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「髪長姫は最後に笑う。」 第五章(115)

第五章 「友と敵」(115)

 夕食が終わって後片付けを済ませた後、茅は自分のノートパソコンをリビングに持ち出して、猛然とキーボードをタイプしはじめる。その速度は荒野があきれるほどで、後ろから覗き込むと、いくつものウインドウが凄い勢いで開いたり閉じたりして、その中では茅の指の動きに合わせて、これまた凄い速度でだーと文字が流れていく。
「……あのー、茅さん……」
 荒野が眼を点にして茅に声をかけると、そのことを予期していたのか、茅は振り返りもせずに、
「……学校で覚えた知識を、実際に試しているところなの。
 これだけでは足りないから、荒野のマシンも貸して……」
 慌てて荒野が自分のノートパソコンを持ってきて開くと、茅は電源をいれて立ち上げ、両手を、二つのマシンのキーボードに置き、左右同時にタイプしはじめる。驚いたことに、両手で一つのマシンを操作していた時と、タイプする速度は変わらないように見えた。
 茅は、真剣な表情で、左右に置いた二つのパソコンの画面を等分に見ながら、どちらのマシンでも別個の処理をさせているらしく、忙しく流れ変わっていく、画面に表示させられ内容は、二つのマシンでまったく違っていた。
 荒野は、ただただ驚愕して、その様子をみていた。
 ……そういえば、荒野は、茅がパソコンを操作する現場を目撃するのは、これがはじめてだった……。

「ふう」、と息をついて茅が顔を上げたのは、茅が作業を開始してから二十分ほどたってからだった。
 軽く息をつくと、茅は、今度は自分の携帯を取り出し、メールを打ち出した。
 携帯のボタンを指で押しながら、茅は顔も上げずに、
「……今までの復習は終わったから、楓を読んで新しいことを教えて貰うの……」
 と、傍で様子を見守っていた荒野に説明した。

 茅が呼び出しのメールを送ってから五分もたたないうちに、楓が、マンションの玄関口にたっていた。ただし、楓一人ではなく、ガクとテンを後ろに連れていた。ガクは手ぶらだったが、テンは厚みのあるノートパソコンを抱えている。
 小柄なテンがそうしたゴツいマシンを抱えている様子は、かなり危なっかしく見えた。
 茅が紅茶を入れる間に、今朝の秦野の一件について楓に説明がてら、軽く話す。
 テンは、荒野が秦野や監視している連中の目測を狂わせる目的で故意に三人をけしかけたことを見抜いており、そのことについて、表面上ぶーたれていた。しかし、あまりしつこく追求してこなかった、ということは、テン自身も、「今の時点でむざむだ敵を呼び込むような真似をすることはない」という判断自体は、支持しているようにみえた。ただし、そのための引き立て役として自分たちの性格が利用されたことに関しては、かなり不満を残しているようだったが。
 その件で、大ポカをやった張本人であるガクは、荒野やテンの思惑など想像だにしていなかったようで、軽く解説してやると、「ええー!」と大声を上げて驚き、その後、テンに冷淡な態度を取られると、みるからに悄然とした様子で肩を落とした。それはもう、しょぼーんとした様子で、見ている荒野が可哀想に思ったくらいのうちひがれようだった。
『テンは思慮深く、ガクは短慮……』
 荒野としては、以前からの観測結果と一致した反応に満足することにした。

 楓と茅が、もともとこの部屋にあった二台のパソコンでわいのわいのいいながら「学習」をはじめると、テンも自分で持ち込んできたマシンの電源をいれ、二人の横に陣取って、見よう見まねで操作をはじめる。見よう見まね、といっても、テンも茅と同様、見聞したことを遂一正確に記憶する体質である以上、それは通常の学習となんらかわりはない。
 テンが持ち込んだマシンは徳川から借りた物で、テンは、荒野と茅のマシンが無線LANでネットに接続していることを知ると、自分のパソコンの設定を即座に切り替えて、自分のマシンでも、この部屋でネットに接続できるようにした。
 楓が示したダース単位のアドレスを参照しながら、茅とテンはネット上の情報を猛然と「読み込み」はじめる。
 茅が先ほどと同じような高速度で指を動かしはじめると、テンもそれにならった。茅に出来ることは、だいたい、テンにも出来る……ということらしい。
 二人が操作するパソコンのディスプレイが、めぐるましくウィンドウを開閉して点滅する。
 最初のうち、教える立場だった楓も、すぐに能動的に動き、めぼしい情報を検索して片っ端から走査しはじめた二人に置いていかれた形になり、ついには干渉を諦めて、荒野の隣に座って冷めかけた紅茶を啜るようになった。

「なあ、かのうこうや……」
 その頃、ようやく立ち直ってきたガクが顔を上げて、荒野に話しかけてくる。
「ボクたち……一族って人たちのこと、全然、知らない……。
 よかったら、今、話してくれないかな……」
「……いいだろ……いい機会だしな……」
 荒野は頷いたが、いざ改まって話すとなると、話せることはあまりない。
 佐久間ほど極端な秘密主義も珍しいのだが、六主家は完全に利害が一致しているわけではない。だから、当然、それぞれの血族外へ漏れてくる情報も、かなり限られたものだった。
 いつ敵にまわるか分からない相手に向かって、そうそう手の内を曝すわけにはいかないのだった……。
「だから、おれが知っていることも、かなり限られているんだけど……」
 そう前置きして、荒野は自分自身が今までに見聞してきた他の一族の者について、話し出す。
 独立心が強く、他の一族に依存するよりは一般人に紛れて暮らすのをヨシとする野呂。
 独立心が強い……というよりは、気まぐれで、次の行動が読みにくく、しかし、単体での戦闘能力は極端に高い二宮。
 逆に、最弱といわれ、自らもそのことを認めながらも、蓄積してきた知識と多数の一般人勢力をも抱き込んだコネクションの力で他の六主家と対等以上に渡りあっている姉崎。
 なにかと謎が多く、なかなか実態が掴めない佐久間……。
 そうした一族の者の中で……荒野が今までに関わってきた人々のことを順々に語っていくと、いつの間にか手持ち不沙汰になった楓も、ガクと一緒に真剣な顔をして聞き入っていた。荒野の話しが進むにつれて、ガクの表情は、真剣と言うよりは、なんだか痛ましい話しでも聞いている時のような、泣きそうな顔になっていった。
「……かのうこうやぁ……」
 荒野の話しが一区切りすると、ガクは今にも泣き崩れそうな顔をして、荒野にそういった。
「お前……今ではのほほんとしているけど……ついこの間まで、悲惨な、とんでもない生活していたんだなぁ……」
 どうやら、同情してくれているらしい……と気づいて、荒野は苦笑いしたい気持ちになった。
「……おれ、ここに来る前の生活、これっぽっちも悲惨だなんて思っていないけど……」
 荒野は、平然とした顔をして答える。
「おれら、プロフェッショナルだから。
 例えば、一般人がおれらと同じ仕事をしようとしたら……多分、もっと多くの血が流れ、もっと悲惨なことになる……。
 その点、何百年かのノウハウを持つおれら一族がやれば、最小限の犠牲ですむわけだから……」
 一族の者は、総じて自分の技と力量に自負と矜持を持つ傾向がある。
 ……おれ自身も、例外ではないようだ……と、荒野は皮肉に思った。

[つづき]
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