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彼女はくノ一! 第五話 (63)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(63)

 夕食後の勉強がすむと、香也はそそくさと後片付けをして、庭のプレハブに向かう。勉強に対する拒否反応こそないが、基本的に香也は、自分が好きなことを時間を削られることがあまり好きではなく、楓と孫子が強く薦められることがなければ、自分からは手をつけようとしない。
 だから、二人との約束になっている「一日一時間」の勉強が終わると、香也は、普段のボーッとしたイメージからは想像もつかない機敏な動作で庭にとんでいく。
 そして大抵、その後に、楓がとことこと続いていき、孫子は風呂に入りにいく、というのが、最近のパターンになっている。
 いよいよもって家庭内男女比のバランスがひどいことになった結果、香也の入浴時間は、寝る直前にまでずれこんでいた。何度かの「お風呂イベント」を経験してきた香也は、その辺、かなり慎重になってきている。

 そんなわけで香也は、その晩も庭のプレハブでストーブに火をいれた後、スケッチブックを取り出し、それをイーゼルにたたかけ、無造作に鉛筆を走らせる。
 堺雅史に頼まれた、ゲームのキャラクター画、だった。
 毎日数体づつ、地道にこつこつと描き上げていった結果、ようやく今晩になって、ゲームに登場する人物すべての原案を描きあげるところまでこぎつけた。
 とはいえ、原案はあくまで原案であって、その中で決定稿として採用されたのは、今の時点では、香也が提出したデザインの約三分の一ほどに過ぎず、まだまだ膨大なキャラクターについてのイメージのすり合わせやリテイクの繰り返し作業が残っているのだが、最近では香也のほうが、どういうオーダーがくるのか、他の製作者たちの癖や性向というものを学習してきたので、かなり予想がつくようになってきている。
 香也にとってそうしたゲームの絵というのは、羽生プロデュースの同人誌と同じく、あくまで余技にすぎず、こだわりというものがあまりない……ので、極力、相手に注文された通りのものを提出していた。
 ので、堺以外に顔をみたことのないゲームの製作者たちからは、香也は、かなり評判が良かった。
「頼りにされている」、というよりは、「便利に使われている」という感触ではあったが、顔も見たことのない共同制作者たちが香也に対してどういう心境を持とうが、香也はあまり気にしなかった。
 小一時間ほど鉛筆をスケッチブックの紙の上にすべらせ、何体分かの人物の線画……違った角度から見た全体像と、何パターンかの表情が分かる顔のアップ……を描きあげると、それを見計らったように、楓が、
「……これで、一段落ですね……」
 と、声をかけてきた。

 作業を開始した時期がまだ冬休み中だったため、最初のうちは香也も、プリントアウトした資料すべてに律義に目を通していたものだが……新学期がはじまるとともにそうした余裕もなくなり、ここ数週間は楓や堺雅史の話をもとにイメージを起こしている。
 特に楓は、香也があげた絵をネット上にアップする作業をはじめ、ネットを経由して複数の製作者からかえってきた修正案を整理し、重要な部分だけを香也に伝える、という役割まで、行ってくれている。
 そうした、香也と他のゲーム製作との仲介役を、楓が自発的にやってくれたことで、香也の負担は何分の一にも軽減されている筈だった。
 初期の頃、まだそうしたスタイルに慣れていなかった香也は、複数のゲーム製作者か提出させる、矛盾したオーダーの前でかなり悩んだりしていたものだが、楓が間に入って事前にイメージをすり合わせ、統一したものにしてから、そのイメージを香也に伝えてきたため、香也の労力は、一人でやるときの数分の一くらいに減っていた。
 実際に絵にしたのは香也のだが、シナリオとか資料都下から、その元のとなるイメージを統一させたのは、実質楓であり、こと、ゲームの製作に関する限り、楓と香也の二人一組のタッグで仕事を進めていた、といっても、過言ではない。
 人付き合いに慣れていない香也が、一人で同じ作業をしろ、と言われていたら……おそらく、今と同じ結果をだすまでに、もっと長い……下手をすれば、半年とか一年以上もの歳月を必要としていたことも、十分に想像できた。

 だから、楓は、香也と同じくらい……いや、香也以上に、このゲームのことを知っている。今夜、たった今、香也が描き上げた絵が、どういう区切りになっているのか、ということも、楓は、当然、知っていた。
「……早速、アップしてきます」
 そういってプレハブからでていった楓と入れ違いに、孫子とノリが入ってきた。
 ノリはスケッチブックを、孫子は分厚いハードカバーの本を持ってきている。孫子は多趣味で関心が広いらしく、文芸書や科学系のノンフィクションなども、普段から読んでいる。興味や関心を持つ分野の幅が極端に狭い香也とは、対照的といってもよかった。

 孫子は、早速自分専用の椅子に腰掛けて本を開きはじめ、ノリはスケッチブックを差し出して、今日、自分で描いた分の絵を香也にみせてくれる。
 文字通り昨日今日描きはじめたノリの絵は、描線もひどく硬かったし、絵というよりも眼にしたものの輪郭を正確に描きこもうとした後がありありとみえ、ひとことでいうと写真の出来損ないのような素っ気ない絵だった。
 香也は、
『……もっと、子供らしい……はっちゃっけた書き方をしてもいいのに……』
 と、思わないでもなかったが、その辺の印象については特に語らず、
「……んー……」
 と少し考えてから、陰影の付け方や遠近法のおかしな所を二三、指摘するにとどめた。
 ノリのほうは、ひどく真剣な面持ちで身を乗り出し、香也の言葉を一言も聞き漏らすまいと聞いている。最後に香也が、
「そんなにしゃちほこばらずに……もっと、描きたいように描いてもいいと思うけど……」
 といって締めくくると、ノリは、ぱっ背を反らせて、香也の顔から遠ざかった。
 初めて、自分が身を乗り出して、ひどく香也に顔を近づけていたことに、気づいたらしい。
「……や。あ。あ……」
 ノリの頬は、紅潮していた。
「こ、これ……まだ、眼鏡になれてなくて……つい、近づいちゃっただけで……」
 誰もなにもいっていないのに、慌ててそう取り繕い……ノリは、身を翻して、軽々とした足取りで、プレハブから出て行った。
「……あ……ノリちゃん……スケッチブック……」
 取り残された香也の、呆然とした声が背後から聞こえてきたが、ノリは振り返らない。

「……わたくしが、返しておきます……」
 結局、孫子が読んでいた本を閉じて、香也の手からノリのスケッチブックを受け取り、ノリの後を追った。

[つづき]
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