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彼女はくノ一! 第五話 (225)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(225)

 堺雅史と柏あんなは、顔を見合わせ、頷き合う。
「……わかりました……」
 その後、柏あんなは、有働勇作に向き直った。
「それで……何から、話せばいいんでしょうか?」
「その前に……ちょっと失礼します……」
 有働がボイスレコーダーを取り出す。これは、有働の私物ではなく放送部の備品だった。
「録音を、させてください……」
「それ……まとめた終わったら、ぼくたちの分は、内容をチェックさせてもらえるんですよね?」
 堺が、すかさず確認する。
「もちろんです」
 有働も、即座に首肯した。
「それと、都合の悪い質問には、ノーコメントといってくれて構いません」
 有働の境や柏への接し方は、あくまで丁寧だった。
 柏あんなは、有働が何故放送部員たちに一目置かれているのか、わかったような気がした。
「……それでは、ここから、録音します……」
 有働はボイスレコーダーのスイッチを入れ、二人の話しを聞きはじめた。
「お二人が……あの人たちに会ったきっかけは? それに、初対面の時の印象なんかも……」
「ぼくは……あんなちゃん経由で紹介されて……」
「わたしは、おねーちゃん……姉に、冬休み限定のバイトがあるって聞いて、それは同人誌のお手伝いだったんですけど……」
 有働は、メモをとったり時折質問を差し挟みながら、二人の話しを興味深そうな顔付きで聞いていく。
「……最初、その家……狩野君、一年の方の狩野君、なんですけど、狩野君の家にいった時、きれいな女の人ばかりでびっくりしました。一人一人、名前を紹介されて……一緒にいた樋口先輩なんかもそうですが、なんか硬くなっちゃって……途中で、松島さんと才賀先輩が、商店街でクリスマスの時、サンタとトナカイをやっていた人たちだと気づいて……。
 あ。バイトというのは、学校には内緒で……」
 独演会になりかけた所で、柏あんなは有働の顔色を伺う。
「わかりました。その辺は、別に重要ではないので……ただ単に、羽生さんの同人誌を手伝いにいって、とか、ぼかしておくことにします」
 有働が、頷く。
「……確かに……彼女たちが、一カ所にまとまっていると……非現実的な雰囲気になりますからね……。そこだけ、ぼくたちとは、なんか別の世界というか……。あ。柏さんも、その一人なんですが……」
「……ええっと……。
 それで、ですね。その時は、きれいな人たちばかりがいるな、と思って終わりだったんですけど、その後、例の三人がいつの間にか、あの家に住み着いていて……」
「……あの三人の出現は、加納君にとってもイレギュラーな出来事だったようです。
 彼も、かなり焦ってましたから……」
「そうなんですか?
 加納先輩……表面にはあまり出ませんけど、よーくみてると、割りと動揺しすい所がありますよね……」
「はい。
 繊細な所があるのに、本人はあまり自覚していないというか……」
 有働は、玉木を巡って三人組と楓、孫子が争った時、なにかを達観したような荒野の表情を思い浮かべて、あんなの言葉に頷く。
 なんだかインタビューというよりは、情報交換になってきている。
「……話しを元に戻すと、その三人組も含めて、実際につきあってみると案外、普通の子だと思いました。外見以外に、時折、変なことに無知だったり、逆に、特定の分野にとっても詳しかったりして、違和感を感じることもありましたけど……」
「……楓ちゃんと茅ちゃんのアレのおかげで、パソコン部はかなり助かっています……」
 堺雅史が、口を挟む。
「はい。
 放送部も、助かっています」
 有働も、頷く。
「でも……そういうのって、この学校には徳川先輩みたいなのも、一年の狩野君もいるし……。偶然というにはアレですけど、まあ、アリかなって……納得していた矢先に、この間の週末の……」
「……加納君の、あれ、ですか……」
 パソコン実習室に侵入して来た部外者を、荒野が実力で排除する時の様子を、あんなと堺、それに、その場にいたパソコン部の生徒は実際に目撃している。
 なんの前触れもなく、いきなり起こったアクシデントだから、彼ら、目撃者たちも、かなり動揺した筈だ……と、有働は考える。
「やっぱり……驚きましたか?」
「驚いた、なんて半端なものではないです!」
 柏あんなが、声を高くする。
「あんなの……人間技ではないです!
 わたし、自分でも空手をやっているから、他の、何にもしていない人よりは、その、人間の限界っていうのを、理解しているつもりですけど……ああいうのは、その限界、軽く越えています……。
 それに……」
「……それに?」
 そこでいきなり言葉を噤んだあんなを、有働は、怪訝な表情で見返す。
「わたし……空手やってるから、想像つくんですけど……あれだけの素早さとか瞬発力が産むエネルギー……いえ、もっとはっきりいえば、破壊力は……相当な、ものです……。
 楓ちゃんや加納先輩のような人たちだから……それに、昨日、大勢来てた人たちも、感じが良さそうな人が多かったですけど……その、普通に考えれば、あの人たちは……そこいらにいる人が、常時、凶器を所持して、武装しているのと、変わらないです……」
「……なるほど……」
 有働勇作は、頷く。
 柏あんなの反応……「彼ら」という存在への、漠然とした不安……は、有働が何種類か予測していた反応パターンのひとつに合致する。
「それで……柏さんは、可能性の問題として、彼らが危険な存在になりうるから……という理由で、彼らを我々の生活圏から排除するべきだ、と……そう、思いますか?」
 有働はこの時、「彼ら」とか「我々」という語を、選択的に用いている。荒野がどんなに同化しようと努めても……違うものは、違うのだ。
 その異物同士が、どのような関係を築けるのか……築くことが、果たして可能なのか……。
 有働の興味は、実は、その一点になる。
「……有働先輩は……本当に、聞いてほしくないことを、ずばりと聞いて来ますね……」
 柏あんなは顔を伏せて、かなり長い間、沈黙した。
 そして、再び顔を上げた時、泣き顔と笑い顔が入り混ったような、かなり複雑な表情をしている。
「……わたし……飯島先輩ほど大物ではありませんから、全てをあるがままに受け入れる度量なんて、ありません。
 怖いものは怖いし……昨日の人たちだって……一年の狩野君を人質に取ろうとしたくらいだから、全員が善良な人たちだとも、思わない。
 でも……楓ちゃんとか加納先輩とかは、信用出来ます。それで……。
 加納先輩たちなら、昨日、工場にいた人たちも、いざとなれば実力を行使しても、静かにさせることができます。
 だから、わたしは……あの人たち、というよりも、加納先輩たちを、信用します……」
 長々と語った柏あんなの声は、震えていた。
「……わかりました」
 有働勇作は、そう答えて柏あんなへの質問を打ち切った。
 これが、今の時点での、柏あんなの本音だろう……と、有働勇作は、そう判断する。
「……それでは、今度は堺雅史君に同じことを聞きたいと思います。
 まず、堺君は、彼らとは、どういう出会い方をしましたか?」
「……ぼくの場合は、あんなちゃん経由で紹介されて……というか、遊びに行こうと誘われていったら、彼らもそこに混っていた、という形です。
 初詣やプールにもいっしょにいったし……」
 堺雅史は、有働の質問を半ば予期していたのか、すらすらと答える。
 一通りの経緯を聞いた後、有働は堺にも、あんなと同じ質問を繰り返した。
「堺君は……彼らは、危険な存在だと、排除すべきだと、思いますか?」




[つづき]
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