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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(103)

第五章 「友と敵」(103)

「……才賀も今の所に住み続けたいわけだし、利害は一致するだろ?」
 そう締めくくって、説明を一段落する。
 孫子は、頷いた。
 孫子にとっては、それ以外に、「他の人のため」という名分があれば、普段は禁止されている「あの格好」が堂々とできる……というメリットも、ある。
「……で、玉木。
 学校側への対策、なんか思いついた?」
「あることはあるけど……。
 ああ……もう、こんな時間だよ……」
 玉木がそうぼや言ったので、時間を確認すると、予鈴が鳴るまでにもう十分もない時刻になっていた。
 孫子への説明が、予想以上に長くなってしまった。
「……じゃあ、続きはまたの機会だな……」
 なにやら、時間のかかる打ち合わせが必要になりそうな雰囲気を玉木の態度から感じ取った荒野は、
「……続きは、放課後にでも……。
 今度は、茅や楓も呼んでおこう……」
 そういって、メールを打とうと携帯を取り出す。

 そして、美容院の予約をまだ入れていないことに気づいた荒野は、札入れの中から、以前の撮影の時、美容師さんから渡された名刺を取り出し、店の番号にかける。
「あ。どうも……。
 予約を、お願いしたいんですけれども……できれば、今度の土日、どちらか……。
 え?
 いえいえ、一人、ではなく、ですね、その、ちょっと人数が多くなっちゃって……ええ。
 えと……五人、です。
 はい。はい。
 あ。加納です。加納、荒野……え?
 はい。あの、確かにその、その時にお世話になった、加納荒野……ですけど……え?
 ええ。ええ。
 え? ええ?」
 荒野は、大声をあげた。
 めったに取り乱すことがない荒野が困惑した様子だったので、その場にいた三人の視線が荒野に集中する。
「……なんですか? カットモデルって!」

 玉木は自分の携帯を取り出し、荒野が電話をしている最中に、登録してある番号にかけはじめた。
「あ。どうも。写真館のご隠居さんですか?
 どうも、うお玉の玉美です。
 はい。はい。
 あの、今日はですねえ、ご隠居に耳寄りな情報をお一つ……。
 いえ。いえいえいえいえ。
 あの、ケーキ屋さんの時の黒猫さんと白猫さんの兄弟。はい。その二枚目の、兄のほう。はい。
 あの二枚目さんがですねぇ、今度は、美容院のほうでも、モデルさんやるそうなんですよ。はい。いえ、一人だけではなくて、ですね、どうも五人ぐらいのキレイドコロ引き連れていくそうですが……はい。はいはいはいはい。でしょ? でしょでしょ? やっぱり写真に残して置きたいですよねぇ。ええ。ええ。はい。ああ、ちょうどよかった。ご隠居、デジタル一眼レフ買った所なんですが。はい。じゃあ、腕慣らしにちょうどいいですねぇ。はい。では、モデルさんとか美容院の方とか、そっちの手配はこっちで話し通して置きますんで。はい。じゃあ、詳しい日時などは、また詳細が決まり次第。はい。できるだけ早く連絡しますので……」
 電話を切ると玉木玉美は「おしっ!」握りこぶしを握って気合を入れて、荒野が持っていた美容師さんの名刺をひったくり、そこに記載されている店の番号をプッシュしはじめる。
「あ。どうも。わたくし、先程電話した加納荒野君の友人で玉木玉美と申します。偶然、加納君がそちらに電話する所に居合わせまして、カットモデル、という単語に反応してついついこうして連絡してしまった次第で、はい。で、早速ご相談なんですが、そのせっかくのカット、はい、そのままにしておくのはもったいないと思いませんか? 折角の上玉モデルです。できあがった端から、この道ン十年の実績を持つプロのカメラマンに写真に収めていただく、場合によっては、ポスターなんかもこちらで作ってしまいますが……。いえいえ。営業ではございませんよ。はい。お金はびた一文、いただくつもりはございませんから。というのは、ですね。わたくし、地元商店街の住人である関係で写真館のご隠居と親しい間柄でして。はい。ご隠居、最近新しいデジカメ購入したばかりで、いい被写体を探していた所なんですよ……。そう。あの、ケーキ屋さんの時にもカメラマンをしてくださった、あのおじいちゃんです。はい。先程こういう話しがあるんですが、と連絡しました所、それは是非参加して、写真を撮ってみたいと、はい、そういう次第です。はい。はい。わたくしは、玉木玉美と申します。はい。加納君の友人で、駅前商店街の、うお玉という魚屋の娘です。はいはい。はい。はい! では、そういうことでぇー……」

 加納荒野と玉木玉美は、ほぼ同時に通話を切った。
 そして、……。
「……いぇい……」
「……楽しいお友達がいるのね、って、笑われた……」
 加納荒野と玉木玉美は、ほぼ同時にそういった。
 そして、ちょうどその時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 荒野は、五時限目と六時限目の間の休み時間に「放課後、放送室に集合」という内容のメールを、楓に茅に打った。玉木と有働の話しがどれくらいの時間、かかるものなのか、荒野は知らなかったが、二人とも、部活があってもなくても、いつも下校時刻ぎりぎりまで学校に居座っているから、特に不都合はないだろう。
 やがて、放課後になり、掃除の当番に当たってなかった荒野と才賀孫子は連れだって放送室に向かう。
 放送室の前で、一年の楓と合流した。
 楓の話しによると、茅は今週掃除当番に当たっており、少し遅れるという話しだった。
 玉木と有働のほうはまだ放送部に来ていなかったが、孫子の囲碁勝負の件で顔見知りになっていた放送部員たちは荒野たちの来訪を知らされていたらしく、荒野たちを放送室内に招き入れてくれる。
 昼休みの時と同じく、イージーリスニングのBGMを流しながら、時折放送部員が事務的な口調でアナウンスを入れていたが、昼休みに玉木がやったアナウンスの方が数段滑舌がよく、耳に快い、と、荒野は感じる。
 騒がしいし、性格とかにいろいろ問題はあるが、玉木もあれで自分の本領では、それなりにたいしたもんだよな、とか、思った。

 十五分ほど待たされたあげく、コピー用紙の束を抱えた有働勇作を背後に従えて、玉木玉美が放送室に入って来た。
 玉木が、
「……もう、いいよん。
 後はわたしらが代わるから。交替交替……」
 と手をひらひおらさせると、それまで仕事をしていた放送部員たちがぞろぞろと出て行く。
 三学期も半ばのこの時期、部活をしているのは一年生と二年生だが、玉木と有働は、同じく学年の部員たちにも一目置かれているらしい、と、荒野は観察する。
 文科系のクラブは、体育会系とは違って、あまり上下の区別は厳しくないと荒野は聞いていたが……この間の囲碁勝負の件でも、放送部の結束の固さは、間近にもみていた。
 有働がコピー用紙を各人に配っている間に、掃除当番に当たっていた茅も放送部に入って来て、それで、声をかけていた全員が揃ったことになる。
「……いろいろ調べて、何人か先生の考えも、それとなく聞いてみたんですが……」
 有働勇作は全員を見渡してそう切り出した。
「……やはり、対外的には有志によるボランティア活動、というポーズを取ることが、一番、問題がなさそうです……」

[つづき]
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