第五章 「友と敵」(113)
話していて荒野が一番驚いたのは、茅の反応についてで、例によってあまり表情には出していないので表面的には解りづらいかったが、茅はかなり乗り気になっているようだった。少なくとも、玉木たちが漠然と期待しているような「客寄せマスコット」に収まっているつもりはないらしい……と、荒野は、判断する。
荒野にしか判別できないのかもしれないが……微妙に、茅の表情が……年末、ネコ耳メイド服姿で商店街の特設ステージに乱入した時と似たような雰囲気に、なっている……。
……今度はどうか、あまり過激なことは考えていませんように……と、荒野は祈った。
その荒野の危惧を裏付けるように、一通りの打ち合わせが終わると、茅は、楓についてパソコン部員たちの待つ実習室へと向かっていった。楓はともかく、茅があそこにいく必然性はあまりないように思えたが……荒野はなにもいわず、二人を見送る。
茅がなにを考えていようとも……少なくとも、悪いことではあるまい……と、無理にでも、そう思うことにする。
そのまま美術室に残っても香也たちの邪魔になると思ったので、荒野は、玉木たちについて放送室に向かう。今回のボランティア関係の作戦については、荒野自身も首謀者の一人だったし、まだまだ打ち合わせが必要なことは山ほどあった。
玉木と有働が放送室に入ると、放送室にいた生徒たちは申し合わせたように、
「……では、あとはお願いします……明日の準備があるんで……」
と頭を下げて出ていった。
「……明日の準備って、なにがあるんだ?」
「……カッコいいこーや君、忘れたのかね?
明日は、君たちがカットモデルさんをやりに行く日じゃないか……」
玉木が、半ば呆れたような声をだす。
「映像班は、明日の機材の準備に入っているよ……。
ご隠居のテク盗むんだ、って息巻いているのも多いから、彼らにしても、ご隠居のアシスタント作業は、いい刺激になっている……」
なんだかよく解らないが、士気だけは高い……ということだけは、荒野にも理解できた。
玉木の話しによると、今度卒業する三年生を除いても、放送部員は全部で二十余名おり、文化部の中でも一番人数が多く、玉木に代表される派手なイベントが好きなタイプと、有働に代表される地味な裏方作業がちょうど半々くらいで、いい具合にバランスが取れている、という。
「……で、その派手なイベント好きが、明日、美容院にくるわけか……」
荒野はため息をつく。
喜ぶべき所なのか、それとも、本心では目立ちたくないと思っている荒野にとっては、悲しむべき所なのか……判断が、難しかった。
「そっちに行かない人達は、手分けして、不法投棄ゴミのマップを作成するための調査をはじめます……」
有働がそういいかけた時、
「失礼します」
という声とともに、女生徒先頭とした十人前後の生徒たちが、放送室に入って来た。
「君たちは……パソコン部の……」
以前、囲碁勝負の時に協同作業の経験があったので、放送部員とパソコン部員とは、お互いに面識がある。
「はい。パソコン部の、斎藤遥と申します」
先頭の女生徒が、はきはきと答える。ネクタイの色から判断すると、香也や茅、楓と同じ一年生のようだが、態度や挙動に物怖じしているところを感じさせず、実に堂々としていた。
「加納さん、松島さん経由でボランティア関係のお話しを、かなり詳しく、聞かせていただきました。」
斎藤遥は、「かなり詳しく」の部分を特に強調して発音する。
『……かなり突っ込んだ所までばれているな……』
と、荒野は思った。
茅が自主的な判断で内情をばらしたのか、それとも放送部員たちの疑問に答える形でぶちまけたのかまでは、判断できなかったが……。
「……いろいろ構想や思う所はおありでしょうが、今、加納さんと松島さん、それに、パソコン部員の有志は、将来必要になりそうな複雑なシステムの構築に着手した所です。
システムの規模と使える人員が限られていることから考えて、そちらが使えるようになるまでには、数日から数週間の時間がかかるものと予測されます。
こちらに来たパソコン部員は、放送部が予定しているという、不法投棄ゴミをネットで公開するためのお手伝いをするために来た、有志の者です。
今、実習室で動いている別同班ほどにはプログラム関係の知識がない者ばかりですが、それでもネット関係のことにはそれなりに詳しいので、微力ながらお手伝いをさせていただきます……」
この斎藤遥という生徒は、口上の歯切れが良いだけではなく、言っている内容も論理的で、淀みがない……。
『……結構、いい人材かも……』
荒野は、そう思う。
専門的な知識や技能をもつ人間も必要ではあるのだが……こうした、理路整然とした知性と泰然とした心性を合わせ持つ人材は、放送部とパソコン部の橋渡しとしてふさわしいように思えた。
この手の交渉役は、おどおどしていても駄目、強気すぎても駄目、で……特に放送部には玉木という一見ハイテンションな人材がいるから、そっちに振り回されずに、できることは「できる」といい、できそうもないことは「出来ない」と断言することが出来る性格の人間でないと、務まらない……。
「ご足労様です。
こちらこそ、よろしくお願いします……」
有働が、やってきたパソコン部員たちに向かって、深々と頭をさげる。
有働は、体こそでかいが、誰にでも礼儀正しく腰が低かった。
その有働が、自分の手で部屋の隅に立て掛けてあった折り畳み椅子を、やってきたパソコン部員の人数分、広げ始める。もちろん、荒野や玉木も、すぐに手伝った。
椅子が全員に行き渡り、さほど広くはない放送室が鮨詰め状態になるのを確認して、有働は今のところ考えている構想を、滑らかな口調で説明しじめる。
「……大体のことをお聞きになっている、ということで、概要の説明は省かせていただきます。
長期的な準備はすでにはじまっている、とのことなので、当面、すぐにでも必要になりそうなところから、早速説明に入らせていただきます……」
あわてて玉木が、荒野たちに配ったのと同じプリントアウトを、あるだけ回しはじめた。いきなりのことで人数分は用意していなかったから、受け取ったパソコン部員のほうは、回し読みに近い状態になる。
それでも集まったパソコン部員のほうは、真剣な表情で一通り有働の説明を聞く。
有働の説明が終わると、若干の質疑応答の後、パソコン部から、かなり活発に提案が奔出した。
そのひとつひとつに、有働が細かくコメントを返して行く。
いろいろ意見を交換した結果……。
当面、「不法投棄ゴミ」方面の問題は、調査とその報告を大々的に行う、というところからはじめる。
調査結果を公表する方法として、掲示板、ネット、校内放送、チラシ……などを適宜使い分ける。
パソコン部が担当するのは、そのうちネットでの広報部分。これは、ブログとCGI抜きのWEBページとの併用を予定。
学校や教師側の説得や、活動に必要な許可を得ること、などは、放送部が行う……。
などの事が、あっという間に決定した。
そうやって熱心に話し込むうちに、玉木の携帯から「ダースベイダーのテーマ」のメロディが流れはじめた。
「ありゃ……もう、こんな時間……」
玉木は携帯の画面をみてそういい、
「……ちょっくら放送するから、静かにしててね……」
と辺りを見渡して、告げる。
返事も待たずに、マイクのスイッチを入れ、
「……全校生徒の皆さん……最終下校時刻、三十分前になりました……まだ学校に残っている生徒、部活動などを行っている生徒は、後片付けや着替えなど、帰宅の準備をはじめてください……」
と、この学校の関係者なら誰もが聞き慣れた声で、アナウンスをしはじめる。
マイクのスイッチを切ると、玉木は振り返り、
「……ということだから、そろそろ帰りの支度をしよう。
今回のは、急げば今日明日にでもどうにかなる問題じゃないし……とりあえず、明日やることは、今日の話し合いで決まっている訳だから……残りは、明日以降、またみんなでにじっくり考えようよ……」
玉木の提案に異論を挟む者はなく、その日はその場でお開きとなった。
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つづき]
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