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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(87)

第六章 「血と技」(87)

「てか……人数、増えているし……」
 翌朝、着替えた荒野と茅がマンション前まで出向くと、テン、ガク、楓、孫子といったいつもの面子に加え、昨日の四人組と、飯島舞花までもが勢揃いしていた。
「まぁまぁ、おにーさん。
 大勢の方が、楽しいし……」
 舞花は、ストレッチをしながら荒野をいなす。
「ま……いいけどな……」
 今までの経験から、文句をいうのも無駄だ、と知っている荒野は、人数が増えた件には、それ以上触れなかった。
「「「「……お願いしまーす!」」」」
 荒野がなにを考えていたのかも知らず、四人組は、声を揃えて頭を下げた。

「……なんか、部活の朝練みたいだな……」
 ストレッチを終え、全員で走りだすと、舞花は荒野に話しかける。
「水泳部も、朝練をやるのか?」
 荒野は聞き返した。
「……やらない、やらない。
 うちの部員、そんなに熱心なのいないし……朝練やるなんていったら、反乱起きちゃうよ……」
 荒野たちが通うのは、ごく普通の公立校である。スポーツで全国区に名前を売るような野心を持つ教員もいないから、運動部の活動も、勢い、そこそこ止まり、という程度になってしまう。
 舞花は、そんなことを荒野に説明する。
「部活に熱心なヤツは、それなりにいるけどね……。あくまで、そのスポーツが好きでやっているヤツがちょこちょこいる程度で、そういうのは、少数派かな?」

 いつものように、過rだを暖めるためにあまり早くないペースで橋を渡り、中州の河川敷に降りる。
 茅は、早速、全速力でのダッシュを開始する。
「茅ちゃん……短距離、意外に、早いな。
 タイム図ったら、結構いい線いくかも……」
 舞花が、そういう。
 学年が違う舞花は、茅がまともに運動する所を見るのは、これが初めてだった。普段の茅のイメージからして、このように体を動かしているところを、想像するのが難しい。
「一般人しては、な……」
 荒野は、素っ気なく答えた。
 茅自身が求めているのは、自分の身で一族に対抗できるほどの力を持つこと……で、現状を鑑みれば、荒野には、かなり遠い希望のように思える。
「……楓!」
 荒野は、楓に声をかける。
「テンと茅を、頼む!」
 すかさず、
「……えー! ボクはぁ?」
 と、ガクが不平をならした。
「お前は、見学。
 傷が塞がりきるまでは、見ているだけにしろ。それに、力を抜くことも大事だと、昨日いっただろう……。
 いい機会だから、自慢の力を使わない戦い方でも、静かに考えてろ……」
 荒野は、ガクにはそう言い渡しておいた。
 三人の中で、先天的な資質に依存する度合いが最も大きいのが、テンであり……それは同時に、弱点にもなりえた。
「……力を使わない、戦い方?」
 荒野の言葉がよほど意外だったのか、ガクは、かなり面食らった表情をしている。
 しかし、すぐに思案顔になり、
「そう……か。そう、だね。
 いろいろな方法を身につけておいた方が……応用が、効くか……」
 とかぶつぶつ呟いたかと思うと、そのまま地面にどっかりと胡座をかいた。
「わかった!
 しばらく、傷が癒えるまで、見て、考えるだけにしておく!」
 このような素直さは、ガクのいい資質だな……と、荒野は思う。
「あと、は……」
 荒野は、残った面子を見渡した。
「……君たち、か……。
 じゃあ……ちょっと、軽く手合わせしてみようか?」
 荒野は四人組に掌を指しだし、ちょいちょい、と手招きをした。
「君たちの実力も、知っておきたいし……面倒だから、全員でかかってきていいよ。武器の使用も可。こっちは、もちろん素手で、手加減するから……」
 四人組は、しばらく、困ったような顔をしてお互いの顔を見合わせていたが、すぐに真剣な表情で頷き合い、荒野を取り囲む配置についた。
 そして、四方から一斉に荒野に躍りかかり……気がついたら、全員、地面に転がっていた。
「……なるほど。実力は、だいたいわかった……。
 どうする? 君たちさえよければ、軽く鍛え直すこともできるけど……その代わり、今の状態から、どうにか使い物になるレベルにまでもっていくには……かなり、きつい鍛錬が必要になるよ……」
 平素通りの口調で、荒野は淡々と告げる。
「……見てろって……まるで、見えないじゃん……」
 その時になって、荒野たちの方に目を凝らしていたガクが、呆然と呟く。
 ガクには……荒野の動きが、まるで視認できなかった。
 ガクにも感じ取れないほど、完全に気配を絶ったのか……それとも、動きが速すぎて、ガクの目では追えなかったのか……。
「ガクちゃん……今の、何?」
 ガクと同じく、荒野の方をみていた舞花も、呆然としている。
「おにーさん、消えなかった? で、他の人たちが、ころん、って転がっていて……」
「相変わらず……非常識ですわね……」
 孫子も、眉間に皺を寄せている。どうやら、同じように荒野の動きを感じ取る事が出来なかったらしい。
「……この人たちよりも、才賀の方が、まだましかなぁ……。
 どう、才賀。
 この人たちと、ちょっと手合わせしてみる?」
「……荒野さん、冗談きついっすよ……」
 佐藤君がゴツい頬を紅潮させる。
「荒野さんになら、ともかく、おれたちが、とっくみあいで才賀衆に遅れをとるなんて……」
「……と、佐藤君は、いっているけど……。
 才賀、こういう偏見は、放置しておかない方がいいと思わないか?」
「……乗せられて、差し上げますわ……」
 孫子は、やれやれ、といった態で、肩をすくめた。
「佐藤さんという方……それから、他の方でもいいですけど……。
 一族の技も含めて、全力でかかってきても、よろしくてよ……」
「……いきます!」
 孫子のその言葉を聞くと、田中は、すぐさま立ち上がって、直立不動の姿勢になる。
「一番、田中太郎! 行かせていただきます!
 ……才賀さ~ん!」
 田中君は、相互を崩しながら気配を絶ち、孫子に抱きついた……と、思ったら、投げ飛ばされていた。
「……あー……」
 荒野は、若干白けた気分になりつつも、改めていい添える。
「才賀……姉に、若干の術理を習っているから……あまり巧妙ではない気配絶ちくらいなら、見切れるから……」
「荒野さん……遅いっす……」
 いやというほど地面に背中を打ち付けた田中君は、大の字に寝そべりながら、恨めしそうな目つきで荒野を見上げた。




[つづき]
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