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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(105)

第五章 「友と敵」(105)

 この日が初日の会議だったというのに、随分細かい話しまで出てきはじめた時、最終下校時刻十分前を告げる予鈴がなった。
 後は後日、ということになり、放送室に集まった面々は下校の支度をしはじめる。とはいっても、鞄などは教室から持ってきており、帰り支度といっても、椅子の背もたれにかけていた上着を羽織る程度だった。
 今の時刻まで本格的に部活をやっている生徒たちは、今頃、慌てて後片付けをしているのだろう。

 全員でぞろぞろと下駄箱のあるエントランスまで降りていくと、そこで狩野香也と樋口明日樹の二人と出くわした。その二人が最終下校時刻ギリギリまで部活をやっているのはいつものことで、今日の会議がなければ、楓や茅も、そっちの二人と一緒に帰るのが日課となっている。だから、偶然という程のこともない。
 校門の所で、家が反対方向だという有働勇作とまず別れ、家に向かって歩いている途中で、玉木珠美が、
「そっちの狩野君、年末、マンドゴドラのウィンドウに、ちゃっちゃとペンキで絵を描いていたでしょ?」
 と、香也むけて、切り出す。
 そして、商店街のシャッターを、統一されたペインティングで飾る計画があり、それを香也に依頼しようか、という動きがある、という。
 玉木と香也が交互に放送室で話していた「地域ボランティア」うんぬん、ということを香也に説明し、「その一環で」、香也にもお鉢が回ってきたらしかった。
 作業時間にしてせいぜい数十分、といった短時間の出来事だが、その間、店の前に人垣を作ったことは事実で、同時期に起こっていた楓や孫子のパフォーマンスのほうがやたら派手だったこともあり、あまり注目されていなかった……と、香也は思っていたが、地元商店街の人々は、それなりに記憶にとどめていたらしい。
 玉木の話によると、確かにそれなりのプロデザイナーに依頼した方がしっかりした仕事はしてくれそうだが、それよりも、たとえ素人の学生がボランティアでやってくれる……というほうが、話題性がありそうだ……という意見が、商店街では多いそうだ。
 なによりそうした意見を出したり支持したりしているしている人たちの大半は、マンドゴドラのマスターの求めに応じて、その場でちゃっちゃと即興で描いてみせた香也の姿を実地に見ているわけで、玉木の話しによると、ライブで見ていた人たちの語調は強かった……という。
 香也は、一応、例によって、
「……んー……」
 と唸って見せてから、
「別に、いいけど……出し惜しみする程の、腕でもないし……」
 と、玉木の依頼をとりあえず諒承する。
 香也の色よい返事を得たところで、ちょうど分かれ道にさしかかったので、いかにも満足そうな顔をして、玉木は自宅方面へと去っていった。
 とはいえ、今の段階では、ボランティアうんうんの正否も、まだまだ不確定な部分が多いし、商店街の依頼も、当然、正式なものではない。
 せいぜいがところ、「こういう話しがあった」と打診された程度のことなのだが……それでも香也は、あまり表情には出ていなかったが、なんとなく、頼りにされて、嬉しそうな様子だった……と、荒野は観測した。

 狩野家の前で、ワゴン車を車庫入れしている真理とばったりと出会い、少し立ち話をするうちに、「久しぶりに、ちょっと家でお夕飯食べていきなさい」、と真理に誘われる。真理は今週末からかなり長期に渡って家を空ける、とかで、今日も保存の効く食材を買いだめしてきた所なのだ、という。
 真理にしてみれば、近所にすむ荒野たちにも、留守中のことを頼みたいのだろうな……と察した荒野は、茅と頷きあって、その誘いを受けることにした。
 一旦、マンションに帰って、着替えてから来ます、といって荒野と茅はマンションに戻り、香也のほうは玄関には入らず、そのまま明日樹をおくっていった。

 鞄を置き、着替えて狩野家に向かうと、手早く食事の支度を済ませた真理がすでに炬燵に入っており、夕飯の支度を手伝うつもりでいた荒野と茅は少し拍子抜けをした。
「今日は湯豆腐で、支度、簡単だったから」
 と、真理は笑った。
 羽生譲もバイト先から帰宅して、真理と一緒に炬燵にあたりながらテレビを眺めていた。
 炬燵に入ってお茶を啜っているうちに、自然と今日玉木や有働と話したようなことも真理に話す感じになる。地域ボランティア、ということに関して、真理は特に強い関心を示したわけではなかったが、「若い人たちが自発的にそういうのをやるのは、いいことねー」とは、頷いてくれる。
 直接利害関係のない人の反応は、その程度のものだろう、と、荒野は納得する。
 しかし、五分ほど談笑した後に、真理は、
「……そういえば、そういうボランティアって、ゴミの不法投棄とか、処理できるのかしら?」
 と言い出した。
 真理の話しによると、この近辺にも、いつの間にかゴミ溜めのような感じになっている空き地が、何カ所か、あって、近所の人たちはかなり迷惑している、という……。
「……それは……ちょっと、難しいですねぇ……」
 荒野は、唸った。
 その土地の所有者との交渉、片付けたゴミをどう処理するのか……という、現実的にクリアしなければならない問題が、多すぎる。
 第一……一度片付けても、ゴミを出す側をなんとか閉め出す方法がないと、またすぐにゴミの山になるのではないのか……。
 人手を集めればなんとかなる、という案件では、ないのであった……。
「……そうよねえ……。
 いろいろ、難しいものね、そういうのは……」
 と、真理も頷いく。
「ああいう、目に目障りなものがどーんとなくなっちゃうと、その近所の人たちは喜ぶと思うんだけど……」
 確かに……目立つな……と、荒野は思い……なんとなく、算段を組み立てはじめている。
 ゴミの種類は……実際に現場をみてみてないと分からないけど、再利用が可能な資源ゴミなら、徳川あたりにも相談してみて……処理に費用がかかる場合……。
 荒野が具体的なプランについて考えはじめた時、玄関の方から、「ただいまー!」という声とともに、どやどやと三人組が帰ってくる。
 真理と茅が食器の支度をしている所に明日樹を送りにいっていた香也も帰宅してきて、全員で夕食となった。

[つづき]
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