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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(114)

第五章 「友と敵」(114)

 下校時刻ギリギリに下駄箱の前に降りて行くと、ちょうど楓や茅、それに堺雅史や斎藤遥などのパソコン部の面々が、たむろしているところだった。そちらも、時間一杯まで今後のことについて話し合いを行っていたらしい。
 荒野が茅や楓から、別れた後の情報を収集している間に香也と樋口明日樹もでてきて、自然と集団で下校しようということになった。
 校門を出る前に、まず駐輪場に向かう生徒と徒歩組とで別れ、校門前で、さらに大多数の生徒たちと別れることになる。
 結局荒野と一緒の方向に帰る者は、荒野と茅、楓、香也、樋口明日樹、それに玉木と、いつもの顔触れになる。
 玉木の話によると、学校に通う生徒たちの家庭は、役場や会社に籍を置きながら自分の家の田畑を守っている、いわゆる兼業農家が多く、純粋なサラリーマンや玉木の家のような自営業は、どちらかといえば少数派である、ということだった。
 もっとも玉木は、田畑を潰して造成された住宅に住んでいる生徒たちも多いので、駅と反対側に帰った生徒すべてが、そういう家庭の子たちではない、とも付け加えた。
 そういえば、堺雅史はちょうど荒野たちとは反対方向に帰宅していったが、この前、堺の隣りにある柏あんなの家を訪ねた、という孫子の話によると、その辺の一角は、同じデザインの家が何十軒もずらずらと並んでいる典型的な建て売り住宅地だったそうだ。
 なんの用事があって孫子が柏あんなの家を訪問したのか、ということまでは、荒野は聞き及んでいない。

 帰り道でパソコン部の方の進展を楓と茅から聞く。
 大きな進展はなかったが、士気は総じて高い、という印象を、茅も楓も持っていた。
「こういう世の中だから……早いうちから手に職をつけたいと思っている子、パソコン部だけはなくて、割合に多いよ……」
 と、玉木がさりげなく説明してくれる。
 一家の大黒柱がリストラされて、家庭全体の収入が激減している生徒も、少なくはないらしい……。
「だから……危機感があるっていうか、必死で技術を身につけようとしている子は、多いと思う……」
 そういう生徒にとって、今回の件は、大規模なプロジェクトを一から係わりあいになる、実習のいい機会なのだろう、と、説明された。
 
「……今日、少しお金使い過ぎたの……」
 玉木の説明が一段落すると、実習室のパソコン経由で、ネット書店に技術書を大量に発注した一件について茅から報告される。
「絶対に、無駄遣いではないの……」
 その件について一通りの説明をした後、茅はそう付け加えるのを忘れなかった。
「……それはいいけど……」
 茅が使った金額は、確かに決して少額とはいえなかったが、そんなことは些事だと荒野は考える。荒野個人名義の資産も、それに、必要経費用として涼治から預けられている金額にも、まだまだ余裕がある。
「茅……今度はコンピュータ、本格的に使いはじめるのか?」
 茅さえその気で学習しはじめれば、例によって、物凄い速度で知識を吸収してしまうのだろう。
 茅は、こくん、と一つ頷いてから、
「そろそろ体系的に、学習したいと思っていたところなの……。
 解らない所があれば、楓や篤朗に聞けるし……」
 ……茅は、日々、自分の意志で成長していく……と、荒野は思った。

 商店街に抜ける道で、玉木が荒野たちと別れようとするのをみて、荒野は急に冷蔵庫内の在庫状況が心配になってきた。そういえば、まだ今日は買い物に行っていない……。
 荒野は茅と手短に話し合い、香也や楓たちと別れて、玉木の後を追うようにして商店街のほうに向かう。商店街に向かいながら、茅と今夜の夕食の献立のことを話し合う。
 商店街につくと、顔見知りになった店員さんたちと挨拶を交わしつつ、いつものようにてきぱきと必要なものを買って行った。
 荒野たちが二人で、あるいは単独で、学校帰りにここによることも、珍しい光景ではなくなっている。常連さん、ということもあり、いつも商品を多めに包んでくれるお店が多かった。

 買って来た食材を冷蔵庫に放り込んでから服を着替え、二人で夕食を作って、食べる。このように二人きりになる時、以前なら茅は黙々と手だけを動かしていたものだが、この頃の茅は、ぽつりぽつりと様々なことを話すようになってきている。
 それは、荒野がその場にいないときに茅が遭遇した出来事であったり、共通の知人たちの言動についてだったりする。もともと茅は、正確無比な記憶力を持っている。話題には事欠かないはずだったが、それまでそうしたおしゃべりをしてこなかったのは、一つにはやはり、学校に通うようになる前は、世界が狭すぎた、ということ、もう一つは、覚えている事柄を、どこまで詳細に語ればいいのか、経験に乏しい以前では、判断材料がなかったこと……の二点が、原因になっているのではないか……と、荒野は見当をつけている。
 学校に通うようになって、直接間接に茅と接触する人数が格段に増え、同時に、茅のほうも手本となるべき観察対象に多数接触しているわけだから、茅の態度が普通の少女に近づいてくるのは当然のことだ、と、荒野は考える。
 茅自身も、こうして荒野と二人きりで話している時、荒野の反応を観察して、自分の話し方が不自然ではないか、チェックを行いつつ、日常会話の練習をしているような節もあった。
 その成果かどうか、例えば登下校時など、茅は、以前より他人と話す回数が多くなっている。また、こうして荒野しか周囲にいない時の会話にも、荒野があまりよく知らない茅のクラスメイトの名前が出る回数も、徐々に増えている。
 それらの兆候から、荒野は、茅が普段接している学校の友達などへ、徐々に関心を持ち始め、観察し、彼らにとけ込もうと希望している……という予測をたてる。
 完璧すぎる記憶力ほどではないにせよ、学習能力のほうについても、茅はかなり高い適性を示しており、茅が学校の友達とごく普通に軽口や冗談をいって笑いあったりする日もそう遠くないのではないのか……と、荒野は予測する。

 この前の検査結果をコピーして回してくれるよう、頼みにいった時、三島百合香は、こんな仮説を話してくれた。
 茅が、一見するとポーカーフェイスで感情の起伏が読み取りにくい理由は、茅の感受性が普通よりも鈍いわけではなく……常人よりもきめ細かなセンサーを持ち、絶えず膨大な情報の波にさらされている茅が、全身で受け止めた情報を処理するのだけで手一杯で、感情に合わせて顔面をコントロールところまで、手が回らないからではないのか……。

 三人とともに、三センチ角の表皮を剥がしてそれを詳細に調べた結果……茅の皮膚にだけ、平均値の倍以上の密度で汗腺が並んでいるのが、観測された……という。

 そうした検査結果から類推すると、茅の神経網のほうも、平均値以上に「密度が濃い」可能性がある……。
「……もっとも神経ってやつは、骨とは違って、とってもスキャンしにくい細胞だからな。
 そんな仮説たててもなかなか確かめる方法はないんだが……でも、舌の写真を撮って拡大すれば、味蕾の密度くらいは確認できるか……。
 茅が温度差や皮膚感覚に鋭敏だ、ってことは、今までの茅の言動とも一致するし……」
 三島はそういって肩をすくめた。
「荒野……お前さんと茅とやっている時、茅、普通の女のより、激しく反応してたりしてないか? ン?」
 ……荒野は問答無用で三島の頭を叩きたい衝動に駆られたが、実際にはこういっただけだった。
「おれ、茅以外の女、よく知らないんで……普通の女の人があれをする時、どれくらい反応するのか、よくわかりませんよ……」
 続けて、
「それじゃあ、一度、わたしと試してみるか? ん?」
 などという寝言を三島がいったので、今度こそ荒野は三島の頭を叩いた。

[つづき]
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Comments

>共通の知人たちの言動についてだったりするの。

・・・地の文章が、茅の口調風になってます。

  • 2006/06/28(Wed) 22:19 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

ご指摘、感謝なの。

修正して起きました。
なんでここに茅口調か?!(笑)

  • 2006/06/29(Thu) 18:53 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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