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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(52)

第六章 「血と技」(52)

 校門前の持ち物検査で引っ掛かったのは、結局、楓だけだったが、順番待ちをしている間に、荒野は、いやというほど他の生徒たちから好奇の視線を浴びることになった。週末のことを考えれば、無理はない……とは思うのものの、幼いころから「目立たないように」と躾けられてきた荒野にしてみれば、居心地が悪いくて仕方がない。
 土曜日の件で正体を暴露したのは荒野だけであり、視線は主として荒野だけに集中している。
 楓、茅、孫子あたりにも別の意味で男子生徒の注目を集めている、これは彼女らの容姿が原因となった不純な好奇心によるもので、以前と変わらない反応であり、無視しても構わない。
「……あのぅ……」
 そうこうするうちに、たまたま近くにいた二人連れの女生徒が、声をかけてきた。より正確にいうのなら、寄り添うように立っていた二人組の女生徒のうち一人が、おずおず、といった感じで荒野に声をかけてきた。
 どちらも見覚えない顔だが、ネクタイの色をみると、一年生だった。
「加納先輩……ニンジャって、本当ですか?」
「本当」
 荒野は、できるだけさりげなく、頷く。
 昨日の説明会で正式にカミングアウトしているとはいえ……こうして、一般人に白昼堂々と身元を認める……というのも、慣れていない荒野にとっては、奇妙な感覚を呼び覚ますのであった。
 荒野の返事を聞くと、二人組の女生徒は、「きゃー!」と黄色い声をあげながら去っていき、後ろの方にいた十人ほどの一年女子の団体に合流する。
「やっぱ、本当だって……」
「あの人、前々からただものじゃあないって思ってたのよね……」
「……ネコミミでガイジンのニンジャですか!」
 などと、その集団の方から声が聞こえる。
「……まあ、おにいさん……。
 あんま、気にするな……」
 一部始終を目撃していた飯島舞花が、ポン、と荒野の肩に手を置いて、そう慰めてくれた。
「ああ……どうせ、ああいうのもすぐに飽きると思うし……」
 荒野は舞花にそう返して、肩をすくめる。

 何分か待たされた後、ようやく校門を通過してからも、荒野の姿を認めた生徒たちのうち、少なからぬ者が、荒野を指さして何事か囁きあっている。荒野はなるべく気にしない振りをして、自分の教室へ急いだ。
 孫子や明日樹とともに教室に入ると、それまで騒然としていた教室内が、瞬時に、しん、と静まり返ってしまった。
 この程度の反応は予測していたので、荒野は平気な顔をして、自分の席につき、最初の授業の準備をはじめた。
「……加納君、加納君……」
 クラス委員の嘉島が、荒野の席に近づいて来る。
「……いろいろあると思うが……できるだけ、力になるから……。
 運動部の関係者は、だいたい、君の味方だ……」
 そう、いってくれた。
 嘉島は、部活の関係でも付き合いのある。クラスメイトの中でも比較的会話をする機会の多い嘉島がそういってくれたので、荒野はかなり気が楽になった。
「……なに? 加納君……なにかあったの?」
 一緒に登校してきた樋口明日樹が、いまさらながらにそう聞いてくる。
 そういえば……明日樹は、昨日の説明会にもきていなかったし……登校時も、荒野から少し離れたところで、香也とばかり話していたような気がする……。
 同じく、説明会に来ていなかった弟の大樹は、どこからか噂を仕入れて来たようだったが……明日樹は、そういう噂話をわざわざ伝えてくれるような友人に恵まれていないのか……あるいは、週末は家に籠もって勉強でもしていたのかも、知れない。
「ええと……」
 荒野は、それなりに親しい明日樹を前にして、どのように説明すべきか、しばらく思案して……結局、事実を淡々と伝えることにした。
 周囲の生徒たちが、静まり返って荒野の返答を待ち構える気配を、ありありと感じる。
「おれ……実は、忍者の本家筋の者で……。
 週末、いろいろあって……その正体が、学校のやつらにばれちゃったんだ……」
 荒野はできるだけさりげない口調でいったが……。

 樋口明日樹が反応する前に、周囲で聞き耳を立てていた生徒たちが、「……うぉおぉぉぉおぉぉおっ!」と、どよめいた。
「聞きました、奥さん、あのさりげなさ!」
「あれだけのこのことをして……いろいろあって……で、すませているよ、この人!」
「前々から思っていたけど……謙虚だよ!」
「あれだけのことをして、身を呈していて……いろいろあって、だって!」
 ……ここにきて……荒野は、土曜日の自分の行為が、一種の美談、として伝わっているのを、知った。昨日の説明会の……特に、徳川の説明……の、効果なのだろう……と、荒野は推測する。
 いつの間にか、教室内の生徒たちが、荒野に注視していた。
 男子生徒は羨望、女子生徒は憧憬……を込めたまなざしで、荒野に視線を注いでいる。
 顔を売り、一人でも多くの地元住人の好感度をあげる……という方針の通りの成果をあげつつある訳だが……やはり、荒野は、こういう雰囲気は苦手だったし、それに、こうした突発的な熱狂は……醒めた後の反動も、怖かった。

「……い、いや……だいたい、事情は、飲み込めたし……信じないわけには、いかないようだけど……」
 一方、樋口明日樹の方は、引きつった顔で荒野にいう。
 なにしろ明日樹は、忍装束の楓が香也の上に降ってきた時から、荒野たちとつき合っている。身近な存在であるわりに、荒野たちの事情を全く知らされていなかった……というのが、樋口明日樹の立場であった。もっとも、明日樹の性格であれば、いきなり非現実的な説明を受けたとしても、素直にそれを理解できたとも思えないのだが……。
 今まで、機会に恵まれないせいもあって、詳しい事情は話していなかったものの……不審を覚えてきた細々とした事柄を、頭の中で反芻し、整合性を検証しているているのだろう……と、荒野は、複雑な表情をしている明日樹をみて、その心情を推察した。
「詳しい話しは……またの機会に……。
 もうすぐ、朝礼だから……」
 与えられた情報をどう消化したのか、しばらく硬直していた明日樹が小さな声でそういうのと同時に、朝のホームルーム開始五分前を告げるチャイムが鳴った。
 月曜の朝は、ホームルームの代わりに朝礼がある。
 生徒たちはばらばらと廊下に出て、冬の間、朝礼の会場となる体育館へと向かいはじめた。

 校長先生の談話は、いつもと同じく、内容が薄いわりには長々と続く。その週以降も、その校長先生の談話と同じく、退屈ではあってもとりたてていつもと変わらない平穏な日常がいつまでも続くことを……荒野は、祈った。

[つづき]
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