絵で飾ろう、という計画を進めているらしい。
 まだまだ関係者に話を通し始めた段階だが、昨年末、香也が、マンドゴドラのショーウィンドウに即興で絵を描いた現場を目撃した人々が率先して他の人々の賛同を取り付けはじめている。
 また、その際、ペンキ代などの実費を商店街が持つにしても、業者に頼むよりはよほど安くあがるわけで、玉木の話では、かなりの好感触だという。
「玉木の奴……早速、今日の放課後、部活中の香也君の所に話をつけにきましたよ……」

 香也の返答は、いつものごとく、
「……んー……。
 いいけど……」
 だった。
 他の事ならともかく、絵に関することになると、別に断る理由はないらしい。

「……そんで、カッコいいこーや君のほうは、カットモデルさんかぁ……」
 羽生譲が相槌を打つ。
「……最初は、単純に調髪にいこうってだけだったんですけど……予約の電話した時に、ちょうど玉木の奴がいて……。
 カットモデルの話しはお店の方から出たんですけど、気づくと、玉木の奴が写真館のご隠居とかに電話して……」
 ……その場で手配をつけてしまった……という、話しだった。
「……ポスターなんて、別に印刷しなくても、今はいいプリンターがあるから、っていって……。
 最初は数枚とか数十枚の単位で用意して、好評だったら、印刷にだすとかいっています……」
 玉木の話では、写真館のご隠居は、最近はデジカメに凝りはじめたらしい。
 ご隠居は、店の仕事はもう跡継ぎに任せている状態なので、なにか腕を振るう場所さえあれば、二つ返事で駆けつけてくる。

「……なんだ……それじゃあ、テンちゃんのいう通り、誰もかも得しているわけで、なにもカッコいいこーや君がしょぼくれる必要、ないじゃんかよぉ……」
 羽生譲は、目を細める。
「カッコいいこーや君も……もう、いい加減、腹を括って覚悟を決めちまったら……」
「……そうは、いいますがね……」
 荒野は、嘆息する。
 物心ついてから今まで培ってきた「目立つな」という至上命令を、今さら、自分の意志で解除することは……荒野の心理に、予想以上の負荷をかけている。
「なんか……このまま流されていくと、おれがおれでなくなっちゃいそうで……」
 少なくとも……今まで荒野がそうあろうとしてきた、「忍」、ではなくなる。

 荒野が一人悩んでいる間にも、その場にいた他の人々はいつも通りの健啖ぶりをみせて食事を進めている。

「……なぁんだ、そんなことか……」
 羽生譲は、笑った。
「確かに、わたしは、こっちに来てからのカッコいいこーや君しか知らないし……それと、今のカッコいいこーや君とは、違ってきているかも知れないけどさ……。
 それでも、カッコいいこーや君は、カッコいいこーや君だろ?
 ほんの少しばかり、顔出しの仕事が増えて目立ったからって、根本のところから、カッコいいこーや君の人格が変わってしまう訳でもないし……。
 少なくとも、この場にいる人達が、カッコいいこーや君との付き合い方を変える、ってわけじゃあ、ないだろ?」
 荒野は、炬燵に入って食事をしている人々を見渡す……。
 茅がいる。真里がいる。香也がいる。羽生譲がいる。楓がいる。孫子がいる。テンがいる。ガクがいる。ノリがいる。
「……第一、みんな一緒にやるんだし……。
 あんまり考え過ぎなくても、いいんでないかい?」

 羽生譲の声が、荒野の胸に沁みた。

[つづき]
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