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彼女はくノ一! 第五話 (171)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(171)

 乗ってきた単車については、「後で取りにきます」ということで、四人は、引き続き、山ほどの荷物を抱えてよたよたとした足取りで、楓たちの後をついてきた。
 商店街の外れで、
「……ちょっと待って……」
 と茅が皆の足を止める。
 まだこれ以上、荷物を増やすのか……と顔を強ばらせる四人組をよそに、茅はとことことマンドゴドラの中に入った。
「荷物を持ってくれたお礼に、ケーキを御馳走するの……」
 店に入り際に、そう言い残して、茅は中に消え、五分もしないうちに大きな箱を抱えて外に出てきた。
「……ケーキ、っすか……」
 鈴木君が、呟く。
「甘いもの、駄目?」
 茅が、首を傾げる。
「いいえ! 滅相もない!」
 身を乗り出して、茅の言葉を否定する田中君。
「疲れた時には、甘いものが一番っす! なっ! みんなっ!」
 いかにも軽薄な笑顔を浮かべて、同行者に賛意を求める。
 ……楓は、田中君のキャラは、実に分かりやすい……と、感じた。もちろん、口に出してはなにも言わなかったが……。

 全員でてくてくと歩いていって、まずは楓が鍵をあけて、狩野家の居間に入る。一旦そこで荷物を置いて、荷物を狩野家で使うものと荒野たちが使うものに二分し、後者を、再び荷物持ちに持たせる。
「……着替えて、お茶の準備をしてくるから、楓は、お湯を沸かしておいて……」
 といいのこして、茅は、お供の衆を引き連れて、すぐに席を立った。
 ……なんか……茅は、他人に命令をする姿が、様になっているな……と、楓は思った。
 つい今しがた、顔を合わせた「お供の衆」も、特に意義を唱える訳でもなく、それが当然、といった顔をして、唯々諾々と茅の言葉に従っている。
 佐藤君、田中君、鈴木君が茅の後に従い、楓よりも年下に見える高橋君が残った。
「……なにぃー……。
 誰か、お客さんが、来てるの?」
 眠そうに、目を擦りながら、茅と入れ違いにガクが入ってくる。

「……そっかぁ……」
 高橋君から一通り、今日の出来事について聞いたガクは、盛大な欠伸をした。
「一族の人達がどんどんくるようになるのなら……ますます、一日でも早く、傷を直したいなぁ……」
 高橋君が話している間も、楓は、制服を着替えたり、薬缶に水をいれて火をかけたり、と忙しい。茅がお茶をいれる、ということは、茶器を暖めるためのお湯も用意しなければならない、ということでもあった。
『……茅様、またあの格好で来るんだろうな……』
 そんなことを思いながら、居間に戻った楓は、炬燵の中に手足を潜り込ませる。
「……あっ。羽生さんにも、お夕飯の用意できてるって連絡しておかないと……」
 楓は、携帯を取り出して、簡単な文面のメールをうちはじめた。
「……今日は、なんなの?」
 高橋君の話しに聞き入っていたガクが、楓に尋ねる。
「そこの高橋君たちが、カニを沢山、買って来てくださったんですよ……」
「……カニーッ!」
 楓が答えた途端、ガクは、絶叫した。
「なに、それ! ボク、食べたことないよ!
 楓おねーちゃん、それ、どうやって食べるの? おいしい?」
 ガクにまくしたてられ、楓は少し引き気味になる。
「……そ、そういえば……お料理の方は……茹でる、くらいしか思いつかないですねぇ……誰か詳しい人に……」
「……センセ! 先生、呼ぼう! あの人、こういうこと詳しいよ!」
 ガクは、楓の返事を待たず、自分の携帯を取り上げて、電話をかけはじめる。
「……お邪魔するの……」
 その時、玄関の方から、茅の声が聞こえた。
 居間に入って来た茅は、案の定、メイド服姿だった。
 高橋君が目を丸くしているのにも構わず、茅は楓に問いただした。
「……楓。お湯は?」
「もうすぐ、沸く頃です。たっぷり用意していますよ……」
 茅は、こくりと頷くと、茶器の入った箱を抱えたお供を連れて、台所の方に向かう。
 お供を従えている方も、従えられている方も、すでにその状態が当然、という顔をしている。
『……な、なんだかなぁ……』
 と楓は思った。
「……ね、マンドゴドラの箱が、ここに追いてあるんだけど……」
 ガクが、炬燵の上に置いてある箱を指さして、声をあげる。今すぐ開けて、中身をいただきたい……という願望が滲み出た声だった。
「……それは、荒野の手下を餌付けするために買って来たものなの……」
 楓は……時折、茅の発言の、どこまで本気でどこまでが冗談か、判別できなくなることがある。この時が、そうだった。
「……お夕飯の前ですよ……。
 今食べたら、カニが入らなくなるのでは……」
 楓が、ガクを窘めようとする。
 が、ガクは、
「……ボク、この程度なら、ぜんぜん平気だけど……」
 と、キョトンとした顔をしている。
「……お、おれだって! ケーキくらい!」
 すると、何故か高橋君が、ガクに対して、対抗意識を剥き出しにした。
「……あ、あの……」
 楓は、今度は高橋君を、宥めようとする。
 以前、ケーキの大食い大会になった時も……ガクたちは、楓や孫子よりも大量のケーキを平らげ、なおかつ、平然とその直後に夕食も食べていた。
「ガクちゃんたちは、その……そういう所は、かなり特殊ですから……」
 張り合うこと自体に、意味がない……と楓が、説明と説得をすればするほどに、高橋君は、どんどん頑なになっていく。
「……楓さん、楓さん……」
 鈴木君が、楓に向けて手を振った。
「こいつ……工場で、同じくらいに見えるテンさんに、こてんぱんにやられたんで……意地になってるんですよ……」
 なるほど……確かに、高橋君は、テンやガクたちと同じくらいの年頃に見える……。
「とりあえず……お茶が入ったの……」
 茅が、湯気の立つティーカップを全員に配りだした。
「……砂糖もレモンも用意しているけど、最初の一口は、ストレートで飲んでほしいの……」
 半信半疑の顔でカップを手に取った四人組は、一口はカップの中身を啜った途端、驚愕の表情を浮かべた。
「……あ……」
「こう……ふわぁっと……香りが……」
「……口の中に広がって……」
「紅茶って……こういうもんだったのか……」
 口々にそんなことを口にする四人組。
「……このケーキも……」
 茅は、マンドゴドラの箱の梱包を解いて、中身を見せる。
「普通のとは、違うの。
 マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ。
 味わって食べなければ罰が当たる逸品。くだらない意地の張り合いに使うと、マンドゴドラのマスターが泣くの……」
「……お言葉は、ごもっともですが……」
 田中君は、額に冷や汗を浮かべている。
「これ……どのみち、食前に気軽にぱくつけるって代物ではありませんよ……。
 ……な、高橋!」
「……うっ……」
 高橋君の顔色は、すっかり青白くなっている。
「マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ」は、その名の通り、基本、チョコレート・ケーキなのだが……ベースの上には、こんもりと生クリームだのホイップ・クリームだのが盛り上がっていた。おまけに、一片のサイズも、かなり大きい……。
 かなりの甘党でないと、食べ終わったころ胸焼け必須、といった代物だった。
「……第一、これは、四人に今日のお礼として買って来たものなの。ガクの分は、明日の帰りにでも貰って来るから、今日は我慢するの……」
 茅がそういいかけると、
「いや……おれの分を、ガク君に進呈しよう……」
 ゴツい顔をした佐藤君が、そういいだした。
 顔全体に、冷や汗を浮かべている。
「おれのも……やるよ……。
 なんだったら……高橋に、でもいいけどさ……」
 田中君も、今までの軽薄さを拭い去り、いつになく真剣な顔をして、そういう。
「……って、いうか……やっぱり、夕食の後にした方がよくはないか? あるいは、持って帰るとか……」
 鈴木君が、高橋君にそういった。
 高橋君も、蒼白になってコクコクと頷く。
「……なに?
 みんな、いらないの? じゃあ、ボクだけ先に頂いちゃうね……」
 ガクは、手づかみで「マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ」をつかみあげ、あっという間に一個、平らげて見せた。
「……お前、最強だな……」
 高橋君は、ガクに向かって、そういった。




[つづき]
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