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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(104)

第五章 「友と敵」(104)

 有働の話しによると、「報酬を目的としない奉仕活動である」という建前を保持しつつ、地道な活動も普段からやっていれば、多分、問題視はされない筈だ……ということだった。
「……それでもクレームがつくようでしたら、それなりに団体としての体裁を整えなければなりませんが……」
 そこまでする必要はないだろう、というのが、有働の見解だった。
「その、地道な活動って、具体的にはどういうことを……」
 孫子が、有働に質問をする。
「すぐに思いつくのは、公道や公共施設美化活動とか……平たくいうと歩道や公園などの掃除ですね。そのほかに、一人暮らしの高齢者の方々への訪問……。
 こういうことを、定期的に巡回して行えば、その付近の人達には確実に顔を覚えられます……」
 地道……というより、えらく地味だな……と、荒野は思った。
「……もちろん、それだけではありません。こういうのは、あくまでベースの話しで……」
 有働は、こほん、と空咳をした。
「……こんなことを数人単位でやっても高が知れています。だから、全校生徒に呼びかけて、希望者を募ります。
 皆さんには、先陣を切っていただき、この活動の顔になっていただきます……」
「……一種のイメージキャラクターだね……」
 玉木が、有働の説明を引き継いだ。
「少しでも内申をよくしておきたい、という生徒もいるし……そういう子たちに、あんまり真面目に、ではなくて、ノリとか流行みたいなイメージでアプローチして行くのよ……」
「ええ。その流行を作るための、イメージキャラクターです……」
 有働が重々しく締めた。
「……それでねぇ……」
 玉木が、悪戯っ子の微笑みをたたえながら、揉み手をせんばかりの勢いで、まくしたてはじめる。
「……昼休みにいってた、カットモデルの件なんだけど、どうせ写真撮ってポスター作るんなら、それを有効活用して、ボランティア促進運動の宣伝ポスターに転用するという意見を、早速具申してみましたところ、お店の方もご隠居のほうも、快く許可していただきまして……あとは、モデルさんたちのご意向しだい、といったところでございます……」
「……おい……」
 荒野のこめかみに、血管が浮いた。
「……それって……おれたちの写真を、商店街近辺にべたべた貼って歩くっていうわけか?」
「……美容院さんにとっては宣伝になる、わたしらにとっては、活動とか人集めの告知ができる……。
 誰にとっても、いい結果を産むタイアップかと思いますが……」
 玉木の顔は笑っていたが、目は真剣だった。
「……カッコいいこーや君にとっては、不本意なのでしょうが……顔を売って、地元でのこーや君たちの心証を良くする……という方針には、十分に沿っているかと思います……」
 荒野は玉木としばらく睨み合った末、荒野が、ふいっ、と目をそらし、話題も微妙に反らせた。
「……でも、ボランティアっていうのを強調し過ぎるると、商店街とかの客寄せなんかは……かなり、制限されるじゃないか?」
「……いえいえ。
 その辺も、ちゃんと考えていますよ……」
 玉木と有働の案は、学校側を納得させる口実を作ることが、が大前提だったのであり、そのため、真面目な有働の生硬なアイデアを軟派な玉木が、資金その他の現実的な諸問題をクリアできるように補正する、という形でブッシュアップしたことが、ありありと分かる形になっていた。
 町全体の美化や独居老人宅への定期的な訪問、などという、ある程度まとまった人数が動かなければならない活動のためのCMキャラクターとして、年末、商店街にあれだけの人を呼び寄せ、マンドゴドラの売上を飛躍的に伸ばした実績を持つ、楓や孫子、茅や荒野を使う。
 その際のPR活動に必要な資金は、タイアップという形で、地元商店街に出してもらう。もちろん、そのかわり、資金を供出してくださった企業のCMも、同時に行う。
「……この辺は、こんどの美容院さんの事例が成功するか否かで、資金出してくださるお店の数も変わって来るだろうと思うけど……」
 今までの例から考えても、大きくこけることはないであろう……と、玉木は見ている。
「……で、今週末からしばらく、試しに商店街でチラシやティッシュを配ってもらうのを考えている訳だけど……」
 そのチラシやティッシュには、「地域ボランティア要員募集」というのと、商店街のお店の情報が併記される、という……。
「……年末のあれ、商店街の方じゃあ、未だに語り草でさぁ……」
 玉木は、荒野たちの顔をゆっくりと見渡して、断言する。
「……何人か、ご近所さんに声を試しに声をかけてみたけど、君らが出張るのなら、協力してくれそうな人、ごろごろおるわけですよ……。
 またなんかイベントやってくれ、って意見も、すごく多くて……」

 玉木と有働との打ち合わせは、下校時刻ぎりぎりまで続いた。
 終始渋い顔をしていたのは香也一人であり、その他の三人は割合に乗り気だった。
「……ボランティア活動は、富者の権利です」
 というのが孫子の言い分であり、
「別に、悪いことではないと思いますけど……」
 楓も、荒野の顔色を伺いながらそういった。
「いろいろな人に、会ってみたいの」
 茅は、そういった。

「……そこまで考えているのなら、もう反対はしないけどな……」
 荒野は、首をふりながら、そういう。
「……で、肝心の、ボランティア要員の方は、集まる当てはあるのか?」
 掛け声だけ、ポーズだと、また、学校側に目をつけられるのではないか……と、荒野は思った。
「そっちのほうは、割合、なんとかなるんじゃないかと思っています……」
 荒野たちの顔をぐるりと見渡しながら、有働はいった。
「試しに、何人か、心当たりに声をかけてみましたが……校内での反応を見ると、ボランティア活動がどうこうというよりも、皆さんと一緒に過ごすこと目当てで参加しそうな方が多そうで……」
 荒野も、有働の視線を追って、茅、楓、孫子……などの顔を見渡す。
『……なるほど……』
 荒野にしてみても、十分に納得できる動機だった。
『外見だけなら、こいつらも……』
 中身……というか、実態を知らなければ、美少女揃いなのだった……。
「……なに、他人事みたいにうなずいているんですか、この、カッコいいこーや君は……」
 玉木が、荒野の背中をバンバンと平手で叩く。
「君目当てに集まって来る女子も、多いんだぞ!」
 玉木にそういわれ、荒野の目が点になった。
「実態を知らなければ……外見だけなら、加納も美形で通りますものね……」
 とは、孫子の伝である。

 その後、
「まずは、試験的に、カットモデルのポスターを何枚かプリントアウトして、美容院の店頭で反響を確認して見る。
 その反響如何では、本格的に経費を集めて宣伝人集めに繰り出す……」
 ということ確認し、
「カットモデルの反響と人集めについては、あまり心配していないんですが……」
 有働は、「その後の、実務的な段取りの方に、若干の不安がある」という。
「……特に最初のうちは、集まって来る人達のモチベーションは、あまり高くないでしょうから……」
 行動を指示する側がモタモタしていれば、「なんとなく」という曖昧な気分で集まってきた連中は、すぐに散ってしまう、ということだった。
「……だから、的確に仕事を配分する、というマネジメントのシステムが、早急に必要になります……」
「それ……茅が、やるの」
 それまで黙って聞いていた茅が、片手をあげる。
「美化、が必要な場所のリストアップは、放送部にまかせるの……」
 そういう情報については、長年、この土地に住んでいて土地鑑がある人達に任せた方が、危なげがない。
「……あと、定期訪問を希望する独居老人宅の調査は……」
 これこそ、人手がいる。
 人海戦術で、一軒一軒聞き込みでもするより他、ない。
 幸い、以前、学校に転入してくる際、クラスメイトたちの身元調査を行った時に見た地図を、茅は記憶に留どめていた。
 玉木から、コピー用紙を一枚もらった茅は、その場で用紙を裏返し、そこの白紙に、
「……どれくらいの人数が揃うのか、今の時点では予想できないけど……」
 と、フリーハンドで学校と駅前周辺の簡略な地図を描きはじめる。
「……線路とこの通りとこの通りを……」
 という具合に、あっと言う間に、学区内の地域をいくつかのブッロックに区分してしまった。
「……それではわたしは、このブロック分けに従って、参加希望者の住所から班割りを編成するソフト、組んで見ますね……。
 自分の家の近所のほうが、ある程度事情も分かっていると思いますし、聞き込みもしやすいでしょうし……」
 茅が描いた完略地図を手にした楓は、ことなげにそういう。
「……それと、その班内での連絡網やスケジュール確認のソフトも、作ってほしいの。
 聞き込み調査時の管制は、茅が一人でやった方が混乱がないと思うけど、調査が一段落して実際に活動を始めるようになったら、参加者それぞれの都合を確認しつつ、調整することが必要になると思うの……」
「はい。
 みなさん、急がしい中、無給で働いてくださる分けですからね……」
 玉木と有働は、てきぱきと実務的な内容を打ち合わせて行く二人を、目を丸くして見ていた。
「こいつら……外見だけが取り柄の、お人形じゃねーから……」
 玉木と有働の様子をみて、荒野は、楽しそうな声でそういった。
 こうした……荒野たちの能力を善用し、それを衆目の元にさらし続ければ……。

 なんとなく荒野は、本当に、自分たちの居場所を確保できるのではないのか……という希望を、うっすらと持ちはじめる。
 まだまだ不確定な要因が多すぎるし……未知の存在に対する偏見や理由のない恐怖、憎悪……といったものを、荒野は過小評価していないので……少なくとも今の時点では、あまりにも淡い希望、ではあったが……。
 それでも、希望は希望、だった。

[つづき]
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