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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(88)

第六章 「血と技」(88)

「……えっとぉ……」
 荒野に、テンと茅のことを託された楓は、困惑した。本格的に、他人に教える、というのも……楓にとっては、はじめての経験だった。
 幸い、いろいろと問題の多い茅は、先程から自主トレを続けている。
「……では……テンちゃん、軽く、組み手、いってみましょうか……」
「……素手で?」
 テンが、聞き返す。
「そう……ですね……」
 楓は、今までのテンの動きを振り返る。
 テンは、防御に自信がある戦い方をする。それは、自分に向かって来る大半の攻撃を、的確に弾くことができる……という、実績に基づいた自信から、なのだが……反面、棍や手足で攻撃をあしらうことが前提になっていて、細かい足捌きは、おなざりになる傾向があった。
「じゃあ……素手で、いってみまようか……」
 そこまで考えた上で、楓は、テンに向かう。
「……え?」
 テンが、はっと気づくと、楓の顔がすぐ目前にあった。
 慌てて飛びのこうとすると、その軸足を軽く払われる。
 テンは、ころん、と地面に転がった。

「……テンーッ!……。
 足使え、足ぃ!」
 胡座をかいて見物を決め込んでいたガクが、野次を飛ばす。
 ガクはガクで、
『……こうして、落ち着いて見ていると……』
 今までの見えてこなかった部分が、見えてくるもんだな……と、感心した。

 テンが起き上がり、態勢を立て直すまで、楓は攻撃をせずに待っていた。
 テンが構えを取ると、今度は、テンから見て左側に出現する。
「……このっ!」
 手で、楓の体を払おうとすると、逆に、その腕を取られた。次の瞬間には、がっちりと膝を決められている。
 そのまま楓が倒れ込めば……ガクの左肩は、あっさりと脱臼することだろう。
「……動きが、直線的です」
 楓は、昨日、荒野にも指摘されたことを、テンの耳元に囁いて、体を離した……。

 延々と続くテンと楓の静かな組合いを見物していたガクは、
『……こういうことか……』
 と、妙に納得していた。
 確かに……パワーもスピードも、単体の要素を取り出せば、ガクの方が、楓よりも数段上手だろう。しかし、実際に組み合って見ると……。
『……ボクたちは、今のままでは……勝てない……』
 ガクは、テンと楓の今の様子を見て、そう判断する。
 楓の動きは、テンのそれに比べると、遥かに精妙で臨機応変……いくら、力や速度で勝っていても、目標物に接触できないようでは、どうしようもないのだ。
 楓の方は、テンの動きを読んで、先手先手に動いて、いいように翻弄している……。
『ハードウェア的な性能差では……』
 乗り越えられない壁を、テンは、楓の動きから感じた。
 楓で、あの動きができるのだとすれば……もっとベテランの忍は、いったいどのような動きが可能なのか……。
 楓のあれが、一族の標準的な動きだとすると……。
『たとえ、相手がよれよれの年寄りだとしても……』
 勝てる気がしないな……と、ガクは思う。
 そもそも……自分たち三人の身体能力は……ヒトの形の中では、オーバースペックもいいところなのだ。人間一人を殺すのには、自分たちの過剰なパワーなど、いらない。
 ……普通の一般人の、脆弱な力でも……やり方さえ、心得ていれば……簡単に、壊すことができる。
 必要なのは、そのための技術や知識であり……。
『一族は、何十世代にも渡って、そういうノウハウを蓄積してきたんだ……』
 そういう相手に向かって……多少、身体能力が秀でていたとしても……それほど突出したアドバンテージには、ならないだろう……と、ガクは、結論する。
『ボクは……ボクらは……』
 一族の技を吸収し、身につけていかなければならない……と。
 そして、今後、敵対することが予測される襲撃者たちが……ガクたち以上の能力を持っている、と予測しながらも、荒野が、そのことを過剰に警戒していない理由も、飲み込めた。
 個体の、フィジカルな能力による優位性、など……いくらでも、埋め合わせることが、可能である……ということを、荒野は、肌で知っているのだ。
『……早く、怪我……直さなくちゃ……』
 ガクは、自分の手を見つめる。

「……随分、派手にすっ転んでるな、あの人たち……」
 飯島舞花が、目の前の展開している光景を、そう論評した。
「才賀のあれは……古流とか古武術とかいうやつかな?
 ほら、すり足だろう?
 甲冑とか着込んだままの相手を、倒すための技だな……」
 実家で伝わっているものを、仕込まれていたのだろう……と、荒野は推測する。
 その性質上、手足による打撃よりも、投げ技や関節技が主体になる。もっとも、四人は、孫子が関節技を使う間も与えず、次々と挑んでは景気よく投げ飛ばされているが……
「……あの四人組も……あまり真面目に、技の鍛練をしてこなかったクチだな……」
 一般人以上の能力を、生まれながらにしてもっていることが多い一族の中では……そうした「本人の努力不足」により、半端な、使えない人材に振り分けられるパターンは、実は多い。
 何故なら……「生来の資質にプラスして、厳しい自己鍛練を欠かさなかった人材」の方に、優先的に仕事が回されるからだ。
 どんな社会にも競争はあり、競争があれば、落ちこぼれも生まれる。
 四人組は、自分自身の怠惰によって、仕事にありつけなかったクチだな……と、荒野は判断する。
 四人で一斉にかかりながら……孫子一人で、順番に、いいように投げ飛ばされていた。
『……彼らにとっても、いい経験だろう……』
 テンのような特別製に、ではなく、孫子にいいようにあしらわれた彼らが、今後、どのように振る舞うのか……。
 一層精進して、一族の中で、より上位のヒエラルキーを目指すもよし、「適性なし」と判断して、足抜けして一般人として暮すもよし……どちらにせよ、「いい経験」には、なる筈だ……と、荒野は思う。

「……楓……」
 テンとの組み合いに夢中になっていると、不意に、背後から茅に声をかけられた。
「そろそろ、茅の相手もして欲しいの……」
 そういう茅は、寸前まで走っていたのか、息があがっている状態だった。
 一瞬、返答を躊躇した楓だったが、すぐに思い直す。
 よくよく考えてみれば……茅がはやめにあきらめてくれた方が、楓も荒野も安心できる訳で……。
 だから、楓は、テンに声をかけて、テンとの組み合いに区切りをつけ、茅に向き直る。
「……それでは……来てください」
 楓は、茅にいった。
「やる以上は……手加減をしません……」
 瞬間……茅の姿を見失いそうになる。
 楓は、慌てて全身の感覚を研ぎ澄ませ、茅の気配を探る。
 そして、いつの間にか背後を取られていたことに気づき、自分から、前方に転がり、あわてて茅から距離をとった。
 茅は……正面から戦うのには向いていなかもしれないが……いい、暗殺者には、なりそうだな……と、楓は思った。
 それから、気を引き締めて、茅の動きに集中する。
 真面目に取り組まないと……楓でも、優位を保てそうになかった。



 
[つづき]
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