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彼女はくノ一! 第五話 (224)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(224)

 荒野たちのことを聞きたい、というこなら……と、まず楓が立ち上がって有働の前にでかけたが、これは他の部員が慌てて制止した。早々に茅帰宅した今、楓にまで抜けられると、全体の作業進行全体が遅くなる。
 それに、「……松島さんは、当事者ですから……」と、有働勇作もやんわりと断ってきた。
 今回、有働が集めたいのは、「彼ら」を迎えた周囲の、普通の生徒の談話なのである。
 パソコン部員たちがその場でごそごそと話し合いを行った上、加納兄弟と早くから付き合いのあった堺雅史が、皆に小突かれるようして有働勇作の前に引っ張り出された。楓や孫子も含めた「加納兄弟の一党」に縁が深いのは、実は堺雅史というよりは柏あんななのだが、そのあんな経由で、堺雅史が早い時期からそうした面子と関わりを持ってきたことは事実だ。それに、堺雅史はパソコン部員だが、柏あんなはそうではない。
 堺雅史が、
「……じゃあ、ここでは落ちきませんから、放送室の方へ……」
 と先導する有働の後についていくと、柏あんなも当然のようにその横に並んで歩いていく。

「……なんにもありませんが……」
 といって、有働は紙コップにいれたインスタント・コーヒーをすすめてくれた。
「……火、使えるんですか、ここ?」
 差し出された紙コップの中身をみて、柏あんなが疑問を口にする。
「まさか」
 有働は首を振った。
「……玉木さんがね、いろいろと持ち込んでくるんですよ……。
 ここ、放送中っていうことにすれば、よっぽどのことがなくては、先生も立ち入りませんし……」
 そういって、部屋の隅に置いてある電気ポットを指さす。
 この放送室には、昼休みや放課後も、放送部の生徒が常駐して校内放送を行っている。ほとんどありものの音楽を流しっぱなししているだけだが、それでも玉木のような目端の利く生徒がいれば、あっという間に不審物の倉庫になるのだった。
「……あ。砂糖とミルクは、これ使ってください……」
 有働は、下級生である柏や堺に対しても、あくまで腰が低かった。
「……それで、取材って……」
 そんな有働に対して、柏あんなが本題を切り出す。
「ああ。はい……」
 有働は、背筋を伸ばした。
「例の、加納君たちのことなんですが……周囲の反応の変化を、ぼく個人の興味で追っています。これは、以前から……しかるべき時が来るまで、公表はしない、という条件付きで、加納君自身からも許可を得た上での取材です……」
 有働が口調を改めて、淀みなく説明する。
「ぼくは……ぼくや玉木さんは、ひょんなことで、他の生徒たちよりほんの少し……とはいっても、わずか数日の差、なんですが……加納君たちの正体について、知ることができました。
 その時に、彼らがここで平穏に暮らせるよう、協力する、という条件で、彼らの取材を行うことを、許可して貰ったわけです……」
 そうして整然と話しはじめると、普段は穏和な印象が強い有働の目線が、いきなり力強くなったように感じる。
 柏あんなは、隣に座る堺雅史の腕を肘で小突いた。
「……あっ……と。
 あの……お話し……有働さんの趣旨と立場は、わかりました……」
 あんなに即された堺は、おずおずと話しはじめた。柏あんなは、そんな堺雅史の腕を、さらに肘でつつく。
「もっとちゃんとしたことを話せ」、という意味らしい。
 ……こういうややこしいことになると、こっちに廻してくるんだから……と、思いながら堺雅史は言葉を続けた。
「……それで……どういうことが聞きたいんですか?」
「……あ。はい。
 今の時点では……彼らの正体を知った時、どういうことを思ったのか。
 それに、知る前と、知った後と……彼らに対する考え方や接し方が、変わったかどうか……ですね……」
「……随分と……」
 柏あんなが、有働を軽く睨む。
「……聞きにくいことを、平気で聞くんですね……」
 あんなは、その「前後」とやらで、少なからぬ動揺を経験している。
「……はい……」
 と、有働は真顔で頷いた。
「基本的に、ジャーナリズムというのは……いろいろ難しいことをいう人もいますが、その基本的な機能は、野次馬の代行者です。野次馬というのは、他人の事情にまで鼻を突っ込みたがる悪趣味な代物なのです……」
「……有働先輩が真面目な人だということは、わかっています」
 堺雅史が、静かに告げる。雅史は、有働の偽悪的な韜晦を意に介さない。
 ボランティア関係で、不法投棄ゴミ問題を追いかけている放送部員たちの、中心になってのが有働だった。日々ネット上にアップされているテキストの半分以上を、この有働がまとめている。最近ではそれに加えて、取材やレポートだけではなく、ゴミを投棄された場所の地主にまでかけあって、具体的なゴミ処理の計画まで進行させている。今ではパソコン部には多くの放送部員が出入りしているし、ネットにアップする情報の整形などは、パソコン部員と放送部の共同作業といっていもいい。だから、有働がどれほどの労力を傾けているのか、嫌でも目に入ってくる。
「何故、そんな取材をするのか……もう少しちゃんと、聞かせてください。
 でないと……ぼくは、構いませんけど……あんなちゃんが、納得しません……」
 そんな有働が……軽はずみな興味本位で、このようなことを聞いてくる筈がないのだ。
「彼女……これで、怒らせると、怖いですよ。空手の有段しゃ……」
 堺は言葉を言い終えられなかったのは、柏あんなが有働の目が届かない机の下で、堺の足をいやというほど踏んづけたから、だった。
「……ああ。はい。わかりました。
 では、柏さんにも納得できるような言い方をすると、ですね……。
 ぼくは、彼らが、この学校で、町で、見事に受け入れられるのか、あるいは、受け入れられずに終わるのか……それを、見届けたいんです。
 それも……受け入れられるとすれば、あるいは、排除されるとすれば、どのような経過と段階を経て、そうなるのか……できるだけ、詳細にわたって知り尽くし、それを、公表できるようにまとめたいんです……」
 有働は、相変わらず穏やかな物腰でそういった。
「なんでそんなことをしたいのかというと、これはもう、個人的な興味に属することで……だから、野次馬根性というのは、決して間違ってはいないと思いますが……」
 そういう有働の目は、笑っていなかった。




[つづき]
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